オランダで見えた5G時代に重要なこと

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オランダへ出張した時のこと。アムステルダム市内で移動のために地下鉄に乗ろうとして、あまりにも感動してしまったので、つい電車を一本遅らせてしまった。これこそが5G時代に必要なことだと、目から鱗が落ちたのだ。

百聞は一見にしかず(この言葉も本稿の伏線である)。まず冒頭写真をご覧いただこう。ドアが開くと、車両の扉枠のあたりが緑色になっている。これが、ドアが閉まる時には、赤い色になるのだ。

 写真の撮り方のせいで、ちょっと分かりにくいかもしれない。そこで、入線から発車までの動画を貼り付けておく。これだと、何が起きているのか、一目瞭然だろう。

求めるべき目的は、乗降の安全。その時に伝えるべき情報は、この電車は安全に乗れます、または発車するのでもう乗らないでください、この二つである。それ以外の情報はむしろ伝えるべき情報を邪魔するノイズとなりうるのだから、その二つの情報だけをできるだけ多くの人に理解してもらうことが大事だ。

しかも対象となるシーンは、地下鉄の乗り降りである。都市交通である以上、悠長に構えていては地下鉄の価値が台無しだ。直感という高スピード処理(正しくエッジコンピューティング的な人間の認知)で理解してもらう必要がある。

その時、彼らは考えたのだろう。緑は進め、赤は止まれ。それはおそらくみんな知っている。だったらそれを理解してもらえばいいだけのことだ、と。

文字で「発車間際の駆け込み乗車は…」と表記する方法もある。しかし、オランダ語が読めない人には伝わらないし、読める人だって文章を追いかけている時間が無駄である。あるいはピクトグラムのような表示方法もあるだろう。しかしそれも回りくどいことには違いがないし、表示の仕方では視界に入らない可能性もある。そしてそれを確実に見せるように設置すると、景観が鬱陶しくて、むしろ無視するようになる。

いやいや、色弱・色盲の人は、赤と緑が分からないではないか。そういう方は再度動画を見ていただきたい。赤色のライトは点滅灯になっている。これなら色の識別は関係ないし、交通信号と同じだから直感的に理解できる。

さらにアムステルダムの地下鉄がスマートなのは、ホームではなく車両に着けているということ。こうしてすべての乗降で確実に示すことができるし、設備の設置やメンテナンスの費用も軽減できる。なにより、地下鉄が発車したあとのホームが、極めてクリーンだ。地下鉄ホームの24時間を冷静に考えてみれば、ホームに車両が入線している時間は、全体のごくわずかなのである。

アムステルダム地下鉄の乗降サインには、都市空間の中で我々はどんなふうに情報を表示すべきか、というヒントが凝縮されて詰まっている。実現したいことを明確化し、その達成のために可能な限りノイズとなる要素を省く。先入観さえもノイズとなるので、ゼロベースの志向で、多くの人に伝わる手段を改めて探す。そしてそれを最も合理的な方法で実現する。正しく、百聞は一見にしかず、である。

その視点をもってみると、日本の都市部は残念ながら悪いお手本ばかりである。どこに行ってもゴチャゴチャしすぎていて、むしろそれが日本の景観として理解されるほどだが、これはいわば皮肉であって、日本に暮らす我々はやはり何かを見直さなければならないはずだ。

アムステルダム地下鉄のこの路線は、ここ数年の間に開通したもので、歴史が浅い。だからこそ最新の知見を導入できたのだろう。それは後発の優位性であって、ロンドンや東京のように歴史がある地下鉄は、どこもゴチャゴチャしていて、いかにもハンディキャップを負っている印象だ。しかし我々は新しい時代に生きているのだから、最新の知見もできるだけキャッチアップしていかなければいけない。

そしてこれは、5G時代に重要な要素が、少なくとも二つ含まれている。一つは、IoTがあちこちにバラまかれて、空間のデータ化(アンビエント・コンピューティング)がはじまる時代に、我々はいかに情報を「省く」ことで本質に迫れるか、という表現の技量。そしてもう一つは、そもそも目的達成(今回の場合は乗降の安全である)のために、人間をどのように動かせば良いのかという行動科学の知見、である。

超高速や低遅延といった、5Gの技術要素だけを追いかけていては、おそらく5Gという大きな波を乗りこなすことはできない。必要なのは要素単体の理解ではなく、それを社会に還元した時に、何をどう達成するか、ということなのである。

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