不要不急の外出自粛やリモートワークで、暮らし方に変化が出ている方、見直しを迫られている方も多いと思う。筆者は事実上のフリーランス生活が15年位になるので、在宅でできる仕事は特にこれまでと変わること無く過ごしている。そんな中で、ふと思い出して15年ぶりくらいでアクアリウムを復活させた。
アクアリウムとは要するに水槽で魚を飼育することなのだが、魚ではなく水草をメインにすると実は結構ビジネスに応用できるヒントや、物の考え方が身についたりするのである。2月の初めに再スタートさせた水草水槽は、2ヶ月ほど経過してやっと初期の立ち上げに成功したところだ。これから維持管理のフェーズに入っていく。


アクアリウムにはいくつか必要な機材がある。水槽、水質維持のためのろ過装置、照明器具、水草の光合成を促すための二酸化炭素供給装置と酸素を供給するエアーポンプ、長期の出張や旅行などにも対応できる自動給餌器、水温維持のためのヒーターと温度センサー、そして水質検査のための試薬や測定器だ。機器類の構成とそれぞれの紹介をする。
ろ過装置は、「物理濾過」と言ってゴミをフィルターで捕捉するもの、「生物ろ過」と言って魚のフンや枯れた植物から発生する有害物質であるアンモニアなどを分解するバクテリアを利用するもの、「化学濾過」と言って活性炭やゼオライトなどの鉱物で有害物質を吸着させ、化学反応によって無害なものに変えるものの3種類の濾過を2つろ過装置で行なっている。これらはモーターで水槽内の水を常時循環させて行う。理系崩れな文系の筆者は、物理は得意だったが化学と生物は平均点以下な人間であるので、これ以上詳しいことはわかっていない。ネットの受け売りである。

水草は植物なので、光合成を行う必要がある。そのためには光とCO2が必要である。CO2はボンベから供給している。





魚とバクテリアが生息するには酸素も必要なので、CO2に加えて酸素(空気)も添加する必要がある。光合成は照明を照射している時(自然界では昼間)に行われて、夜間には植物は呼吸のために酸素を必要とする。これらの昼夜の環境変化を人工的に再現するために、照明、CO2供給、酸素供給を電源タイマーで制御する。


エコロジストの多くは、植物を植えれば二酸化炭素を吸収して酸素を放出するので植林をしようと主張するが、実は植物は当然呼吸もしているので、夜間は酸素を取り込んでいる。結局プラマイゼロに近いことは案外知られていない。もちろん植林は太陽光の反射吸収や土壌維持などで有効であることは言うまでもないが、二酸化炭素問題の根本的解決にはならない。これも環境問題を理解するのには重要なことだ。




こうした飼育環境の構築と維持は、大部分が科学的である。この60センチ水槽の管理責任者は筆者であり、太陽と水と食事に関しての全責任を追う。言い換えれば水槽宇宙の支配者なのである。支配者というと権力者みたいだが、やはり管理責任者だ。
水草、つまり植物というのは魚、つまり動物の比較すると環境変化の影響をもろに受ける。水草の種類に応じた環境を作る必要がある。例えば、水草維持のためには窒素、リン酸、カリウムのバランスを取る必要がある。バランスが崩れると水槽がコケだらけになったり、水草が溶けたり枯れたりする。他にもカルシウム、マグネシウム、鉄などの元素も重要である。
水草、石、流木などのレイアウトと植栽の選択はコンテンツクリエイティブ、デザインそのものである。盆栽と同じだ。
盆栽やガーデニングもアクアリウムに類似しているのだが、光と温度、酸素と二酸化炭素をコントロールすることは不可能または巨大なビニールハウスのようなものが必要になるので、個人が扱えるレベルを超えている。盆栽は比較的近いが、制御できるパラメーターが少ないのだ。また、反応や成長が年単位になるので、結果が見えにくく修正が効きにくい。その点では、水草水槽は数日または数週間単位で変化がわかるので、シミュレーションとしては極めて扱いやすいのである。
さらに、15年前に比べて別記事で書いたようにデジタル化がかなり進んでいるのも興味深い。
これらの環境を構成するための初期費用の総額は5万円ほどである。維持費は月に1000円も行かない。これくらいの費用で様々な試行錯誤とシミュレーションを生き物相手にできるのである。個々にデジタル化、自動化されてはいるが、それらは全く連携できていないのは、筆者の実ビジネス領域と全く同じだ。アクアリウムにはヒントがたくさん埋もれている。