トイレ個室内にサイネージを設置する2社から学ぶ「社会受容性」の獲得

Digital Signage/IoT /

閉鎖空間で一定の接触時間を確保できることから、トイレ個室内にデジタルサイネージを設置して広告媒体として活用するアイデアは古くからあり、2008年に羽田空港、2013年には関西国際空港に設置されるなどした。ただ、広告売上が芳しくなく、そこからあまり普及はしなかった。

ところが最近になって、再びトイレ個室内サイネージがいくつか出てきている。ひとつが、デジタルサイネージを内蔵した生理用ナプキンディスペンサーのOiTrだ。2021年6月、三井不動産とオイテルは、ららぽーと富士見の女性トイレ全個室(141台)に生理用ナプキンを配布するサイネージ内蔵サニタイザーを設置すると発表した。

利用者が個室トイレに入室し、便座に座るとセンサーが検知してサイネージに広告が放映される。専用アプリをインストールしたスマートフォンをかざすと、生理用ナプキンが排出される。ナプキンの費用は、デジタルサイネージ広告による売上から賄われるため、利用者は無料で使用できる。

もうひとつが、バカンの「AirKnock Ads」だ。同社では、センサーを使ってトイレ個室のリアルタイム混雑情報を収集し、トイレのそとにあるデジタルサイネージやウェブサイトに混雑状況を表示するサービスを提供している。センサーだけを取り付けると、ロケーションオーナーが設置および運用にかかる費用を負担することになるが、個室内にデジタルサイネージを設置し、そこに動画広告を配信するAirKnock Adsであれば、その費用を軽減できる。

空港のトイレサイネージは広告収益が目的で、メディアオーナーとロケーションオーナーの都合だけで設置されていたのに対し、新しく出てきたこの2つのデジタルサイネージは「経済格差やジェンダーギャップといった不均衡の是正に寄与したい」(オイテル)「いま空いているか1秒でわかる、優しい世界をつくる」(バカン)との理念を実現する手段であり、そこにはトイレ利用者にとっての直接的なメリットがある。そのため、トイレ個室内にデジタルサイネージやセンサーを設置することが受容されやすくなり、設置台数も出やすく、結果としてメディア化も容易になる。

トイレの利用情報は施設運用や設備メンテナンスなどに有用なため、トイレ個室内をターゲットにしたセンサーやデジタルサイネージは、これからも普及が進むと期待される。ただ、センサーの利活用は、どうしてもセンシングの対象となる生活者に不安感を与えてしまう。とくにトイレ個室のようなパーソナル空間であればなおさらだ。そのようなロケーションにおいては、社会受容性をどのようにして得るかが極めて重要だ。オイテルとバカンは、それを得るためのメッセージが大変に優れている。トイレに限らず、これからのIoT/AIの利活用を目指す事業者にとって、大変参考になる事例ではないだろうか。