【ダイナミックビークルスクリーン】Vol.01 ビズライト・テクノロジーがメディア事業を行う理由

AI/Digital Signage/IoT/Media /

都心部の鉄道車両では、ドア上にデジタルサイネージが設置され、運行情報や広告を放映するのが一般的になった。各鉄道会社、路線ごとに若干の違いはあるが、機材やシステム、また広告の販売方法は似通っている。しかし、ビズライト・テクノロジーが埼玉高速鉄道埼玉スタジアム線に設置を進めているデジタルサイネージ『ダイナミックビークルスクリーン』は、これまでの車両内サイネージとは一線を画する。これから6回にわたって、この取り組みについてご紹介する。

第1回は、ビズライト・テクノロジーが、なぜ車両内サイネージメディアビジネスに取り組むのかについてお伝えする。

鉄道車両内サイネージのほとんどは、鉄道会社が自社車両にモニターなどの機材を設置し、自社もしくはグループ会社にて運営や広告営業等を行っている。ところが埼玉高速鉄道では、自社ではデジタルサイネージを設置せず、ロケーションだけを提供し、そこでメディア事業を行う業者を選定する形をとっている。埼玉高速鉄道はロケーションオーナーではあるが、メディアオーナーは別なのだ。ビズライト・テクノロジーは、埼玉高速鉄道との協業によってこのメディアオーナーとなり、モニターなどの機材を自社負担で設置し、メディア事業を行う。

しかし、ビズライト・テクノロジーは、メディア企業ではない。「ハードがわかるソフトウェア開発者集団」を標榜するシステムハウスで、政府公官庁や公共交通機関の時刻表サイトなどのサーバ設計や運用を行うほか、Raspberry Piをオリジナル基板と筐体で堅牢化したIoTゲートウェイ「BHシリーズ」を提供している。ここ10年は、デジタルサイネージのシステムにも取り組んできたが、ショッピングモールや駅、百貨店などに対してシステムを納めるシステムベンダーとしてであり、メディアオーナーではなかった。それが、なぜ、新たにメディア運営を行うのか。

それは、現実世界がIoTとAIによってデジタルに取り込まれれ、デジタルサイネージに求められる機能もまた変容しているなか、そこでデジタルサイネージメディアの事業会社になることで、サイネージとともに、IoTとAIがどのような形で利活用できるのか、どのような課題があるのかを自ら考え、経験する場を持つためだ。

背景として、OMO(Online Merges with Offline)の世界観がある。これまでは「オフラインの現実世界が存在し、それとは別に付加価値としてのオンライン、デジタルの領域が広がっている」ように捉えられており、そのなかでデジタルサイネージは、街に飛び出たインターネットとして、オフラインにいる視聴者にオンラインの状況を伝える窓のような存在だった。しかし、IoTやAIの普及によって現実世界にセンサーやカメラが偏在し、AIが現実世界をリアルタイムに解析していくようになれば、現実世界もまたデータ化/デジタル化し、オンラインに内包されていく。これがOMOだ。このなかでは、デジタルサイネージは、センサーやAIと密接につながり、それをもとに人に情報を伝えたり、行動を促したりするデバイスになる。埼玉高速鉄道に設置される『ダイナミックビークルスクリーン』は、各機材がLTE回線でオンライン化されているうえ、カメラや環境センサーを内蔵している。1日に何万人もが視認する可能性を持つメディアで、この世界観をどのように実現するのか、乗客と広告主にとっての映像コミュニケーションがどうあるべきかを考え、それの収益化を行う。これを通してOMOでのビジネスのあり方や、それを実現するためのソリューションについての知見を蓄積できるものと考えている。

たとえば、ダイナミックビークルスクリーンでは、センシングする対象のひとつに広告の視認者数カウントを予定している。電車内OOHでは、中吊りやポスターなどのアナログ媒体からデジタルサイネージへとデジタル化が進んでいるとはいえ、その媒体価値の計測には、アナログ媒体と同じくパネル調査に基づいており、広告取引基準は旧態依然である。ところがダイナミックビークルスクリーンでは、LIVE BOARD社と提携してインプレッション型の広告販売も行う。ウェブの世界では常識であるアクチュアルデータに基づく広告売買となる。ロケーションを固定し、そして時間とロケーションによってシチュエーションを固定できるデジタルサイネージの持つ媒体特性を活かしつつ、ウェブのような広告取引が可能になるのだ。これまで経験と真心で売っていたOOHにとって、これはパンドラの箱かもしれない。しかし、広告主がアクチュアルデータに基づく広告取引基準を求めている以上、いつかは開かれなければならない。この実現には、技術的に様々な課題を解決していかなければならないだろうが、それにはビズライト・テクノロジーが持つサーバ技術やAIエッジコンピュータデバイス開発能力が活かされることになる。

ハードウェアとしてもチャレンジングだ。電車内の環境は非常に厳しく、走行時には微振動があり、線路と車輪の摩擦によって油を帯びた鉄粉が舞い、屋外の車両基地では気温変動も大きい。そのため、鉄道用機材といえば、通常のものと比べて価格の桁が変わることも少なくない。そのようななか、ダイナミックビークルスクリーンでは、映像出力機材のほか、AIエッジコンピューター、LTE通信デバイスを自社ハードウェアの「BHシリーズ」で構築する。BHシリーズは、Raspberry Piの堅牢化を実現して高い評価を受けてきたが、この過酷な環境のなかでさらに鍛えられることで、より堅牢になる。ここで得た経験から産業用途での活用についてアドバイスができるようになることだろう。

また、今後、現実世界のセンシングを行うにあたって、メインとなるのはカメラになるだろう。ダイナミックビークルスクリーンでもカメラを活用する。しかし、カメラを利活用しようとすると、個人情報の取得が行われることになるため、プライバシーへの配慮も必要になる。カメラの利活用によるメリットを提供するとともに、データを適切に取り扱って生活者の懸念を解消し、社会受容性を高めていくことが欠かせない。そのような社会的な問題にも取り組んでいく。

またこれらは「ダイナミックビークルスクリーン」と称している。決してトレインに限定をしていないのである。これは今後の自動運転車も含めたさまざまなビークルを対象としているからである。

ビズライト・テクノロジーは、これからも顧客の課題を技術で解決するテクノロジーカンパニーであり続ける。そのために、埼玉高速鉄道での車両内サイネージメディア事業に取り組む。乗客や広告主に技術の活用事例をお披露目し、新しい映像コミュニケーションのあり方を提示するとともに、ここでの経験や知見を、各社にフィードバックしていきたいと考えている。