バーチャル株主総会の実際は如何に

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経済産業省は2月3日(水)、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド 実施事例集」を発表した。これは昨年2月に同省が発表した「同・実施ガイド」の続編として、各上場会社によって行われてきた株主総会の実情や考え方を取りまとめたものである。以下、この事例集のなかから、特徴的なポイントをピックアップ、感想を交えて報告する。

2020年6月開催の株主総会における、ハイブリッド型バーチャル株主総会を実施した上場企業は121社であった。概ね5%程度の企業が実現したことになる。クルーズ船による集団感染が発覚したのが2月。新たに導入するタイミングとしては少々遅く、パッケージ化されたサービスを提供する企業も少なかったこともあり、実現したくても時間的に間に合わなかった企業も多かったのではなかろうか。ホテルの大会議場などの会場も確保済みであったことから、コスト的にもメリットがなかったのかもしれない。

バーチャル株主総会の実施数

役員の出席 ソフトバンクグループ(9984)は、議長を含め、説明者である役員はすべて遠隔地からのオンラインで出席となった。今や、ZOOM等での会議が当たり前、地上波テレビ放送でもコメンテーターが自宅から出演ということも普通となったが、昨年6月時点では、多少、違和感や疑問の声もあったかもしれない。 もっとも、現実に音声や映像等を用いて、コミュニケーションが確実に取れ、各役員の姿や表情を窺えればさえすれば、出席株主と同じ空間に存在している意味は無い。特に社外役員は、総会開催地と離れて居住していることもありえ、また他の「本業」もある。バーチャル株主総会でなくても、会場にモニターを設置して映し出すなど、比較的平易に実現できるし、何らかの障害があっても、リスクは低いため、今後導入は拡大すると思われる。

議決権行使方法 これは比較的面倒な対応が必要のようだ。まず、議決権行使は、従前の A:書面送付による事前の賛否表明 B:インターネットを介した事前の賛否表明 C:実際に出席して当日賛否表明 に加えて、 D:オンライン出席での当日賛否表明 する方法が加わることになる。 単純には、それぞれの方法による結果を合算するだけだが、実務上面倒なのは、AorBで事前に賛否表明し、かつ「出席」した場合だ。オンラインを想定しない C:実際に出席 する際の実務対応では、会場で「受付」がなされた時点で、A、Bの投票は無効となり、実際の議事進行中で表明した賛否が有効となる。D:オンライン出席もこれに倣うことになるが(CとDが同時に起こることは、一応ないものとしたい)、特徴として、わりと「途中退席」しやすいこともあり、A、Bの投票が無効となる時点の定めをはっきりさせねばならない。いずれにしても、各賛否表明の優先順位を定め、それにそったシステム上の対応、現場での対応は増加することになる。 パイプドHD(3919)社では 第一位:オンライン出席or リアル出席での投票 第二位:事前のインターネット 第三位:書面送付の順で優先順位を定め、あらかじめ株主に通知、浸透させている。

パイプドHD社 株主総会招集通知より

なお、オンラインならではの機能として、「賛成」「反対」をクリックさせて自動的にカウントすることは、技術的にも運用としても、さほどハードルが高いものではないと思われるが、ウェビナーの「拍手ツール」をつかって、代替的に賛否確認を取る方法も活用されている(グリー:3632)のは興味深いところだ。確かに、決議に必要な議決権数を役員だけで占められているケースなら、それで十分だろう。

通信 通信環境に関しては一般のライブ配信サービスやウェビナーツールを自社で設定・活用する方法に加え、専門サービスの活用、そして自社でのサーバー構築など、対応は様々のようだ。一方で、通信障害に対しては、複数の回線やツールの利用は当然として、さらに株主との事前接続テストの機会を設けるなどの工夫が講じられている。また、最悪、回線の障害が回復しなかった場合に備え、リアルに出席した株主だけで議事進行、総会成立ができるためのシナリオ作りを施した企業もあるなど、通信ならではの準備が必要であることが明らかとなった。

なりすまし対策 議決権行使書に記載したID、パスワードを用いたベーシック認証に始まり、株主固有の情報を用いる方法や、書面のキャプチャ画像提出を要することとした企業(ガーラ:4777)、さらにはブロックチェーン技術を利用した議決権行使システムを構築、活用した企業(アステリア:3853)もあった。 株主総会の実際の会場においては、「株主票持参人」=「株主」と判断し、事実上本人確認なしで(あるいは軽微に)運用をしているが、出席者は役員や他の株主に顔を見られることもあり、なりすましに一定の抑止効果がある。しかし、オンライン上ではやはり秘匿性が高く、なりすましへの心理的ハードルは高くない。従って、今後、バーチャル株主総会の浸透とともに、制度的・技術的に、さらに厳格な対策を講じるようになると思われるが、なりすまして本来の株主の意向に反する投票が行われてしまうことを防ぐことより、むしろ、通信の遮断、コンテンツの勝手な配信といった、議事進行や決議の妨害をするハッキングの増加が懸念されるところだ。

質疑応答・動議 オンラインでの総会出席者の質問受付は、A:オンラインの音声送信 B:ウェブ上でのテキスト入力 のいずれかによっているようだ。Aの場合、ミュートコントロールは議長側にあり、不規則発言は受け入れられないこととなっていることから、基本的には会場におけるリアルの質問発信となんら変わるところは無いと思われた。また、回答についても、その場で回答できること/できないことがあることは、従前の通りであり、特段の対処は不要のようである。一部には、オンラインでの総会出席株主は、動議提出及び動議に係る決議に参加不可能とし、それを避けたいならリアル出席を求める方式もみられたが、質疑応答と同様に、インタラクティブな機能を配して、リアル出席と同等とした企業もあった。

残念ながら、株主出席がオンラインのみ(バーチャルオンリー)での株主総会の解禁(現行法では不適と解釈されている)の動きは進んでいないようだが、新型コロナウィルス感染症拡大の有効な対策が今年の株主総会(6月)までに十分に効力を発することはあり得ない状況となり、各社何らかの格好で、オンラインによる株主総会開催を迫られるであろう。さしずめ、バーチャル株主総会元年といったところか。