山手線 Ver.2020 東京感動線で「耳」の可能性を感じた

Digital Signage /

JR東日本は、2020年2月3日(月)〜2月17日(月)の期間、「山手線 Ver.2020 by 東京感動線」を1編成だけ運行する。新しい乗車体験や車両メディアの新たな価値創造を目指し、東京や山手線をテーマとしたコンテンツを提供している。実際に営業運転している編成に乗車してきたため、そのうち「車両内メディア」に注目していくつかの取り組みをご紹介したい。

電子ペーパー中吊り

電子ペーパーを使った中吊り。普通の紙と同じように吊り下げられている。
電子ペーパーを使った中吊り。普通の紙と同じように吊り下げられている。

この編成の一部では、電子ペーパーを使った中吊りが取り付けられている。電子ペーパーのうえにイラストや文字を重ねて貼り付け、電子ペーパーが一定時間ごとに赤と白の交互に色が切り替わることで、文字が浮かび上がる演出になっている。電子ペーパーは厚紙程度しかなく、紙とまったく同じように吊るされており、電気や電子部品的なものを感じさせるものは一切ない。そのため、モノをひと目見ただけでは、普通の中吊りとは区別がつかない。

電子ペーパーでは映像表現はしておらず、背景として全体の色を転換させているだけであり、いまの段階では「紙の中吊りが電子ペーパー化されていく」などの未来像を示唆するものではない。アイキャッチ目的の演出方法のひとつとして見ておけばよい。

(音声がはいっています)

スマートフォンの活用

限定配信のラジオ番組「山手線 RADIO Powered by J-WAVE」と沿線のランドマークをAR撮影できる「山手線AR Powered by Deep4Drive」は、乗客のスマートフォンを活用する車両内メディアだ。鉄道会社は、自社で鉄道車両内に媒体を開発、設置し、乗客にコンテンツや広告を届けてきた。しかし、乗客の手元にはスマートフォンが当たり前にあるいま、そこに向けて車内限定もしくは、車内環境に最適化したコンテンツを送り込むことができれば、それで十分に車両内メディアとなることを示している。車内環境とスマートフォンの紐付けには、QRコードとLINE Beaconが使われている。

QRコードは、座席前のつり革ステッカー部分に印刷されており、これを読み取ることで、ブラウザ上で稼働するARアプリや、ラジオ番組のウェブサイトへアクセスできる。なぜ吊り革なのかというと、車両内でQRコードの読み取りのためにスマートフォンを操作していると、盗撮との区別が困難で紛らわしいことから、山手線の車両内でQRコードを掲出できるのは吊り革に限定されているからだ。しかし、QRコードは小さいうえに吊り革は揺れるため、きわめて読み取りにくい。中吊りや、デジタルサイネージに大きく掲出するほうが、ずっと読み取りやすいし、天井近くなら盗撮と間違うこともないだろう。車両内でのQRコード掲示についてもっと寛大になってよいのではないだろうか。

吊り革のうえに、QRコードがついている。ウェブサイト、ARアプリ、ラジオの3種類がある。
吊り革のうえに、QRコードがついている。ウェブサイト、ARアプリ、ラジオの3種類がある。
山手線RADIOのQRコードを読み取ると、専用サイトにアクセスできる。URLがわかれば、車両外からでもアクセスできる。

もうひとつのLINE Beaconは、これをONにしておくことで車両内のBeaconをを受け取れるようになり、「JR 東日本 ChatBot」を友だちに追加する案内がLIINEアプリ上に表示されたり、限定コンテンツへのリンクを通知されたりする。こちらについては、とくに問題なく限定コンテンツへアクセスできた。

LINE Beaconでの通知受け取りの様子。

ラジオ番組の「山手線 RADIO Powered by J-WAVE」は、これまで中吊りやデジタルサイネージでは到達できなかった乗客の「耳」に届けるメディアだ。いまはその音声へのリンクが車内限定で配布されているというだけで、特段おもしろいものではない。ただ、イヤホンやヘッドホンをしている乗客は、音楽や好きなラジオ番組を聞く快適さに身を任せつつ、そこに没入することで周囲の情報をシャットアウトしてしまい、たとえば乗り過ごしてしまうリスクを抱えている。もし車内限定ラジオが、乗車している列車の位置情報と、その人が心地よいと感じられる音声を組み合わせて提供できれば、車内ならではの新しいメディアになりうるのではないだろうか。そのような想像が広がるサービスだ。

もうひとつのARサービスは、私が試したときには、東京タワーがARでスマートフォン内で表示されるだけで、走行位置による変化もなく、車内限定で行う意味が理解できなかった。それどころか、カメラを入れっぱなしにして画面を覗き込むことになり、その背景になる人々にとっては、盗撮そのものだ。QRコードの掲出どころの話ではない。メリットはよくわからず、リスクだけはある、そのように思えるのだが。。。

山手線ARにアクセスし、AR画面がでるまでの様子。東京の名所が出てくるとのことだが、試した限りでは出現したのは東京タワーのみだった。

車掌オリジナル放送

日程や時間帯は限定されるようだが、「山手線 Ver.2020 by 東京感動線」では、走行位置によっては「品川に向けてのこの急カーブは、どれほど曲がるかご存知ですか?なんと140度も曲がるのです」など、通勤電車にも関わらず、まるで観光バスガイドのような車内放送が入る。繰り返しの日常のなかで、当たり前だったことに少し情報が追加されるだけで、ちょっと新鮮になれる。このコミュニケーションは、もっと掘り進めてもおもしろくなるように感じた。

ちなみに走行位置と放送のタイミングがぴったりなので、どのような運用を行っているのか、後方の運転席をのぞいてみたら、車掌が2人おり、1人がアナウンス専門としてマイクを握る、かなりアナログなやり方だった。

ドア上のトレインチャンネルは、専用コンテンツが放映されていたが、ニュースや天気予報は通常どおり。
ドア上のトレインチャンネルは、専用コンテンツが放映されていたが、ニュースや天気予報は通常どおり。
まど上チャンネルは、専用コンテンツに。
まど上チャンネルは、専用コンテンツに。
車窓をメディア化するため、窓ガラスには特徴的な風景を案内するシートが貼られている。
車窓をメディア化するため、窓ガラスには特徴的な風景を案内するシートが貼られている。