国内初の車窓モビリティサイネージサービス「Canvas」を体験して思ったこと

Digital Signage /

タクシーの車窓をデジタルサイネージとして利用するサービスが2021年から開始になる。先日その発表会が行われ、実車を確認する機会があったので視認状況を確認をすることができたので、実体験に基づくレポートをしておく。

GASKETではすでにこのCanvasを記事化しているが、車窓モビリティサイネージサービス「Canvas」は、東京都内最大級のモビリティメディア「THE TOKYO TAXI VISION GROWTH」を運営する株式会社ニューステクノロジーとタクシーアプリ「S.RIDE」を展開するソニーグループのS.RIDE株式会社が2021年6月より開始する。Canvasはタクシーの車内、運転席後部の天井付近に取り付けたプロジェクターの映像を、助手席後方側の車窓に貼り付けたAGCの特殊なスクリーンGlascene(グラシーン)に投影し、広告媒体として運用するものである。ニュースリリースで概要は確認いただきただきたいが、GASKET的には視認性が最も気になるところだ。

実際に体験したのは良く晴れたた夕方の4時位で、屋根があるビルのエントランス部分の車寄せのような場所に駐車した状態である。写真でわかるように真っ暗ではなく、完全な屋外ではない。晴天時の外光が降り注ぐ場合と真っ暗な場合の中間くらいといえばいいだろうか。

下の写真はサイドウインドウをほぼ正面から見た様子。デジタルカメラで撮影を行っているが、実際の見た目とほぼ同じくらいに写っていると思っていただいて問題ない。ボディーやガラス面には多くの映り込みがあるので、映像は決して見やすいものではない。

映像の明るさが不足している感じは否めず、映り込みも多い。

車内に設置されたププロジェクターは既存の市販品とのことだ。輝度は教えてもらえなかったが、70%くらいの明るさで固定してあるとのこで、周囲の明るさの状況によってで可変されるものでは無いそうだ。プロジェクター自体の大きさは乗車していて気になるようなことはない。現状の法規では、走行中に動画を表示することは基本的には難しく、静止画であれば可能だと思われる。Canvasは乗客が乗っているときには点灯しないようにするようで、夜間にもしも点灯されると乗客からはプロジェクターのランプの明るさが気になるだろう。

pぷ小型のプロジェクターを使用しているので圧迫感を感じることはない

乗客の位置からウインドウのスクリーンを見た様子。グラシーンの透過型版を使用しているので、乗客からは映像はほとんど視認されることはない。乗客には助手席の背中に設置されている従来型のディスプレイがその役割を果たす。いわゆるスモークガラスが貼り付けられているくらいの見え方で、乗客からは車窓の向こうを見ることができるので、視界を妨げられるという印象は殆どない。

グラシーンの透過版を使用しているので車内からは映像は殆ど見えず、煩わしいということはない
車窓面を外から接写したもの。薄めのスモークガラスと言った感じだ
同じく外から。映像が投影されているがほとんど認識することはできず、映り込みが激しい
再び外の正面から。人物は映り込みだ。
更に離れて車全体を前方から。映像は全く認識できない。

Canvasはタクシーの空車時間に、車の外に向けて広告を表示するいわゆる車体広告の一種である。現状ではさまざまな規制があるので、走行中は静止画のみ、停車中は動画も表示することはできるだろう。

ここでCanvasの媒体特性を考えてみる。これは常に移動し続けるメディアであり、その移動先は制御できず、オーディエンスが刻々と変化するということになる。こうした媒体特性を生かした広告主が集まるのか、あるいは特定の広告主が素材の出し分けを行うということが起きるのかである。

ニュースリリースでは「将来的には従来の屋外広告の枠を超え、タクシー配車アプリ「S.RIDE」で取得した位置情報などのデータと連携し、ロケーションや時間帯に最適化した広告やその他情報を表示できるよう開発を進めていく方針です。」としているが、現実味があるのか。「東京に新たなギャラリーを」というコンセプトを掲げているので、媒体としてはロケーションベースやターゲティングのような複雑なことを考えずに、単純に自由自在に東京を動き回るメディアということでいいように思える。

これまでもタクシーの車体やリアガラスを広告媒体として利用した例はあるので、それのデジタル化といえばそれだけのことだ。だが今回はリアガラスではなくサイドガラスであることがどういう評価や効果をもたらすのか。

Canvasは現実的には夜間だけしか視認できない媒体になるので、東京中を縦横無尽に走り回るのではなく、繁華街やターミナルから周辺エリアの住宅地へ移動というルートになり、この中で乗客が実車していないタイミングということになると、広告として有効なのは深夜帯の都心部での客待ち時間帯なのではないだろうか。そこに複数台のCanvas装着車が連なっていれば、効果的な表現ができる可能性はある。果たしてそういった条件が揃い、それを活用できる広告主が現れるのか大変興味がある。

Canvasを映像を見てどこか既視感があるなと思ったのは、おそらく15年くらい前だったろうか、ヤマザキデイリーストアの道路に面したガラス面に、プロジェクターで映像を投影するデジタルサイネージ媒体があったのだが、あれと似たような見え方をしていると思った。オーディエンス側に見ようという意思が存在していないと認識できないようなものだった。

Canvasも自然体のままではとにかく目立たないので、見ようという意思が起こりにくい。そうであれば、その意思を作ればいい。

たとえばCanvas装着車両が集結できるような場所を予め何箇所か設定し、ここに集まった、いや場合によっては集めてもいいが、その台数や状況に応じて複数のスクリーンを連動、同期させながら、音も交えたビジュアルショーのような演出を見てみてはどうだろう。もちろん話はそんなに甘くはないだろうが、いずれにせよ、現状のスクリーンの明るさやサイズが街の中では空間に埋もれてしまうので、Canvasは相当思い切ったことを行う必要があると感じた。