Image by Tumisu from Pixabay

株式投資型クラウドファンディング活用「エンジェル投資家育成1万人プログラム」

Funding /

筆者が代表を務めるDANベンチャーキャピタル。本業は、株式投資型クラウドファンディング(以下「株式型クラファン」という)のプラットフォームの運営だ。昨年11月に購入型クラウドファンディングのCAMPFIREと資本業務提携。CAMPFIREでは融資型クラウドファンディングのCAMPFIRE OWNERSもスタートさせたところで、ワンストップであらゆるタイプのクラウドファンディングを利用できる体制を整備している。

そのような中、DANベンチャーキャピタル(以下「DAN」という)が、始めるのが株式型クラファンの投資体験とベンチャー投資教育カリキュラムを組み合わせた日本初の「エンジェル投資家1万人育成プログラム」である。

1 エンジェル投資家とは

エンジェル投資家は一般に創業期企業に投資を行う個人を指す。米国では引退した元企業経営者などを中心に25万人を超えるエンジェル投資家が年間6万4千社に総額240億ドル(約2兆4千億円)の投資(1社あたり平均375,000ドル)を行っている。米国においてエンジェル投資家からの資本調達は、Friends & Familyによる身近な資本調達とベンチャーキャピタルからの資本調達の間を埋める存在と言われている。エンジェルは自らの経営者としての経験やネットワークを生かして投資先の企業に具体的な経営助言を行うケースも多く、単なる資金供給にとどまらず創業期のベンチャー企業の成長に大きな役割を担っている。       

これに対して、日本では米国型の本格的なエンジェルとしての投資活動を行う個人が少ないことが指摘されている。新規上場企業の創業経営者が売出等による資金を原資に後続のベンチャー企業に投資を行っている事例が増加しつつあるが、投資活動を行っているのは多く見積もっても1,000人に満たない。

2 エンジェル投資家1万人育成プログラムの概要

そこで「エンジェル投資家1万人育成プログラム」(以下「本プログラム」という。)では、米国流のエンジェル投資家をめざす個人を投資家会員として広く募集。投資家会員には、DANがCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)の担当者向けプログラムとして開発したオンライン教育カリキュラム「CVC資本戦略講座」の受講IDを無償で提供する。投資家会員は6回の講座を通じてベンチャーキャピタルの投資手法を学べるとともに、経験能力を高める場としてDANが運営する株式投資型クラウドファンディングサイトで、1社あたり50万円を上限とする少額のエンジェル投資を実践いただくことができる。

DANでは、講座受講と10社以上の投資を実践いただいた投資家会員を「認定エンジェル」として登録。認定証を交付する。認定エンジェルには、1社当たり数千万円~数億円を投資する米国流の本格的なエンジェル投資家を目指してもらうこととし、企業育成型の投資活動を実践いただくべく定期研修等を通じたサポートを行う。

3 プレミアム・スタートアップの募集

本プログラム開始にあわせて、DANでは投資先となるベンチャー企業の募集も開始する。募集対象の企業の条件は「世界に羽ばたく」「時代をリードする」の2つを満たす創業期の企業(プレミアム・スタートアップ)。最先端技術を活用したイノベーションにより新たなマーケットを開拓する企業や、日本ならではのノウハウや感性を生かして世界のリーディングカンパニーを目指す企業など、あらゆる産業を対象としてプレミアム・スタートアップを募集する。DANでは第一種少額電子募集取扱業の登録業者として株式型クラファンGoAngel(ゴ―エンジェル)を運営しており、これまでに9社が合わせて1億2千万円の公募増資による資金調達に成功している。これまでGoAngelでは、発行会社の顧客や取引先、知り合いの経営者など身近なファンが株主となって応援する所謂Friends & Family型の募集が中心だった。これに対して、プレミアム・スタートアップが株式を募集する際には、新たに、GoAngel Premiumの区分を新設。エンジェル投資家会員とマッチングする。

株式型クラファンは法律で投資上限が1社あたり50万円に制限されており、複数の企業への投資を通じてエンジェル投資の経験を高めるには最適だ。また株式投資型クラファンでは、募集取扱業者には、法律で発行会社に対する審査とインターネットを通じた情報開示が求められている。投資先発掘も業者が行うことから、有望なベンチャー企業に比較的リスクの低いエンジェル投資が可能であることも特徴だ。

