店舗などの3密を防ぎ、来店客と従業員の生命を守る「断密AIサイネージ」

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スーパーをはじめとして、様々な場所で「3密」を避けることが求められている。こうした状況は当面は続くと考えるべきで、様々な現場において対応や対策が進められている。

少なくとも記事執筆時点では、新型コロナウイルスに関して詳しいことがわかっておらず、ワクチンはもちろん、治療法も対処療法レベルである。

こうした店舗や施設においては、感染症対策として入退店時の手指の消毒、マスクの着用を求めるのは普通になっていて、それには大部分の人が従っている。屋外はともかく、閉鎖空間、特に食品を扱う場面ではそれは正しいと言えよう。空気感染やエアロゾル感染についてはその可能性についてははっきりしたことはわかっていないが、いずれにせよ「3密」にならないに越したことはない。とにかくウイルスの正体がわかっていないからだ。

こうした不透明な状況の中で、各地のスーパーマーケットでは、時間帯によって店内が密になることが多い。それは来店者にとってはもちろんだが、そこで働く人々を危険に晒すことになる。そこでビズライト・テクノロジーでは大げさではなく、来店客と従業員の生命を守る「断密AIサイネージ」が企画された。

企画がスタートしたきっかけは、緊急事態宣言が出されてしばらくした日曜日、4月19日に同社の女性社員が近くのスーパーに買い物に出たことがきっかけだ。その際に彼女は、2軒のスーパーが入店規制を行っていたということを社内のFacebookグループに写真付きで投稿したのだ。男はそんな事をあまり気にしていない。だがその事実を知ってから情報を集めたり、自分の目で確認してみると、規制をしている店は少なくないことがわかった。それらはたいてい出入り口に従業員が立ち、多くの来店客に大きな声で説明をしていることがわかった。これは来店客と従業員の双方にとって少なからざる感染リスクとなっていたのである。また経営側から見ると安全管理が問われたり、訴訟の可能性すら否定でき無いのである。

そこで、ここをテクノロジーでなんとかできないかと、まさにGASKETになるべく技術的な検討が始まった。始まったのだが、色々テストや仮説を組み立てながらも、それを実証する先、導入いただく先が見つからない。時間的ターゲットは「ゴールデンウイーク明けには導入が完了していること」だった。しかし手を尽くしてもそれは見つからず、もう時間切れでほぼ諦めようと思い始めていた4月25日、役員の一人から知人を介して協力してもらえそうなスーパーがあるという情報が入った。それが今回の宍倉株式会社が運営する店舗のひとつ、千葉市の「フードランド レオ 誉田店」である。ここは地域の人気店であり、コロナ以降は人的な入場規制をかけることが多かったのだ。そのため店舗外の行列は長いときは50メートルを超え、お客様にも大きな負担がかかっていたのである。

具体的なロケーションが決まったので現場の確認を行った上で、店内の密をどうやって検出するかの検討に入った。ほとんどすべてオンラインでの議論の末に導き出されたのは、出入り口で入退店数をカウントし、その差分を滞留者として扱い、その数の変動をディスプレイに可視化する方法だ。駐車場などでよく見られる満車空車の表示と同じ考え方だ。

続いて人数のカウント方法の検討に入った。最初からAIありきではなく、赤外線、スイッチマットなど複数の方法が検討、確認された結果、カメラを使ってAIで解析する方法が最善、という結論に達した。なお同じスーパーでも、上層階に飲食や専門店があると、入店後の館内全体の人の動きをトラッキングする必要があり、コストと調整に時間がかかる。

さらにAIといっても様々なやり方がある。これまでのAI関連での実績から判定方法を絞り込み、現場での最終調整を経て、今回のプロジェクトは無事に稼働させることができた。企画開始から18日、ロケーションが決まってからわずか8日目のことだ。それも緊急事態宣言下のゴールデンウイーク期間中である。

