エッジAIの産業分野への浸透が始まる

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GASKETでも何度か取り上げたが、エッジAIが少しずつではあるが、その概念が理解され始めていると思う。おさらいとしてもう一度エッジAIを振り返ってみよう。

エッジAIの必要性が一番わかりやすいのは、プライバシー問題の解決だ。コロナ禍の今、店舗の密情報を顧客に配信する、というのは重要なサービス、付加価値ポイントとなり得る。この時、店内のカメラの映像を生で配信することは決してできない。個人の情報が流れてしまうからだ。この場合、カメラの画像をAIで解析して人数を推定し、その推定データだけをサーバー経由で配信すればプライバシー問題は起こらない。

二番面の例はレイテンシの問題だ。自動運転のAIがサーバーにあるとしたらレイテンシの問題で危険を回避することは不可能だろう。(そもそも通信が担保されるとは限らない)

そして今後もっとも発展と普及が期待される分野は製造業、すなわちFA分野でのエッジAIの活用だと考えられる。

例えば、工作機械内部のモーターなどは一つの工場に一体いくつあるんだ、というほど存在する。この異常検出や故障予知をセンサーを接続することでやりたい、と言った場合、すべて同じ構造ではないので、極論言うとその数だけ学習モデルが必要になる。例え学習モデルがひとつであったとしても、数百個になるセンサーにゲートウェイをつないでLAN(無線でも理論的には同じ)で配線することは不可能に近い。

また、製造している品目が変わったりすると、再学習の手間、新しいモデルの適用など運用面でもほぼ不可能になってしまう。エッジAIどころか、“エンドポイントAI”、つまり、センサー自体にAIの機能が含まれているというコンセプト、ソリューションは間違いなくやってくる。この時に問題になるのが、CPUの性能やメモリの問題だ。

画像処理技術はさておき、振動データや温度データなどからの解析で対処可能な場面は沢山ある。しかし、ディープラーニングではCPUパワーもメモリもそれなりのモノを要求してしまう。学習時間も長いので、エンドポイントAIにはコスト面、運用面でムリがある。

株式会社エイシングというAIベンチャーが存在する。主にFA向けのAIソリューションを提供している会社だが、ここの技術が凄い。ディープラーニングではなく、元々はランダムフォレスト(木構造)をベースにしたアルゴリズムが得意でCortex-M0+などのプロセッサでリアルタイムにエッジ側で学習を行えることを可能にした。さらにMSTなるアーキテクチャも発表し、さらなる省メモリを実現しているという。認知の問題はあるだろうが、エイシング社のテクノロジーはエッジAIの世界を変える可能性がある、と筆者は思っている。

CV(コンピュータビジョン)でのAI活用はすでにレッドオーシャンになりつつあり(アルゴリズム的な面。エンジニアリング、実装という意味ではきちんとしたソリューションはあまり存在していない)、競争も激しい。あえて、CNNなどのディープラーニングではない手法でエンドポイントAIを目指すエイシング社の姿勢には日本のベンチャーが見習う必要があるかも知れない。