傘のシェアリングサービス「アイカサ」をベンチマークせよ

IoT /

打ち合わせに行った会社の入っているテナントビルのロビーに、黒い傘がたくさん並んでいた。来客用の傘立てとしては変わった場所にあるなあ、と思いよく見ると全部同じ傘。さらによく見ると何か看板に書かれている。なるほど、傘のシェアリングサービスか。

ここまで理解するのに1分ほどを要した。このときは現場に早めに着いたのでこんな事を考える余裕があったが、急いでいたらエレベーターに直行で。このサービス気がつくことはなかっただろう。昔から駅などには自由に持っていっていい傘というのはあったが、その殆どは返却される確率は相当低いだろうということは想像できた。昨今のシェアリングサービスブームの中で、傘のシェアリングビジネスがあることは承知していたが、単価も安いだろうから果たしてビジネスとして成立するのだろうか。

という疑問は持ちつつも、その後の筆者の生活動線ではこうしたサービスを目にすることはなく、すっかり記憶からは外れていたのだ。

このサービスの名前は「アイカサ」である。シェアリングの方法はアイカサをLINEで友達登録して、傘についているQRコードを読み込む。傘にはロック機能があり、解除ナンバーはLINEで通知される。よくできたサービスと言うか、ここまではもはやシステムとしては新しくはない。自社開発要素は殆どない。傘のQRコードとロック解除番号は変えることは可能だと思うが、遠隔から制御はできないので(そのコストは掛けられないだろう)、定期的にこれらを直接出向いて変更しているとは考えにくい。つまり同じ傘は常に同じ解除番号だろうと予想される。

利用料金は1日70円。月内上限が420円。使い放題プランは月額280円。ビニール傘が500円程度なので絶妙な値付けだ。アイカサは実はシェアリングビジネスではなく単なる物販なのかもしれないとさえ思える。類似のサービスとしてはモバイルバッテリーのシェアリングサービズChargeSpotがある。

特注したというロック機構

「返却率は100%」ということになっているが、ここはちょっと注意して見る必要がある。オンライン上の各スポットの傘の在庫状況を見ると、定数に対して殆どの場所で1、2割しか残っていないことがわかる。これは返却率が実は低い、というか月額定額料金280円を払ったまま「マイ傘化」していたり、2本目を黙って借りていたりする例があるのではないだろうかと想像する。

シンプルなロック機能がついた傘は、中国の企業と直接交渉して製造を委託。傘立てにもロックをつけて無断で持ち出せないようにしたり、電子看板を設けて目を引く広告を出したりといったコスト増につながる仕掛けは一切排除し、「圧倒的な低コスト」を目指しているという。

BUSINESS INSIDER

ということでコストダウンを徹底化している。デジタルサイネージがあったほうがその存在は確実に気がつくと思うのがだが、この単価規模だと厳しいのは確かだ。

 「マレーシアに留学していた17年当時、日本で自転車のシェアリングサービスへ参入する企業がニュースになっていた。でも東京都内で移動するなら自転車より、徒歩。日本でシェアリングサービスをするなら自転車より傘じゃないか、と直感的に思った」。丸川社長は、起業のきっかけをそう振り返る。既に、傘のシェアリングは中国やカナダでも始まっていたことが背中を押した。

日経XTREND

「日本でシェアリングサービスをするなら自転車より傘じゃないか、と直感的に思った」ここの気付きが素晴らしい。これが正解かどうかはやってみないと誰にもわからないが、十分可能性がある。

IoTやAIの時代にサービスを考えるときに、これは本当にコストを掛けてテクノロジーを使うべきかどうか、という部分を十分検討する必要がある。どこは捨ててもいいのか、どこまで厳密にやるべきなのかという点である。アイカサのモデルは、ツッコミどころは満載で隙だらけである。だが完璧を期したらおそらくビジネスは成立しない。もしかしたら単なる物販なのかもしれない。傘に広告ということも考えられているようだが、クライアントやクリエイティブを選ばないとかっこ悪くて誰も使わない。逆に言えばこれはプラスにも転じる可能性がある。

アイカサモデルはビジネス設計上におけるベンチマークとして注目しておく必要がある。

Tags: