ラズパイ+AzureでTECHBEER!

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先日、ラズパイでTECHBEERを楽しむイベント「アバ酒場」が東京で開催されたが、残念ながら仕事が忙しく、イベントに参加できなかった。関係者に取材したい旨を伝え、先日、アバナード株式会社シニアディレクターの杉本礼彦氏とマーケティングマネージャーの梅野絵美子氏からTECHBEERの開発秘話を伺った。

TECHBEERはラズパイとAzureなどのIoT技術で、アルコール1%未満の清涼飲料水をつくるプロジェクトだ。BEERとあるが、作っているのはアルコール度数1%未満の清涼飲料水で、もちろん販売はしていない。アバナードとラズパイとこのTECHBEERという組み合わせは、筆者にとって?マークだらけで、ここを確認することから取材をスタートした。

同社はアクセンチュアとマイクロソフトの合弁のITコンサルティング企業だが、なぜそこがTECHBEERづくりを始めたのだろうか?

杉本氏はもともとベンチャー企業の創業者で、GoogleやSonyなどに先駆けて2013年にメガネ型ウェアラブル端末「mirama(ミラマ)」を発表したことで有名だ。その彼が創業したベンチャー企業を売却し、今年アバナードに転職した。杉本氏は関西オフィスに配属されたが、アバナードの認知は東京ほど高くなく、ブランディングの必要性を感じていた。杉本氏はこの課題を解決できるアイデアを思いつき、早速行動を開始した。

みんなで楽しくイノベーションしたい。美味しいイノベーションしたい。そこでノンアルコールビールである「TECHBEER(テックビール)」を思いつきました。TECHBEERをやることで会社の枠を飛び越え、AI,IoTの技術の研鑽と楽しく学べる土壌を作りたかったのです。 残念ながら、現在日本のITは海外の「亜流」が多いように感じてます。TECHBEERは日本発、日本生まれの取り組みで「日本人も面白い取り組みできるんだ!」と海外に感じてもらうことを目指しました。Outlookで社内メンバーにアイデアを伝えると反応があり、会社からもすぐに承認され、短期間でこのプロジェクトをスタートできたのです。

杉本氏は最初にTECHBEERのコンセプトと定義を固めた。
1.いかにHW/SW(IoT・クラウド・AI等)のバージョンだけで安定的においしくできるかを追求する
2.使用する原材料をいつも同じにしてHW/SWのバージョンで差が出るようにする
3.同時多発的にいろんなIoTブルワリーが立ち上がると楽しい (オープンソース) 4. 1.と2.に厳密な縛りは設けない
5.要するにおいしく楽しければよい
※ 日本ではアルコール1%以上含むものを作ることは法律で禁止されていて、彼らが作るTECHBEERは1%未満の清涼飲料水。

麦芽シロップと水を混ぜてひたすらシェイクし、泡が落ち着いたら作る量まで加水し、酵母(イースト菌)を投入してさらにシェイクすることから、TECHBEERづくりは始まる。次にTECHBEER醸造庫で一次発酵させ、Azureとラズパイで構成されたIoT装置を信用して発酵を静かに見守る。一次発酵は2週間程度で、温度は22度から28度のように調整されている。22度以下でヒーターオン、24度まで上がればヒーターオフ、28度超えるとクーラーオン、26度以下になればクーラーオフ という制御をしている。

一次発酵後濾過して澱を取り除き、砂糖を加えて(プライミングシュガーと言う)TECHBEER醸造庫で二次発酵を行う。透き通った琥珀色の薫り高いビール風ドリンクができあがる。二次発酵後の澱がなるべく入らないようサイフォンの原理を使って瓶詰めをすれば、TECHBEERの完成だ。

IoTの機材はシンプルだ
①Raspberry Pi 3 Model B+ ×1
②リレー: Y14H-1C-3DS ×2
③モータードライバー: Cytron MD30C ×1
④汎用整流用ダイオード: 1000V1A 1N4007-B ×2
⑤防水温度センサー: DS18B20 ×1
⑥両面ファン付ペルチェ素子: 12V 6A ×1
⑦スイッチング電源 直流安定化電源: 12V 30A 360W ×1

ラズパイ と温度センサとペルチェ素子は物理的につながり、 コントロールのアルゴリズムはラズパイに入っている。

Azureにはラズパイから定期的に、以下の情報をアップしている。
・現在の温度(1分に一度)
・クーラーオン
・クーラーオフ
・ヒーターオン
・ヒーターオン

Azureはこれらの情報をAzure IoT Hubで取得し、データベースに格納する。PowerBIがそのデータベースから、データを取得しダッシュボードに表示する。PowerBIはユーザー操作をトリガーにAzureのデータベースを見に行くだけだ。

現在、Ver3が稼働しているが、LINE メッセージングAPIで稼働状況をモニタリングと庫内画像撮影をし、適切な温度コントロールを実現した。#TECHBEER のLINEアカウントから、インタラクティブにラズパイ が持つ情報をAzure経由して取得する。

LINEがない状態では、ラズパイが能動的にAzureに情報をアップするだけだったが、LINE メッセージングAPIを使うことによってスマホ側からラズパイ に向かってスマホドリブンで情報を取得する。取得するデータは、現在の温度 とカメラ画像で、Azure経由となる。LINEからはPowerBIの起動も行える。

今後はカメラで撮影した発酵状況をAzure上でAIによる機械学習につなげ、さらなる高度なコントロールシステムを確立していく。

大阪ではTECHBEERをつくる会社が増えているそうだ。TECHビールの飲み比べをしながら、より多くの人と楽しくTECH議論がとできればよいと杉本氏は言う。TECHBEERのコミュニティを拡大させ、#TECHBEERオクトーバーフェストを開催するのが杉本氏の夢だ。

マーケティング担当の梅野氏もアバナードはなんでも自由にやれる会社で、チャレンジ精神旺盛だという。確かにIoTとクラウドを使ってビール造りをする大企業は珍しい。結果、関西オフィスの認知も高まり、採用にもつながったそうだ。面白いことをするTECH企業に仕事と人が引き寄せられている。

ここまでが取材時の話だが、原稿を書いていたら、アバナードブラジルとアバナードオーストラリアがTECHBEERをつくり始めたと言う連絡を杉本氏からもらった。

杉本氏はこの動きを受け、以下のようなビジョンをメッセンジャーで送ってきてくれた。

アバナードジャパンでアバナードブラジルとアバナードオーストラリアの機材をつくって、彼らからクラウド経由で制御してもらって、彼らのビール(1%以下)を日本で作りたいと考えています。つまり、国境を越えるのはアルコールではなくてアルゴリズムなんです。

「IoTによる幸せで豊かな生活」を実現するデジタルイノベーションに寄与することが杉本氏のビジョンだが、 彼のような人材が増えれば、IoT業界も活性化するはずだ。世の中の課題を面白く解決する姿勢に筆者は共感を覚えた。