AIが手洗い率を劇的に向上させるか

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世界的なCOVID-19の流行で、衛生管理における手洗いの重要性に注目が集まっている。そこで今回は、かつてアメリカで手洗い率を飛躍的に高めることに成功した実験を紹介したい。

手指衛生は医療関連感染から患者を守るうえで重要なファクターであり、アメリカの医療機関では手洗いの重要性を繰り返し周知したうえ、手指消毒剤の置き場所には注意書きを貼っているが、驚くべきことに実際の手洗い率はたったの38.7%にとどまっている。そこで、2008年にニューヨーク州の研究チームは、手洗い率を上昇させる方法を探るための計画に取り組んだ。とある病院の集中治療室に、ドア付近に人の出入りを感知するセンサーと、消毒剤と洗面台を撮影する監視カメラを設置し、24時間体制でこれを監視したのだ。ところが、カメラでの撮影目的は周知され、カメラの存在をはっきりと認識していたにも関わらず、医療関係者の手洗い率は10%にすぎなかった。

次に研究チームは、医療関係者の行動をすぐにフィードバックできるように廊下に電光掲示板を設置し、10分ごとにメッセージとともに手洗い率を表示するようにした。そのメッセージは、手洗いを強制する警告文ではなく「このシフトはすばらしい!現在の手洗い率95%」など、早番、遅番などのシフト間の競争を促しつつ、ポジティブな内容とした。

電光掲示板に表示したメッセージの例。GREAT SHIFTと肯定的な内容になっている。ちなみに、WRが週の平均、MRが月の平均。シフトにも言及し、シフト間での競争意識も煽った。
電光掲示板に表示したメッセージの例。GREAT SHIFTと肯定的な内容になっている。ちなみに、WRが週の平均、MRが月の平均。シフトにも言及し、シフト間での競争意識も煽った。

すると、手洗い率は10%から90%近くにまで上がった。しかも、その効果は時間とともに減衰するようなことはなく、電光掲示板が設置されているあいだは、長期間に渡って維持することができた。

縦軸が手洗い率で、横軸が時間(週)。カメラでの撮影をおこなっているだけの期間は手洗い率は10%を切っていたが、矢印のところで電光掲示板によるメッセージを掲出開始すると、90%近くまで上がり、それを維持した。
縦軸が手洗い率で、横軸が時間(週)。カメラでの撮影をおこなっているだけの期間は手洗い率は10%を切っていたが、矢印のところで電光掲示板によるメッセージを掲出開始すると、90%近くまで上がり、それを維持した。

これは、人間の2つの習性にもとづいてる。ひとつは、行動を促すには褒めたり、ポジティブなメッセージのほうが受け入れられやすい点だ。罰則や脅威を示すよりも、褒めたり、報酬を提供したりするほうが、行動を促すことができる(逆に行動を禁止するには、罰則や脅威を提示するほうがよい)。もうひとつは、人は将来のことよりも今のことを優先する習性がある。将来の大きな報酬や脅威よりも、すぐにもらえる小さな報酬、小さな嫌なことを過大に評価する。すぐに電光掲示板の手洗い率が上昇したり、褒められたりすることが、手洗いにつながるのだ。

この実験が行われた2008年の段階では、人の手洗いを感知するにはカメラ映像を目視するしかなく、24時間稼働している集中治療室でフィードバックを出し続けるには24時間体制で人が監視し続ける必要があり、効果があるとわかってもこれを継続したり、水平展開したりするのは難しかった。しかし、いまではカメラ映像をもとにAIで判定し、計測できる。これであれば、2008年と比べればコストは劇的に抑えることができる。

このようにAIとIoTが普及してきたいま、改めてこのような過去の実験に目を向けると、新たなソリューションの種が見つかるかもしれない。

参考:Using High-Technology to Enforce Low-Technology Safety Measures: The Use of Third-party Remote Video Auditing and Real-time Feedback in Healthcare

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