【IBC2019】Vol.06 ブラックマジックデザインの295ドルのスイッチャー

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ブラックマジックデザインがミニスイッチャー「ATEM mini」を発表した。ミニスイッチャーと言ってもHDMI4入力で最低限のDVEも内蔵しており、放送局でも十分使える。価格は295ドル。こういう製品がこういう価格で出てくる背景に注目してみる。

詳細の機能についてはブラックマジックのwebで確認して欲しい。できることは最大4台のカメラと2本のオーディオをのライブスイッチングである。こうしたスイッチャーで蔑ろにされがちなのがオーディオ系だが、ATEM miniには6バンドのイコライザー、コンプレッサー、リミッターを含むオーディオミキサーも付いている。さらに物理スイッチャーだけではなく、WindowsとMacで動作するソフトウエアのコントロールパネルも無償提供される。出力はUSBとHDMIだ。要するにカメラとマイクがあればわずか295ドルでミニ放送局ができてしまう。いかにもブラックマジックらしい製品だ。

これまでもこうしたミニ放送局を実現するものはいくつか登場してきている。それまでの重厚長大な放送システムを最初に置き換えようとしたのはPlay社のTraicaster(現在はNewTech社)だろう。それまで何億円、何十億円も必要だった放送機器群をわずか100万円の箱一つできるようにした。その次に画期的だったのは、筆者も愛用しているMEVOだろう。これは1台の4Kカメラから最大8画面をクロップして、スマホのアプリでライブスイッチングを行うというもの。MEVOの方がお手軽ではあるが、カメラアングルの設定や画質に当然限界がある。その点ではATEM miniは普通のデジタルカメラを流用できるので高画質になる。

こうしたライブスイッチャーのニーズが果たしてどのあたりにどれくらいあるのか。まず大事なことはこれらは当然ながら基本的には全部ライブ用であることだ。そう考えると企業がオウンドメディアで利用すると言っても、ライブでやり切るニーズがどれくらいあるのか。たぶんあれやこれや編集したくなるのではないかと推測する。いわゆる企業VPのスタイルだ。学校放送というのもあるだろうが、果たしてスマホネイティブが興味を持つのだろうか。YouTuberはどうだろう。彼らの多くの映像手法は1カメ完パケで、いわゆる「ジェットカット」を多用する。おそらく今の多くのYouTuberはライブでは持たないからだろう。実況系のYouTubeもだいぶ多くなってきている感はあるのだが。4カメを使いこなすことは簡単ではない。

CSやケーブルテレビ局、ネット系の配信あたりは強いニーズがありそうである。プロなんだけれど費用あまりかけることなく、数多くの配信環境を持ちたいような場合である。

ライブものの基本は、完パケと違ってドラマ、ストーリーはカメラの前で完結していることである。音楽、スポーツが端的な例で、物語は音楽とスポーツそのものにもともとあり、カメラはそれを拝借しているわけだ。そういう点から考えると、もともとそこでストーリーができている場所、そしてそれをその場限りではなく、ほかの場所にいる多くの人にも伝えたいというニーズがある場所だ。例えばそれはレンタルスタジオ、ライブハウス、講演やセミナーだろうか。

こうした場所にATEM miniをベースとした配信システムの提案をするいわばミニSIerみたいな仕事はありだろう。もう一つはATEM miniによるライブ配信環境を提供するロケーションレンタルビジネスだ。高円寺三角地帯はかなり本気なスタジオになってきているがイメージとしては近い。

ブラックマジックのライブスイッチャーは、きちんとしたクオリティーの映像を手軽に作り出すことができる。映像ビジネスとは異なる領域に映像を持ち込むことによる広がりを期待できるのではないだろうか。

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