今回のプログラムの目的は、単に上場時のキャピタルゲインを狙う個人の未公開株投資家ではなく、株主として経営に参画して適切な助言指導により事業の成長を支えることができる真のエンジェル投資家の育成することにある。このようなエンジェルの増加を通じて、創業期の企業の資金調達における日米の格差を縮めることにつなげたいと考えている。    

4 中小企業向け資本市場のすそ野拡大の構想

以下は、DANベンチャーキャピタルが進めようとする中小企業向け資本市場のすそ野拡大のイメージである。

現在、非上場会社のエクイティファイナンスで中心的な役割を担っているVC(ベンチャーキャピタル)。出資者に金銭的なリターンを分配することを目的としたVCファンドを組成して投資するのが一般的だ。そこで重要になるのはEXIT戦略である。日本のVCのEXIT戦略は主に投資先を上場させて市場売却する。

これに対して、GoAngelでは、幅広く成長志向の中小企業にエクイティファイナンスを広げる観点から、必ずしも将来の上場を計画していない会社も対象としている。そのため株式募集の対象も金銭的リターンを前提とした金融商品を求める投資家ではなく、事業に共感して資本参加いただける株主を募集することを主眼としてきた。金融商品の株式ではなく会社の事業に関心をもつ人は、顧客や取引先、社員、社長の知人友人など会社の周囲に集まっている。まず順番としてはこれら会社の縁故者に株主となって頂くのが合理的と言える。これが「拡大縁故募集」と筆者が呼んできたGoAngelにおける株式募集のアプローチである。このアプローチは米国では、Friends & Familyと呼ばれ、そのマーケット規模は年間600億ドル(約6兆5千億円)に達する。

米国型のエンジェル投資家の育成を目的とする本プログラムでは、少なくとも上場をすることができる規模への成長を前提とする企業が対象となる。そこで、本プログラムの対象とする企業は、「世界に羽ばたく」「時代をリードする」プレミアム・スタートアップをセレクトしてGoAngel Premium区分に登録することとした。

DANが次のステップとして参入を計画している株主コミュニティ制度では、1社あたりの投資上限はない。GoAngelで10社以上の投資経験をしたDANの認定エンジェルが本格的な投資を行うに際して、そのサポート機能をこの制度を使って果たしていく予定だ。さらに株主コミュニティ制度では、株式の募集取扱による発行市場機能のほか、売買取引の媒介や売出の勧誘などにより流通市場機能を持つことが可能だ。中長期的には、上図のVC&Angel Marketは、主に上場志向の非上場株式の発行流通市場、Friends & Family Marketは主に地域のコミュニティで活躍する中小企業の株式の発行流通市場としての発展が期待されるところだ。

5 おわりに

日本で現在、エクイティファイナンスを利用している会社は上場会社3,500社に加えて、上場を志向するベンチャー企業など10,000社ほどに過ぎない。筆者の長年のテーマは、このエクイティファイナンスの市場を全国200万社の株式会社のうち少なくとも10%はあると考えられる成長志向の20万社に広げることにある。

非上場会社への投資のうちベンチャーキャピタルの投資は年間1,000億円を超えるようになった。ただ200億ドルを超える規模の米国のベンチャーキャピタル市場と比べるとその規模は1/20に過ぎない。VC投資市場の拡大を図るには、株式上場一辺倒のEXITから、M&AによるバイアウトのEXITの割合を増加させることにある。そのためには、上場会社が非上場のベンチャー企業のM&Aをより積極化するとともに、ベンチャー企業側も自社の成長戦略、財務戦略に上場会社との経営統合や事業譲渡を果敢に取り入れていく必要があろう。

VC投資市場に次いで必要となるのが、エンジェル投資市場とFriends & Family市場の拡大だ。米国では、VC,エンジェル及びFriends & Familyを合算した非上場会社のエクイティファイナンス市場は年間1,000億ドルを超える。経済規模を考えれば、日本においても少なくとも年間2兆円程度の市場があるはずだ。経済の根底を支える中小企業の資本増強は、リスク負担力の増強を通じて新たな開発投資・設備投資を起こし、経済成長の原動力となる。筆者としては、中小企業にリスクマネーを供給する金融制度を十分に活用して、引き続き活力ある市場構造の構築に尽力する所存だ。