DSAテクノロジーを加速させるAIチップ競争

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DSAという言葉をご存じだろうか。Domain Specific Architectureの略で、汎用的なアーキテクチャでCPUなどのデバイスを高速化するのではなく、特定のアプリケーション向けで構わないので従来のテクノロジーに固執することなく高速化すればよい、という概念だ。

これは、ムーアの法則、すなわち18か月で半導体の集積率が2倍になる(すなわち処理速度もほぼこれに比例して速くなる)という経験則に陰りが見えてきた昨今、より強く意識され、特にAIの分野において、つまりAIチップと呼ばれている分野で多くの半導体メーカーがこのベースコンセプトに傾倒しつつある。

NVIDIAが先頭を走っているが、そもそもAIの学習や推論に利用されているGPUはGraphics Processing Unitの略であり、本来は画像処理、それも主に表示を高速にするためのチップであり、本来はAIチップでもなんでもない。そもそもGPUが出現した当初はディープラーニングなんて言葉もなかった。

最近では、NVIDIAもAIアプリケーションを意識した命令セットなどもGPUにインプリメントしているが、あくまでも汎用画像処理チップがAIの計算に相性が良いことに“誰か”が気づいて利用したものでしかなく、アーキテクチャは汎用のモノだ。(もちろん画像処理に最適化はしているが)つまりGPUのAI需要はドラッカーのいうところの予期せぬ成功なのだ。

ところが、例えばエッジAIの分野からすると、GPUをエッジデバイスに搭載することは非現実的だ。色々な理由があるが、一番は消費電力であり、二番目には回路設計の複雑化があげられる。当然コストはそれに比例して上昇し、堅牢性は反比例する。(だから、NVIDIAは、JetsonNanoなど、戦略的なAI向けワンボードを展開しているのだが)

まして、スマートフォンにAIアプリケーションのために、GPUを積むなんて、もっと非現実的な選択肢となる。だから、GoogleやAppleは、自社で専用AIチップを開発し、また、IntelはMyriad Xなどの専用チップを提供している。

こんな中、アメリカのスタートアップで、ジルファルコン・テクノロジーという会社がリリースを開始したAIチップが非常に興味深い。https://www.gyrfalcontech.ai/

いわゆる、AIチップ(アクセラレータ)と呼ばれるデバイスを開発、リリースしているのだが、そのアーキテクチャが「極めてDSA」なのである。

できるだけ専門用語は避けたいのだが、
①CNN(画像処理系AIの処理方法のひとつ)に特化していること
②画像サイズなども必要最低限のものとしている
③一方、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memor 磁気抵抗メモリ)という技術期待値は非常に高いがまだ一般的ではない超高速不揮発性メモリを採用
④超低消費電力(処理能力あたりの消費電力は現在世界最高レベル)

などの特徴をもち、2019年10月リリースのLGのスマートフォンなどにも画像処理チップとして採用されている。

この会社、チップが市場を席捲するかどうかは正直筆者にはわからない。しかし、ひとつ言えることは、DSAの考え方は、AIアプリケーションの普及に伴い、確実に浸透し実践されていくであろうことだ。懸念されるのは、日本の従来型の半導体メーカーが最盛期50%の世界シェアから、10%まで凋落してしまった本当の理由は過去にも存在したであろう、この種のマーケティングパラダイムシフトに気付かなかったことだと果たして心から反省しているのか?という点だ。個人的な意見だが、多分これが最後のチャンスだと思う。

AIテクノロジーが半導体メーカーの運命さえ左右する時代になっているのだ。

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