交通広告から問われはじめた、デジタルサイネージの真の媒体価値

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9月3日、交通広告業界に激震が走った。JR東日本のニュースリリース「ダイヤ改正における終電時刻の繰り上げなどについて」によると、終電の繰り上げや始発の繰り下げなどが2021年春に予定されているというのだ。ここで重要なのは根拠として提示された大幅な乗降客数減少のデータである。

ダイヤ改正における終電時刻の繰り上げなどについてより

昨年と比較して8月の利用状況は、山手線の場合終日で38%減、朝のピーク時間帯は36%減、最も乗客が多い時間帯で42%減、終電付近は66%減という大幅な減少だ。データこそ公開されていないが、私鉄や地下鉄の状況を見てもこの傾向は変わらない。筆者が9月第1週の首都圏の複数の鉄道会社の電車内サイネージの出稿状況を実際に乗車して確認したが、8月よりはいくぶん改善してはいるものの、自社広告や、おそらく長期的な契約に基づいた出稿のように思われるものが目立ち、新規の出稿は極めて少ない状況だ。

これまでの交通広告は乗降客数をその媒体価値として位置づけているので、これでは38%媒体価値が減少しているではないか、という論が広告主側から出てきても当然だ。出稿量の減少はもちろん、金額交渉に持ち込まれる可能性もある。実際のセールスではかなりの値引きが行われていることは確認している。これでは自らの媒体価値の減少を自ら認めているようなものだ。

さらに驚くべきことはリリースでは、

「今後、感染が収束した後も、テレワークやEコマースなどはさらに広く社会に浸透していくことが想定され、お客様の働き方や、行動様式も、元に戻ることはないと考えています。」

ダイヤ改正における終電時刻の繰り上げなどについて

とまで述べているのだ。これではこの先の交通広告には発展という文字はないと自ら断言しているようなものだろう。鉄道事業者から見ると、広告収入への影響は全体からしたら大きな問題ではないのだ。それよりも鉄道事業そのものの経営改善が求められるのは当然な話だ。

乗客はもう元には戻らない。その通りだ。つまり交通広告にはこれ以上の拡大はない、ということでいいのか。本当にそうなのか。

交通広告はこれからどうするべきか。これは媒体価値を別の視点から再定義するしかない。日本以外で急速に常識化している、よりリアルなメディア接触状況を可視化することである。携帯電話などの稼働状況、カメラやセンサーなどで駅や車内の状況を計測すること、あるいはインプレッションベースの広告媒体化することだ。

こうした新たな定義の模索は着実に進行しつつある。JR西日本コミュニケーションズとLIVE BOARDは、インプレッション計測の実証実験を大阪駅で6月から実施している。またビズライト・テクノロジーが運用しているダイナミックビークルスクリーンは、埼玉高速鉄道内の電車内サイネージで同様のサービスをすでに開始している。

インプレッションベースの広告配信はインターネットの世界では当たり前のことだ。OOHにおいても様々なテクノロジーを利用することで、従来よりも遥かに精緻なデータ取得やインプレッション計測がすでに可能だ。デジタルサイネージコンソーシアムでは、デジタルサイネージの新しい指標のあり方について、「OOHオーディエンス・メジャメント標準化検討ワーキンググループ」において昨年から検討を開始しており、年内を目処に一旦取りまとめを行う予定である。

そしてこれは交通広告に限った話では全く無い事を忘れてはならない。少なくとも広告媒体としてのデジタルサイネージは交通広告が牽引している。そこの価値が問われている以上、交通以外のデジタルサイネージの媒体価値はそれ以上に脆弱であり、より厳しく問われることになる。

もう待ったなしだ。