松屋にみるChargeSPOTを利用した店頭デジタルサイネージ導入の課題

Digital Signage /

松屋 茗荷谷店(東京・文京区)にモバイルバッテリーのシェアリングサービスChargeSPOTのスタンドが設置され、店内から屋外に向けてメニューなどを掲出するデジタルサイネージとして利用されていた。

ChargeSPOTは、バッテリーの受け取りや返却ができるスタンドを各所に設置していくにあたり、スペースと電源を提供してくれるロケーションオーナーを募集している。ロケーションオーナーはこれに応募してスタンドを導入すれば、同サービスのユーザーを誘客できるほか、そのスタンドに設置されているデジタルサイネージの画面を使える。つまり、松屋などの店舗は、ChargeSPOTと提携することで金銭的な負担をほとんど負うことなく、デジタルサイネージを手に入れられることになる。松屋はこれで店頭サイネージを導入したわけだ。

画面の下にあるQRコードと青い帯がChageSpot用のエリアで、それ以外すべてをロケーションオーナーが自由に使える。
画面の下にあるQRコードと青い帯がChageSpot用のエリアで、それ以外すべてをロケーションオーナーが自由に使える。

松屋は牛丼チェーンのなかでも定食が充実し、メニュー開発が随時行われている。そのため、店舗の入口には期間限定や新メニューなどの張替え頻度の高いポスターが常時掲示されている。

ChageSpot未導入の路面店。全ガラス面がポスターなどで覆われている。
ChageSpot未導入の路面店。全ガラス面がポスターなどで覆われている。

このポスターにはそれなりのコストがかかっており、それをおさえるのにデジタルサイネージの導入は効果的だ。ただ、いまはコロナ禍で経済活動が停滞しており、とくに外食産業にとっては投資が難しい情勢だ。キャッシュアウトを抑えつつ、デジタルサイネージを導入して業務効率化やコストカットを進めていくのに、ChargeSPOTはひとつの解決策になるかもしれない。ChargeSPOTの設置場所検索によると、松屋でChargeSPOTスタンドを導入している店舗は、東京都内及び横浜の5店舗だけで、いまは一部店舗での試験導入の段階のようだ。これがうまくいけば、松屋に限らずChargeSPOTスタンド導入店が増える可能性がある。

ただ、現段階は手探りで試行錯誤している段階のようだ。部外者からみても、現状には2つの大きな課題があり、これをクリアしないと拡大は難しいように思える。課題の1つ目は、このデジタルサイネージが、何を伝えようとしている媒体なのかが極めてわかりにくい点だ。

デジタルサイネージは、画面内だけでなく設置環境や筐体も含めてメッセージを伝える媒体だ。CHARGE SPOTのロゴやポップがつけられた真っ白の筐体では、この媒体が誰から誰に向けてのメッセージを出しているのかがわからない。また、画面内にはメニュー表示に十分な大きさのエリアがロケーションオーナーに提供されるとはいえ、ChargeSPOTの情報と混在して表示されてしまうため、余計にターゲットがぼやける。

さらに問題なのは、松屋ではこのデジタルサイネージに、メニューのほかに衛生管理アピールの動画や静止画までスライドショーで掲出している点だ。ここに掲出される情報の種類が多すぎるのだ。たとえば、山手線のドア上サイネージには2つのモニターが設置され、それぞれに運行情報と広告が放映されている。それぞれのモニターには役割があり、いつでもそれに関する情報が流れているとわかっているから、乗客の私たちは適時そのモニターを見る。もしこれが、モニターひとつで運行情報や広告が混在して放映されていたら、利便性は大幅に落ち、結局は運行情報も広告も見なくなってしまう。まずは、このChargeSPOTスタンドのデジタルサイネージに、どの情報を掲出するのかを絞り込まなければならない。メニューボードのかわりとして全メニューを表示するのか、新メニューの販促に使うのか、感染症予防対策の取り組みをアピールするのか、このサイネージの目的とコンテンツを絞ることが求められる。これは、サイネージを見た人のためだけではなく、店舗のためでもある。そのように利用しなければ、既存の紙ポスターの代替にならず、それをなくすことができないからだ。

課題の2つ目は、ChargeSPOT本来のサービス、シェアリングバッテリーを利用するにあたり、この設置方法は極めて使いにくい点だ。スタンドを店舗の外に向いて設置されているため、バッテリーを借りるユーザーはスタンドの裏側を眺めることになる。これではあまりにも不親切だ。

筐体背面には何の処理もしていないため、店内からだとChargeSPOT端末とはわからない。
筐体背面には何の処理もしていないため、店内からだとChargeSPOT端末とはわからない。

ChargeSPOTユーザーがバッテリーを受け取るには、デジタルサイネージに表示されているQRコードをスマートフォンで読み取らなければならない。店舗内でそれをやるには、筐体とガラス面の隙間にスマートフォンを差し込むことになり、かなり不自然な行動を強要される。

店舗の窓とモニターの間には、筐体の足による隙間しかない。
店舗の窓とモニターの間には、筐体の足による隙間しかない。

ChargeSPOTはロケーションオーナーに下記のことを求めている。

松屋の設置方法は、これら明文化されているルールに違反はしていない。ただ、ChargeSPOTユーザーのことが視野に入っておらず、デジタルサイネージとして利用しようとする意図しか見えない設置方法だ。たとえば背面にもChargeSPOTのサインやバッテリー排出に必要なQRコードを掲出するなどユーザーに使いやすくする工夫をし、このスタンドに関わる人々すべてにメリットある方法を模索しなければ、この取組は長続きしないのではないか。

ロケーションオーナーにとってChargeSPOTは、金銭的な負担をほとんどせずにデジタルサイネージを導入できるうえ、同サービスのユーザーの誘客も期待できる垂涎の仕組みかもしれない。しかし、デジタルサイネージの媒体価値は、ChargeSPOTに相乗りする以上、制約が多くて限定的だ。これを利活用するには、それを理解したうえで設置方法やコンテンツについて十分に検討し、最適化していく必要がある。単なる無償デジタルサイネージぐらいの感覚で導入すると、スタンドに場所が占拠されるだけの危険性もある。少なくともいまの松屋のやり方は、反面教師として見るべき事例と言わざるを得ない。