Withコロナのエクイティ・ファイナンス

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2020年、株式の流通市場はバブル崩壊(約30年前!)以来の高値で幕を閉じた。IPOも件数としては93件に達し、コロナ禍においても、近年の実績と同等の件数が維持される結果となった。

2020年 業種区分別IPO実績

このように株式市場は比較的活況であるが、企業の経営実態としては、巣籠需要などで業績を上げた一部の業種、そして感染症拡大防止政策による経営環境の激変の直撃を受けた業種(こちらはすでに大幅なリストラクチャを迫られている)を除き、多くの企業においては、業績面では内部留保を充当、資金面では超大型の財政出動による借入金による調達などにより、「とりあえず」一息つかせ、攻めのタイミングをじっと窺っている状態といえるだろうのではないだろうか。

一方、スタートアップあるいはアーリーステージにある企業(起業家)にとっては、元来持ち合わせている固有の不確実性に加え、コロナ禍によってビジネスプランの不確実性はより高い状況が続く状態となっている。IPO直前に達しているならともかく、一般には、個人投資家、ベンチャーキャピタルそして大企業の投資部門(投資家)に対して、新たなビジネスプランの評価をいただき、ニューマネーを確保するのは容易ではない状況だ。もちろん、マーケットの成長性、事業の成功可否の判定が非常に難しい経済環境にあることは、投資家にとっても同じである。特に、成就する「時期」のジャッジメントが感染症拡大の終焉がキーである場合はなおさらだ。

さて、事業資金の調達には、(1)融資を受ける (2)出資を受ける に大別される(さらに「寄付」もあり得るが)。起業家にとっては、いずれも新たなビジネスの展開に必要な資金を得ることには変わりないが、当然ながら融資は返済や利息の支払いを伴うものであり、なにより残高は「負債」として表示され、自己資本比率の低下を招くものである。もちろん資金使途や規模にもよるが、不確実性のある新たな事業の展開に対しては、やはり一定割合は「出資」による調達を実現したい。そこで、伝統的には、「新株式発行」による資金調達を試みるわけだが、コロナ禍でビジネスプランの不確実性が非常に高まっている状況で、起業家が想定する事業価値(要は株価の下限)と投資家が受け入れられる事業価値(要は株価の上限)がマッチしにくいことが想定される。

起業家としては、資金は是非ほしい。投資家としても出資するのは構わない。ただ、事業価値の大小を投資時点で確定させるには、お互いにリスクを伴うということだ。つまり、お互いにできるだけその判断を遅らせたいというニーズがある。そこで登場するのが、「コンバーチブル・エクイティ」だ。その中でも特に、「有償新株予約権型」に着目したい。(経営者に付与する予約権の税負担を軽減する目的で予約権を有償化するスキームとは相違する)

「コンバーティブル投資手段」活用ガイドライン(経済産業省:2020/12/28)より抜粋

「有償新株予約権型コンバーチブル・エクイティ」・・・考え方はそれほど難解ではない。起業家は投資家から「資本」として資金を得るのだが、出資当初は株式を発行せず、将来、株式を得る「権利」だけを与える。このとき、初めから1つの「権利」が何株分とは決めない(決めてしまうと事業価値を算定してしまうことと同じことになってしまうため)。その後(例えば1年半後)「事業成就の見通しが立った段階」「不確実性が減少した段階」で、株式を発行するわけだが、1つの「権利」に何株が発行されるかはその時に初めて算定される。これによって、起業家、投資家双方にとって、投資時点のリスクが軽減され、両者の利害が一致したファイナンスが可能となるわけだ。

もちろん、当初に出資いただく投資家へのメリット付与(株価のディスカウント率)の設定、判定時点(例えば1年半後)で株価が相当に低く評価せざるを得ない場合、逆に高すぎる場合、あるいは判定時点までに、第三者へM&Aによる売却をしたい場合など、様々な事前取り決め:投資契約で実現が別途必要なことはいうまでもないが、それらに対し、スタンダードなパターンも確立され、一般にパッケージとして提供されている(J-KISS)。

「コンバーチブル・エクイティ」の手法は、従前より確立されていた資金調達手法の一つであったが、どうやら経済の不確実性が高止まりすると思われる2021年、特にスタートアップ、アーリーステージにある企業にとって有効な資金調達方法として採択が増加するのではないだろうか。

実例:Tsunagu.AI社「J-KISS型新株予約権方式による、総額1億円の資金調達」

経済産業省が2020年12月28日に発表した「コンバーティブル投資手段」活用ガイドライン全文はこちら