Wilfried PohnkeによるPixabayからの画像

ベトナムで見つけたQRコードの可能性

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10月1日に消費税が増税された。同時に、キャッシュレス競争が始まる号砲が鳴り響き、いまやあちこちで「増税前より安い」と言わんばかりの、割引やポイント還元の嵐である。本当にそんなことで増税による消費の落ち込みをカバーできるのか疑問だったのだが、コンビニのレシートにキャッシュレスの還元分が記載されていると、ついうっかりニヤリとしてしまう。

そんなキャッシュレス競争の主役の一つが、QR決済である。あれだけテレビCMを流していれば、知らない人はさすがにいないだろう。実際、使っている人もぼちぼち見かける。たかだか数年でここまで認知度を高め、それなりに普及を進めているというのは、なかなかのものである。ところがネット上を中心に、ICカード陣営との「論戦」が起きている。

ICカード派は、QR決済なんて面倒な手続きは行列を長くするだけだ、広く普及しているICカードでいいではないか、と声高に主張する。一方のQR決済派は、加盟店の手数料の低さやスマホさえあれば誰でも使える利便性は無視できない、そもそも広く普及といっても都市交通が発達したエリアだけで、地方にはICカードを使える場所は少ない、と反論する。

どちらもそれなりに正論である。なのでGASKETは、どちらでも使えればいいと思っている。もちろん、日本のICカード普及が少々いびつであること、そしてキャッシュレスを本気で普及させたいのであればQR決済は無視できない手段であることなどは承知しているが、肩入れをするまでもなく、最終的には消費者が決めていくことだろう。

それよりも、QRコードを使ったやりとりには、キャッシュレス云々とは異なった効果があることに、ベトナムで気がついた。

写真はベトナムの通信事業者VIETTELで購入した4GのSIMである。旅行を終えて、日本に帰ってきてから撮影したものだ。ということは、このSIMはスマートフォンには差し込んでいない、ということである。

何かに失敗して使えなかった、というわけではない。現地ではまったく問題なく使うことができた。日本に帰ってきてからもローミングで電波を取っているくらいである。そう、何のことはない、種明かしをすればiPhoneのeSIMを使ったまでのことだ。

iPhoneXRに買い替えてから、海外でeSIMを使うことが増えた。当初は料金が多少割高だったのだが、最近はかなりこなれてきた印象で、それほど価格差は感じない。それよりも、利用のための設定の簡単さや確実さが増したという安心感は大きい。スマートフォンや現地での通信サービスの購入にはそれなりに慣れているつもりのGASKETだが、最近はひとまずeSIMを探すようになった。

ただ、このeSIMの申し込み方が、まだ一本化されていない。ある国のある通信会社はApp Storeで買えというし、また別の国では店頭にあるQRコードをスキャンしろという。ベトナムのVIETTELの場合は、店頭に出向いて設定してもらう、というものだった。

そんなまどろっこしい手続きはむしろeSIMを阻害しているのではないか。そもそもGASKETはベトナム語を喋れるのか……そんなふうに思われるかもしれないが、確かにベトナム語は挨拶程度で数字も数えられない。そしてVIETTELの店員は逆に日本語ができない。しかしだからこそ、店頭のQRコードによる手続きは、結果的に安心だったのだ。

手続きを説明しよう。まず店頭でeSIMの申し込みをしたい旨を伝える。赤子のように「eSIM、eSIM」と言っていれば大体は伝わる。混んでいる場合は座って待てと指示され、呼び出されると対面カウンターで店員に端末を渡す。店員はそれと引換に、容量と値段だけを書いた、ものすごく簡単な値段表(お品書き)を渡す。GASKETは躊躇せず「これが欲しい」と指で示す。

すると店員は手慣れたもので、日本語の画面設定やアイコン表示等にも臆することなく、サクサクと設定画面に出ていく。ここでiPhoneXRだとQRコードをスキャンするという手続きが出てくるのだが、店員が操作する業務用PCに表示されたQRコードで、サッと手続きを終わらせる。あとは開通チェックをして、支払いをすれば終了だ。

写真のSIMは、そのeSIMの番号と紐付いたものである。特に使う必要はないが、ルールだから渡しているということらしい。eSIMが使えなくなったら試してみろ(ただし使えるかは分からない)、というようなことを言っていたような気がするが、実際は分からない。ただし1週間の旅行中にトラブルはゼロだった。

さて、本稿のテーマは「QRコードの可能性」である。上記のどこに、その可能性があったのか。そう思われる読者もいるかもしれないので、そろそろはっきりさせておこう。

ベトナム語の話せない日本人観光客のGASKETは、従来のSIMだとそもそも正しいものを買えなかったかもしれないし、買えたとしても設定で躓いてしまうかもしれない。店頭に出向けば手続きをしてくれるかもしれないが、そこまでたどり着けるかも、やはり分からない。

しかしQRコードによるeSIMの手続きがあることで、互いが会話をすることなく、簡単かつ確実に通信サービスを購入するところまでたどり着ける。しかも料金プランがシンプルなおかげもあって、手続きの所要時間は10分を要していない。

そう、QRコードの可能性とは、こういうことなのだ。つまり、業務手続きのユニバーサルデザイン化、ということである。

考えてみれば、決済という高度かつ慎重さが求められる処理が、支払う側も受け取る側も簡単にできるというのは、QRコードが業務手続きをユニバーサルデザイン化していることの恩恵である。そしてそれは、運用コストを下げることにもつながるし、下がったコストは手数料の低下やポイントという形でステークホルダーに還元もされる。エコシステム全体を考えると、なかなかよくできたシステムと言えるだろう。

もちろん、慣れない間は、消費者の利便性は低下する。実際、レジの前でもたついている人を見かけることもあるだろうし、ICカードならあっさり決済できるのに、とイライラしながら眺めることもあるだろう。実際、駅の改札でQRコードを使われるシーンを想像するとややしんどいものがある。

だとしたら逆もまた真なりで、QRコードにもその特徴を活かした出番は少なくないはずだ。つまり適材適所ということである。

今はまだ、その利用シーンを十分に見つけられていないがゆえに、QR決済への風当たりが強いのだろう。しかし単なる決済手段ではなく、誰でも簡単に手続きできるようになると考えれば、決済手段のさらに前段階である、そもそもの事業機会を広げることにもつながる。そんなQRコードの奥深さを、増税の大騒ぎが終わってから、いずれ改めて考えてみたい。