品質保証に苦しむIoT、エッジコンピューティングの現場

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かつて産業用途向けコンピュータには大きくわけて2つの流れがあった。ひとつは、SBC(シングルボードコンピュータ)と呼ばれるもので、一般的には、PCB(基板)単体での供給パターンが多く源流はマイコン(マイクロコンピュータ)ボードであり、8bit時代から存在してきた。シリアルポートやパラレル入出力を持ち(今は、これらを統合してGPIOと呼んでいる)、CPUの生のバスを出力しているものも多かった。画面出力などは持たず、いわゆる機器組込と呼ばれる分野で使われてきた。時代が進み、IPへの対応が不可欠になってくると、OSレスでいちからプロトコルスタックを書くなんてほとんどムリな話なので、色々な機器組込(エンベデッド)OSがサポートされるようになっていく。現在ではLinuxベースであることが多い。開発言語はアセンブラやCが主流だったが、こちらもOS時代になり、現在ではPythonなどのスクリプト言語での開発も珍しくはない。

もうひとつの流れは、PCアーキテクチャそのままで、ハードウェアの堅牢性などを強化、保証したものである。Windowsベースで開発されることも多く(当然Linuxも動く)、冷却ファンがあると故障の原因になるので、冷却ファンを搭載していないことが多いため、ファンレスPCという呼び方をすることも多い。こちらは、GPIOなどはないので、外部制御をしたい場合、USBポート経由のIOユニットやUSBシリアル変換ケーブル、みたいな外部デバイスを利用することが多い。

前者は数万円からかなり高くても10万円以下。後者は10万円~20万円が中心価格帯である。この両者の棲み分けは何か?一番はCPU性能。SBCは大抵小規模の信号処理やデータロギング用途がほとんどでCPU性能が要求されない場合。後者はもっと重たい処理を要求される場合だ。そしてもう一つ重要な要素がある。それは、一定以上の高解像度の画面出力を要求されるかどうかだ。情報発信の場合もあるし、マウスやタッチパネルでの操作に画面が必要な場合もある。SBCは画面出力に対してほとんど対応をしてこなかった。

ここで新たな流れが起きる。RaspberryPiに代表される低価格オープンソースハードウェアである。Arduinoは画面出力を基本的に持たない。そういう意味からすると、ピュアなSBCの流れと言った方が正しいのだろう。一方、RaspberryPi、Tinker Board、 Jetson などはすべて、2K以上のHDMI出力を持つ。(Raspberry Pi4では4Kをサポートした)

便利なUI、情報の多い画面を要求される場面に、SBCの形態であるRaspberryPiなどが名乗りをあげたのである。もちろん、実使用では画面出力が不要でも、開発中やデバッグ中に画面で操作できることも有用である。そしてCPU性能は大体2世代前のノートPC程度をキープしているから、そこそこ重たい処理でもこなせてしまう。
RaspberryPiに代表されるこういった類のSBCが支持される大きな理由がここにあるのだ。(エッジAIへのサポート、低価格、情報量、その他たくさん理由はあるが、物理的機能という意味で)

画面出力が必要で、SBCの形態で、そこそこのCPUが必要で、簡単に開発できて、となるとRaspberryPiなどを利用するしか方法が無いのである。いや、もうひとつある。それはCPUボードを自社設計する方法である。では、自社(パートナーでも良いが)で64bitのCPUを設計できて、Linuxを移植して、エッジAIを移植して動かせるエンジニアは存在するのか?正直そんな会社は今の日本にはほとんど存在しない。よしんば存在したとして、どうがんばっても1万台以下しか出荷されないであろうプロジェクトにそれだけの開発費をつぎ込めるのか?選択ではなく、消去法として、RaspberryPiが残ってしまうのである。

ここで問題が起きる。RaspberryPiを利用したときに、誰がその性能(特に堅牢性や安定性)を保証するのか?特に大企業では品質保証部門はこれにGOを出すことはできない。電解コンデンサひとつひとつを選別している保証ポリシーにおいて、RaspberryPiを単純なひとつの部品として定義することができないからだ。

確かに生命にかかわる場面で使って良いのか?と聞かれれば簡単には答えられない。しかし、他のソリューションでこれを保証するにしても、絶対に壊れない、バグが出ない機器というのは存在しない。フォルトトレランスやフェイルセーフ設計をしてこれを回避しているはずだ。先日打合せをさせてもらった案件もまさにこの状態に陥り開発現場が苦しんでいた。しかしその機能自体はサービスを向上させるものであり、万が一CPUが死んだとしても、大事故にはならない、サービス維持可能な要件であったにもかかわらずである。

日本のモノづくりはその堅牢性や安定性で優位を築いてきた。しかし一方、割り切りであったり、例えばRaspberryPi自体を暴走させない方法を考えるなど、そもそもの品質保証の考え方を変える必要に迫られているのではないだろうか?悪いものを出してしまえ、と言ってるのではない。最適な品質保証への新たなガイドラインが必要なのだ。日本の最大の強みである品質は新たな苦しみを生み出している。

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