ルーブル美術館の展示照明とプロフェッショナルの話

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いまから25年くらい前だろうか、ある企業のCMで、ルーブル美術館の収蔵品を撮影をするために筆者は現地まで向かった。地上波用のCMなので35ミリのフイルムで撮影して、D1デジタルにテレシネをして仕上げるというものだ。筆者はアシスタントプロデューサーというか、事実上プロデューサーみたいな立場で初めての海外撮影に向かった。ヨーロッパはもちろん、パリは初めてで、海外に行った回数も片手くらいのときだ。

撮影の対象はルーブルに展示されている「The Zodiac of Dendera(デンデラ神殿の天体図」である。意思に彫られたレリーフで、大きさは2.5メートル四方ほどでそれほど大きなものではない。ちょうど4畳半ほどといえばわかるだろう。ともともはエジプトにあったものだが、彼の国はオリベスクまで持ってくるような国なので致し方ないだろう。

撮影スタッフは全部で現地で手配したグリップ(撮影特機や照明などのアシスタント)も含めて8名ほど。日本からは撮影と照明の技師さんに飛んでもらった。といってもそれぞれ助手がいるような大所帯ではなく、技師と言っても全部自分でやっていただくような現場だった。ルーブルの休館日である火曜日に現場に朝早く入り、セッティングを行う。撮影コーディネーターを通じて現場の様子はあらかじめ理解していたが、はやり実際に現場に入ると思うように照明が決まらない。撮影対象は天井に設置されているので、カメラは床面から上を仰いで撮影をすることになる。そのカメラ位置からの状況で照明を決める必要がある。これは簡単そうに見えてなかなか手ごわい。3時間ほど照明技師が格闘してくれたが、撮影可能な時間も限られていて、最後に彼は「申し訳ない、オリジナルの照明でお願いしたい」と言われるではないか。

ルーブルともなると、展示物に対して最適な照明、それは展示物の保護的な意味と見やすさの両方を満たす必要がある。もちろんカメラ位置に依存するのだが、3時間格闘した結果、オリジナルの照明が一番だと、照明技師は判断したのである。

これはなかなかできることではない。なぜなら、人によっては結局何も仕事をしていないではないか、と思うかも知れないからだ。しかしそれは絶対に正しくない。試行錯誤の結果、最適なものを見出し、最適な撮影を行うことが照明技師に求められていることであり、誰が照明をセットしたかは正直言って関係がない。いや、最適なものを見出したという点において、彼はチームの中で最高の仕事をしてくれたと、自分よりもかなり年上の照明技師に、筆者は最高の敬意を払い、最高にかっこいい仕事ぶりに心から痺れたのである。

解説のパネル
いわゆる天体図、星座盤と言ってもいいもので12星座が描かれている。

それから15年位経過して2011年にルーブルに行ったときに、ふと懐かしくなってる「The Zodiac of Dendera」を見に行った。すると配置や展示方法がすっかり変わっていて、照明も以前のものと比べると明らかに劣ったものだった。明るさにムラがあって、リリーフの立体感も再現できていない。ルーブル美術館の展実物においても、こうした事が起きてしまっていることを非常に残念に思った。

明るさに極端にムラがある2011年の展示照明。

これはIoTの話でもAIの話でもない。どんな仕事においても、こうしたしっかりとした自身に裏付けされた勇気を持って臨みたいものだと、改めて思った出来事だった。