入場制限中の画面
表示コンテンツは左から平常時、規制中、規制解除時である

今回の仕組みは、こちらのシステム図をご覧いただきたい。

ビズライト・テクノロジーは自社で開発したRaspberry Pi3べースの汎用BOXのメーカーでもある。このBOXは、これまでに5000台ほどが産業用途で稼働中である。図中のBH-3-LTEがそれだ。これは同社が行っている、埼玉高速鉄道(東京メトロ南北線、東急目黒線直通)の電車内のメディア事業である「ダイナミックビークルスクリーン(DVS)」で960台稼働中のバージョンで、NTTドコモのLTEモジュールを搭載している。

DVSでは、Raspberry Pi3にインテルのVPUモジュールと組み合わせてエッジAI処理を行っているが、今回は出入り口の状況と人の動き方がAI的には特殊で、DVSで採用した方式では精度やスピードに課題があると判断した。そこで発熱は多いがより高速であるNVIDIAのJetson NanoでエッジAIを稼働させている。こうしたAIの判定結果を、デジタルサイネージ用のCMSに渡して表示を自動で切り替えている。

と、ここまでは理屈の話なのだが、現場はそれだけでは通用しない。AIは98%くらいの精度で人数の出入りをカウントしている。しかし、店内のお客様の分布状況まではこの方式だけではわからない。レジ付近に大きな行列ができているかどうかのような店内分布は判断していないからだ。レジ付近にもカメラをつければこれらはすべて自動化対応が可能だが、仕組みが複雑になり、導入コストと導入までの調整時間が長くなる。そこでAI判断とは別に、担当者の判断でコンテンツの切り替えをボタン一つで行うこともできるようにしてある。このアナログな切り替え手法は、通常のサイネージ用のSTBやPCを利用しているサイネージだと案外難しい。

手動切り替えボタン。赤が規制、黄色が通常、青が規制解除、黒は現在未使用
中央の銀色のBOXがBH-3-LTE

また、原稿執筆時点では公開されていない機能として、サイネージに表示されている情報はスマホやパソコンから来店前に確認することもできる。アクセス方法はQRコード読み取りで、店舗内、サイネージ、チラシ、レオのWEBなどに掲出される。地域型のスーパーは常連客が多いので、こうしたニーズは強い。今後は平常時にはセール情報や、アナログなチラシを自動でデジタル化して、サイネージやスマホにも配信することも計画している。こちらの店舗の場合は、チラシの制作過程がほとんどアナログであるが、無理にこれを変える必要がない。デジタル側が人に合わせればいいという考え方で、必要応じてデジタイズにAIを利用する。

スマホで混雑状況を表示した場合(5月22日稼働)

また今後は、AI解析時に年代性別などの属性情報を取得して、販売データとの紐付けを行って、各種業務の効率化を図りたい考えだ。大規模なチェーンストアであれば、ビッグデータや来店者の店内動線まで解析したマーケティングが行われるかもしれない。しかしそこまでではなくとも、POSデータと来店者属性を掛け合わせることで、例えば「木曜の午後にはシニア層に魚が売れる。それは刺し身よりも煮魚が好まれるので、開店前の魚の調理は少なくて済む。その分を別の業務に割り当てる」というような傾向を知って業務効率を改善したいのである。

今回のエッジAI利用の断密サイネージシステムは、プライバシーに関する各種法規やガイドライン、(一社)デジタルサイネージコンソーシアムが定めているセンシングサイネージガイドラインに準拠しており、そのための告知ページを用意している。またそのシンボルマークを現場でも掲出している。

「センシングサイネージガイドライン」のシンボルマーク

今回はフードランド レオの誉田店のスタッフの多大なる協力によって、非常に短期間に導入まで進めることができたことを心から感謝申し上げたい。

フードランド レオ 誉田店

さて、スーパーマーケットなのでとても重要な情報を。ここで扱っている「白子町の農家 小泉さんの作るトマト」が本当に美味しい。そして安い。いわゆるフルーツトマト系で、柔らかくて甘くて本当に美味しい。筆者も含めてビズライト・テクノロジーのスタッフは全員がファンになってしまい、お店を訪れるたびにトマトをたくさん買わせていただいている。何もつけずそのまま食べるのが最高だ。通販で手に入れる方法はないと思われるので、機会があればぜひ召し上がっていただきたい。

人気なので残り少なくなっている「小泉さんのトマト」