名古屋最古参の地下街入口のデジタルサイネージ

Digital Signage /

名古屋市営地下鉄の伏見駅東改札口を出てすぐに、全長250メートルの1本道の地下街、伏見地下街がある。1957年開業と名古屋で最も古い地下街のひとつで、東京の新橋駅前ビルに似た昭和の風情を残している。

この地下街の5箇所の出入口の壁面には、デジタルサイネージが設置され、動画が放映されている。この位置にデジタルサイネージを設置するのは、極めて珍しい。

階段正面の壁面は、降りる人に正対することになって強制視認性が極めて高いため、看板を設置するのに適した場所だ。ほぼすべての地下出入口のこの場所には、案内や広告などの看板が設置される。しかし、階段では人は常に動いて滞留しないうえ、階段を降り始めると安全確保のために通行人は視線を足元に向けるため、この位置にある媒体の接触時間は、極めて短い。看板を設置する場合でも、瞬間的な接触でも伝わるようなクリエイティブにするのが一般的だ。

階段正面の壁面にデジタルサイネージを設置し、さらに動画やスライドショーなどの一定の尺を必要とする素材を放映することもあるが、そのほとんどは階段横にエスカレーターが併設され、そこからの視認が期待されるケースだ。

ところが、伏見地下街の出入口は階段だけでエスカレーターはない。さらには放映素材は、地下街の各店舗を白人女性が取材する動画で、その尺は数秒どころか数分だ。しかも無音なうえに字幕は中国語だ。コロナ禍でターゲットである中国人観光客が市中にいないなかでは、機材選定も放映素材も不適切だ。

ただ、ここは名古屋最古参の伏見地下街だ。配管と配線が剥き出しになった低い天井、通路には各店舗からテーブルと椅子が溢れ出ている、東京の新橋駅前ビルに似た昭和の雰囲気の漂う地下街なのだ。60年以上の歴史を誇りにするこの地下街が、デジタルサイネージを設置し、中国人観光客にも自分たちの魅力を伝えようとオリジナルの動画を撮影し、こうやって流している。こうなると、手段の巧拙の話ではなくなる。商店街の人々による、過去の遺産を利用するだけではなく、未来につなげていこうとの意思を感じる。それに対して教科書的な視点だけで課題を指摘するのは無粋だろう。反面教師の要素が多分にあるからこそ、セオリーを守った小綺麗なデジタルサイネージより気になる媒体になっているとさえ思える。このような媒体もありなのかもしれない……。