災害時にサイネージにできることはあるのか再び考える

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これは2011年の「デジタルサイネージ白書」(デジタルサイネージコンソーシアム発行)に筆者が寄稿したものに写真などを追記する。

2011年3月11日(金)14時46分に発生した地震によってデジタルサイネージも大きな影響を受けた。ここでは震災発生後のデジタルサイネージコンソーシアムの対応と、その後明らかになった課題についてまとめることで、今後の対応のための問題提起としたい。なお本稿は執筆時点ではデジタルサイネージコンソーシアム(以下DSC)の総意ではなく、あくまでも個人的な考えを述べるものである。

地震が発生した翌日の3月12日(土)午後、東京電力の電力供給に問題がある事が判明した。デジタルサイネージコンソーシアム(DSC)の中村理事長、サイネージ広告媒体協議会(SAMA)の毛塚議長と連絡協議し、それぞれの団体から会員社に向けて、「災害情報を提供していないデジタルサイネージに関しては節電に協力して欲しい」という依頼を行った。関係各位、各社の迅速な対応によって多くの協力を得ることができた。

今回の論点は2つに集約されると考える。
1 災害時の対応
2 電力事情への対応
本来これらは別々の問題であるのだが、今回はこれらが連鎖して発生した。

デジタルサイネージと広告灯が消された渋谷ハチ公交差点

災害時のデジタルサイネージの対応

現状のデジタルサイネージにおいては、緊急時に災害関連の情報を出せるものは必ずしも多くはない。災害情報を出せるものであっても、その情報源や情報の更新頻度も様々である。今回明らかになったことは、被災地は勿論、直接の被災地ではない東京などにおいても交通機関の混乱などの発生により帰宅困難者が大量発生した場合に、得ることができる情報に問題があることだ。携帯電話やそのワンセグ受信機能はほとんどの人々が保有しているのであるが、混乱が長期化した場合にバッテリーの問題によってワンセグ放送を受信できないというケースが続出した。

今回デジタルサイネージによる情報提供が役に立った例を挙げてみる。丸の内エリアのテナントビルでデジタルサイネージを提供している「丸の内ビジョン」においては、震災発生9分後にNHKの再送信に切り替えて帰宅困難者への情報提供を行った。これは平時から緊急時のデジタルサイネージでの放送放映に関してNHKとの取り決めができており、切り替えする運用ルールも定めていたために実現し、有効に機能したものである。

また通信社や新聞社などがデジタルサイネージ用の災害情報コンテンツの提供を順次行うケースも多く見られたが、システム的な問題、運用更新ルールや体制の問題などでスムーズな利用が促進されたとは言い難い状況であった。やはりこうした対応について、平時に一定のルールを設定しておくことが重要であり、各社個別で行うよりも、DSCとしてのとりまとめの必要性も明らかになった。今後は行政も含めて議論を進めておく必要がある。

デジタルサイネージの節電対応について

節電対応についても2つの視点がある。まず一つは平時の低消費電力化の問題。これはデジタルサイネージに限ったことではなく、低消費電力で事業を行う努力は常に必要である。ディスプレイやSTBなどのさらなる低消費電力に向けた技術開発や運用体制なども検討するべきである。

もう一点は今回のケースのような緊急の電力不足への対応である。こうしたケースは頻発するものではないとは思われるが、現状の電力問題はまだまだ長期化することは避けられない。平時の節電努力以上の電力セーブを求められた場合の対応も想定しておくことが必要である。

こうした平時、緊急時の節電ということ事態には異論はないが、一部には適切ではない指摘も見受けられる。特定の業界業種に対して「不要不急でない」という理由でより強い節電要求、あるいは場合によっては事業そのものの停止が求められかねない状況があることだ。鉄道、医療、消防、通信、放送、官庁など(この線引きも困難ではあるが)が優先される点については異論はないと思われる。しかし、デジタルサイネージが使用する電力が、たとえば企業のオフィスで使用される電力に対して優劣があるという合理的説明は困難である。節電に協力して薄暗い中でディスプレイが点灯している状況は、そこで提供される内容によっては批判の対象になる可能性もなくはない。先ほど延べたように、今回のケースにおいてもデジタルサイネージが有効な情報を提供した例は存在している。

こうした課題のとりまとめと、対応策を訴求に実行するために、DSCは関係各社、団体、行政と連携の上で行動を起こすべきであると考える。

ここから2020年7月8日追記

これを契機にして、NHKとデジタルサイネージコンソーシアムとの間で検討が進められ、2012年12月11日に、「NHK非常災害時緊急放送のデジタルサイネージでの受信公開に関するおもな条件等」が示された。 本内容は、災害・緊急時におけるデジタルサイネージ運用ガイドライン 第2版の11ページに記載されている。

このガイドラインの要点は、事前に申請を行っておくことで、NHKの非常災害時緊急放送を受信契約をすること無くデジタルサイネージに表示できるようにしていることだ。本来であれば、放送法や著作物に関しての法規的には課題が多く、放送をデジタルサイネージにおいて掲出を行うことはできない。だが常識的に社会的に、これは必要なことであるというのは誰しもが納得できることだと思う。超法規的な規定を明文化するということはかなり困難を要することである。そのために前述のガイドラインの中に附章として記載されている。これをきっかけとして公共放送のあり方や放送と通信という議論に入り込むことは望まない。

また一方で、緊急時にデジタルサイネージが正しい情報を掲出できるのかについては疑問も多い。例えばこれは、やはり東日本大震災時の首相官邸のTwitterを自動的にサイネージコンテンツをして生成できる仕組みを作り、無償で公開をしようとした例である。

しかしこれは、実際に使用することはなかった。公開をしなかったのである。理由は情報の鮮度と正確性を、デジタルサイネージシステム側が担保できないからである。官邸の情報が正しいとして(それは正しいと判断せざるを得ない)、先程まで「白」と言っていた情報が、「黒」に変わったと時に、サイネージは適切なタイミングで更新できるのかということだ。古い情報が残ったまま表示された場合、人命に重大な影響をもたらす可能性があるからである。

災害の内容、何らかの被害が発生した時点以降の時間経過によってサイネージが有効であるケースも当然ある。しかし一般的にはテレビやラジオ、SNSなどに比較して優位性が常にあるとは仕組み的にも運用体制的にも到底言えない。個人的には中途半端な情報提供はむしろ危険ですらあると考えている。