今日、10月4日は「投資の日」だそうだ。これは単なる語呂あわせだが、たまたま先日「TOKYO PRO Marketに上場して、“地元のスター企業”を目指してみませんか?」こんなメールが舞い込んだことを思い出した。送り主はM&Aコンサルティング最大手の(株)日本M&Aセンターだ。
ベンチャー企業にとってIPO(新規株式公開)は、大きな資金調達手段であると同時に、経営者にとってはひとつのマイルストーンとなるものだ。我が国においては例年100社ほどの企業がIPOを果たしている。
市場 | 区分等 | 2017 | 2018 | 2019 |
東京証券取引所 | Ⅰ部、Ⅱ部 | 19 | 12 | 11 |
〃 | マザーズ | 49 | 63 | 48 |
〃 | JASDAQ | 20 | 14 | 6 |
地方市場 | 札幌、名古屋、福岡 | 3 | 1 | 3 |
合計 | 91 | 90 | 68 |
*市場別 年間新規上場銘柄数の推移(重複上場は東証にてカウント、2019年は10月末までの予定含む)
これをみると、東証マザーズが多数(平均して6割以上)を占め、規模や業種によって他の株式市場が選択されている図式になっていることが窺える。さて一方で、こういった、”通常”のIPOに加え、第5の選択肢として、東京証券取引所が主管する”TOKYO PRO Market”が存在し、地味ながらも順調に銘柄数が増加しているのをご存じだろうか。
市場 | 区分等 | 2017 | 2018 | 2019 |
東京証券取引所 | TOKYO PRO Market | 7 | 8 | 7 |
*TOKYO PRO Marketの新規上場銘柄数の推移(2019年は9月末まで) ~地方の取引市場(札幌、名古屋、福岡)の新規上場銘柄数を圧倒的に上回っている~
TOKYO PRO Market上場の特徴のひとつが、J-Adviserの存在だ。J-Adviserは上場を希望する企業の上場適格性を評価し、上場までの過程においてアドバイスや指導を行う役割を受け持つ。J-Adviser制度はTOKYO PRO Marketの運営の中核を担っており、上場をするにあたってはJ-Adviserを確保し、契約することが必須要件となっている。

近年順調に上場企業が生まれているのはこのJ-Adviserの尽力によるところが大きいと思われるが、現在、下記の10社がJ-Adviserとして資格を取得しており、冒頭の(株)M&Aセンターは、今年7月に前身の株式会社 OJADから事業を承継する格好で新規参入を果たしている。
J-Adviser名 | 現在の契約銘柄数 (他社からの承継含む) |
㈱アイ・アール ジャパン | 1 |
SMBC日興証券㈱ | - |
GCA FAS㈱ | - |
大和証券㈱ | - |
宝印刷㈱ | 9 |
㈱日本M&Aセンター | 3 |
野村證券㈱ | - |
フィリップ証券㈱ | 18 |
みずほ証券㈱ | 1 |
三菱UFJモルガン・スタンレー証券㈱ | - |
注目すべきは、上記10社のうち、(株)アイ・アールジャパン、宝印刷(株)、(株)日本M&Aセンターは、ここ2年間で資格を取得(事業譲渡によるものを含む)した、「証券取引を専業としていない会社」(金融商品取引業としての許認可を得ているかどうかは別として)である点だ。
この点について、(株)日本M&Aセンターは、TOKYO PRO Market上場を、「深刻な人材不足に対応するための経営戦略」の一つとして地方の企業に対し提供するメニューと位置づけている。本業のM&A仲介ビジネスにとっても、資本政策の一部を構成するものとして掲げられるし、透明性・信頼性が高まった企業とのつながりを強めることは、重要な経営資源となるだろう。 同様に、宝印刷㈱、㈱アイ・アールジャパンにとっては、戦略的に、次の上位市場に向かう”金の卵”を確保することで、将来のディスクロージャ支援ビジネスの拡大に寄与することを目指していると思われる。
このように、周辺サポーターが市場を活性化させる役割を担っているのは大いに歓迎すべきところだが、上場時に一般投資家に対する新規株式発行が(ほぼ)発生しないことや、上場後においても実質的に株式の売買が成立しないためか、証券業を営む会社が及び腰だ(それどころか、むしろTOKYO PRO Marketへの上場は否定的である声も聞く)。この点、残念ではあるが、現実に一般投資家への貢献度合いが低いため、そのような判断となるのは致し方ないところだ。
TOKYO PRO Markat上場が企業の信用供与になることに留まることなく、今後、新たな資金調達や株式流動性の上昇、そして上位市場に至るステップとしての役割を持つことを大いに期待したい。そうなれば、証券業各社も積極的にJ-Adviserとしての役割を担う動機となり、さらに市場は活性化するのではないだろうか。もちろんそのためには、多くのTOKYO PRO Market上場企業が収益を上げ成長し、上位市場へ羽ばたくというエビデンスが必要だ。
全くの想像で恐縮だが、1社も上位市場にシフトしない状況があと2年も続いたら、あっという間にシュリンクしてしまうような気がするのだ。 すべての上場企業とは言わないが、次々と上位市場へ卒業し(過去実績は1社だけ!)、継続的に”文句なし”の上場を果たすことがTOKYO PRO Market 上場企業に課せられた使命といってもいいのではないだろうか。