ジュンク堂書店池袋本店の1階にデジタルサイネージやセンサーを組み込んだデジタルシェルフが設置された。棚板が横長のデジタルサイネージとなって映像が流れるほか、センサーで客がどれぐらい棚のまえに来て本を手に取ったのかデータを取得しようとするものだ。オフラインストアでのお客の行動をデータ化して活用するアフターデジタルの流れのひとつと言える。
本棚のデジタルサイネージには、書籍名とともに「全米ベストセラー」「どんな難問もスラスラ解ける」などのコピーが画面いっぱいにテンポ早く次々と表示されていた。
画面は液晶モニターではなく、筐体内のプロジェクターからリア投影している。

棚の滑り止めの出っ張り部分には、センサーが設置されている。本を手に取ったときに、このセンサーで感知しているものと思われる。

デジタルサイネージが設置されていない棚に、人感センサーも1個だけ設置されていた。

早い段階からAmazonの脅威にさらされてきた書店は、自らオンラインに進出してECを開設するなどして対抗してきたが、相手の得意フィールドに出る形では勝つのは難しく、状況は芳しくなかった。それに対して今回のデジタルシェルフは、実際にモノとしての本が並んでいるオフラインショップの強みを残したまま、客の行動データを定量化して活用するデジタルの強みを取り入れようとの試みだ。いち生活者の実感としては、Amazonよりもオフラインの本屋のほうが、ずっと多くの本に接することができ、偶然の出会いも多いなど、オフラインならではの強みは多い。これをデータ化して示し、さらに活用した店舗づくりを行えば、売上だけではない価値を出版社と読者の双方に提供し、自らの存在価値を示すことができるはずだ。
ただ、その手段として「デジタルシェルフ」が適切なのかというと首をかしげてしまう。店舗全体で客の行動を計測、分析していこうとするとき、給電や通信のために結線が必要なセンサーをすべての棚に設置し、メンテナンスするのは非現実的だ。また、人感センサーをばらまいたとしても、取得できるデータは断片的なものになって価値は小さい。それよりも、Amazon Goやトライアルの店舗のように、天井にカメラをつけて画像解析するほうが、ずっとコストも少なく、多くの情報を得ることができる。
それどころか、POPの代替である棚のサイネージに至っては、オフラインの良さをかき消している。本屋のPOPのよさは、手作り感があることによって、広告や販促ではなく、個人の口コミやレビューに近い形で、メッセージを届けられるところだ。大仰なコピーよりもリアリティーがある。これを小綺麗なデジタルにして企業色を前面に出すのは、自らの強みを放棄している。


また、本棚のような近い距離で、大きな動きのある映像がながれると、非常にうるさい。本を手にとって読んでいるときにも、映像が目に入ってくる。大きな画面で動画を流せば、確かにアイキャッチにはなるだろう。しかし、アイキャッチしたところで、その映像を見た生活者が何を感じるのか、どのような受け止めるのかまで考えていなければ、それはただの視覚汚染であり、店舗のイメージにとってマイナスになりかねない。
ひとりの本好きとしては、オフライン書店が自身の存在価値を証明していくのにOMO化は適切ではあるが、その手段としてのデジタルシェルフは不適切、そう感じずにはいられない。