デジタルサイネージの近未来を表現している映画「マイノリティー・リポート」はご存知だろうか。虹彩認証によってオフィスのエントランスで、地下鉄のホームで、ブティックの店頭で、至る所で市民は眼球をスキャンされ、サイネージディスプレイが個人向けの広告で語りかける、という場面が有名である。スティーヴン・スピルバーグ監督が映画化した作品で、トム・クルーズが主演した。
昨今の技術革新によって。AIによる個人特定やデジタルサイネージコンテンツの出し分けはすでに実用域に達しようとしているのはご承知のとおりだ。しかし、個人は特定できたとしても(あくまでもプライバシー問題は考慮されるとしてだ)、サイネージの前に複数の人がいた場合に、表示装置も複数必要となり現実的ではない。
ところがこのマイノリティ・リポートの世界がいま、現実のものとなったのである。
ワシントン州ベースのスタートアップ、Misapplied Science社の「Parallel reality」技術がそれを現実のものとした。CES2020のデルタ航空のキーノートで紹介され、同じくデルタ航空のブースで実際に体験することができるのである。
デルタ航空はCESへは初出展で、航空会社としてのキーノート登壇も史上初である。デルタ航空ブースでは、4人一組になってまず最初にタブレットで名前とフライト先、使用言語を入力して、QRコードが付いた架空の搭乗券を発券する。これをスキャンさせるとディスプレイ上にゲート案内や搭乗時刻などのフライトインフォメーションが表示される。ここまでは普通の話だが、驚くことに、4人がそれぞれいる場所から見ると、それぞれのフライトインフォメーションが表示されるのである。あくまでもディスプレイは1台なのに、である。もちろんメガネやゴーグルはなく、肉眼でそれが可能にしているのである。


仕組みはこうだ。新技術による単独ディスプレイによる複数画像の表示と、AIによるオブジェクト認識によって、自分の今いる位置から見ると自分向けの情報だけを表示させることを実現させている。さらにオブジェクトトラッキングによって、移動してもそれに追従してくるのだ。驚くべきテクノロジーである。
これは、「マルチビュー」ピクセルによって可能になる新しいタイプのディスプレイだ。 それぞれがすべての方向に1色の光を放射する従来のピクセルとは異なり、Misapplied Sciencesは、ピクセルが数万または数百万の方向に異なる色の光を送ることができると言う。

面白いのは、他の人の後ろに立つと、その人に最適化された情報だけが見える。前の人に遮られてトラッキングできないからである。しかし、再び前の人から離れると、再び自分向けの情報が見える。詳細はこちらの記事を参照願いたい。
移動しているところを動画で撮影したが、実際に肉眼で見るようにはっきりとは写っていない。これはカメラレンズの位置と目の位置が異なることが原因ではないかと推測する。


同時に何人まで利用可能かと言う問いには、実際の利用シーンから判断して全員ということが回答だ。1万人が見るという状況は想定する必要はない。せいぜい多くて20人前後ではないだろうか。

現状では色数や解像度に課題はあるが、克服されていくことを強く期待したい。
Parallel realityによるサービスは、デトロイト空港のデルタ航空のターミナルで2020年夏から開始される予定である。