価値観の合わないAIがあなたの視野を広げる

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強度の近眼である私は、眼鏡屋で試着をしても鏡がまともに見えないため、メガネを選ぶときには家族に見てもらったり、近くにいる店員におすすめを聞いたりして選んでいた。ここ数年ではARによる試着シミュレーションサービスを提供する店舗も出てきているが、メガネのフレームを2D的に顔に乗せるだけで遊びの域を出ず、イマイチである。面倒だが試着した姿を自撮りしてメガネをかけてから眺めるほうがずっとマシだ。メガネの試着が面倒なのは仕方ないと半ば諦めていたのだが、上野駅の改札内にあるJINSに行ったら、メガネ姿をAIで認識し、そのメガネのお似合い度を判定してスコア表示してくれる鏡があった。

写真だとわかりにくいのだが、ハーフミラーの裏側にモニターがある。メガネをかけた状態で鏡を向くと、自動的にお似合い度が測定されて表示される。

この鏡は、JINSが開発したAI「JINS BRAIN」を搭載しており、メガネをかけて鏡に正対すると、鏡が顔を認識して「女性視点」「男性視点」で、どれぐらい似合っているかを判定してスコアを表示する。そこそこ大きい文字で表示されるため、近眼の私でもスコアを読める。ゲーム感覚で、目の前に並んだフレームをいろいろと試すことができる

ただ、この鏡を前にし、いろいろなフレームを試してみたのだが、このスコアを購入するときの参考にするかといえば、私は使わないと思った。気に入って買ったメガネのスコアが、「男性視点 63%」と低評価だったのに対し、冗談でかけたジョン・レノンのような丸メガネが70%超と評価され、このAIのスコアと私の感性はまったく相容れないと実感したからだ。このAIは、JINSの店員がメガネをかけた顔写真の似合い度を評価し、それを教師データとしており、そのあたりのお遊びツールとは異なるようだが、それにしても私の感性とは合わない。私は、JINSの店員さんに「お似合い」と言われても、喜ばないほうがよさそうだ……。

しかし、JINSのメガネはカジュアルな価格帯なため、複数のメガネを購入してシチュエーションやスタイリングに合わせて使い分けることもできる。そうなると、完璧な一品をチョイスするためにこのスコアを活用するのではなく、この鏡をきっかけとして普段だったら関心を持たないようなフレームを試着させ、「これもアリなのか」と、そのお客のメガネのラインナップを作ることに貢献できれば、十分に役割を果たしているといえる。

また、私はこのAIに身を委ねるまでには至らなかったが、本当に優れた感性を見せてくれるのであれば、自分とは異なる価値観を提示してくれる意味は大きい。最近では、ウェブ上で出てくる広告は、すべて「私が興味を持っている」「私が気に入る」ためにパーソナライズされて提供されているため、これに接しているだけだと情報が偏り、視野が狭まってゆく。オンラインストアでも、嗜好に合った商品ばかりが目の前に提示され、おすすめされる。しかし、目の前にさまざまな商品が実際に並び、手を伸ばせばすぐに試せるのがオフラインストアの強みだ。それであれば、「あなたのため」の情報を提供してスムーズな購入を促すだけでなく、異なる価値観を提示してカオスを作り、選択の幅を広げ、さまざまなものを試させることで新たな発見へとつなげる、そのような機能のほうが、オフラインストアの価値を高めさせるのかもしれない。

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