LUSHのアプリは役に立たないから意味がある

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スキンケアやヘアケアなどの商品を取り扱うハンドメイドコスメのLUSHが、6月1日にアジア最大の旗艦店としてLUSH 新宿店をオープンした。最近のLUSHのデジタルの活用にズレを感じていたのだが、オープン早々の新宿店を訪問したところ、ズレながらも最終的には同社の取り組みに適合している、不思議な納得感があった。

LUSHの特徴として店頭のシンクがあげられる。それを使って客に石鹸で手洗いをさせたり、水を溜めてバスタブに見立て、バスボムを溶かす実演を行ったりするなど、体験を重視した店舗になっている。また、同社では環境負荷軽減のために包装しない「ネイキッド商品」を開発しているが、これらをそのまま店頭に並べているのも特徴のひとつだ。店頭にまるでケーキのようなナマモノが並んでいるインパクトは大きいものの、「包装=説明」がないため、何に使えるのか、どのように使うのかがわからないのだ。そのため、自然とスタッフとの会話が生まれる。そこで、スタッフの主観も入った使い勝手や感想、その他のおすすめ商品などを聞いているうちにその気になり、シンクでの体験、購買へとつながっていく。わかりやすくない商品展示が深いコミュニケーションを促し、ブランドへの愛着を生んでいる。

一見するだけでは、用途や特徴どころか、これが石鹸であることさえもわからないLUSHのネイキッド商品。
一見するだけでは、用途や特徴どころか、これが石鹸であることさえもわからないLUSHのネイキッド商品。

顧客とのコミュニケーションがうまくいっているように見えるLUSHだが、さらに新しい接客を模索しているようだ。たとえば、2018年にオープンした「LUSH 原宿店」は、実験店に位置づけられており、取扱商品をバスボムに絞ったうえでLUSHのシンボルであるシンクを設置していない。バスボムを水に溶かす実演を行わないかわりに、同店のオープンに合わせ、同社のスマートフォンアプリ「Lush Labsアプリ」をアップデートし、Lush Lens(ラッシュレンズ)を搭載した。これは、アプリ内のカメラで商品を撮影すると、画像分類で商品を認識してその詳細を案内する機能だ。当初、Lush Lensで認識できるのはバスボムのみだったが、アジア最大の旗艦店として位置づけられている新宿店のオープンに合わせ、すべてのネイキッド商品に対応させている。

Lush Lensでネイキッド商品を撮影すると、AIによる画像分類で商品を認識し、その詳細情報を得ることができる。
Lush Lensでネイキッド商品を撮影すると、AIによる画像分類で商品を認識し、その詳細情報を得ることができる。この写真では、画像分類に失敗しているが……。

これには、筆者は驚かされた。近年のリテールの大きな流れとして「アフターデジタル」がある。オンラインストアとオフラインストアがそれぞれ独立したチャネルとして機能するのではなく、商品情報の取得や選択、購買活動、アフターケアなどの生活者と企業の一連の接点を、オンラインとオフラインを複合的に組み合わせるようになっている。そのうえでオフラインストアでは、リアルに接することができることを強みとして、オンライン化できる購買よりも「体験」の機能を重視する傾向にある。単純なデジタル化の時代は過去になった。そこからいえば、原宿店では体験のシンボルであるシンクを設置せずに説明をアプリに委ね、さらにはそれを旗艦店のオープンに合わせて拡大させたのは、時代に逆行した施策だと感じたのだ。

しかし、実際に新宿店に行ってみたところ、これはまったくの杞憂だった。店舗では相変わらず多くのスタッフが笑顔で迎え、気さくに声をかけてきて商品を体験させてくれる。アプリは、体験の代替品にはならず、そしてスタッフの負荷軽減や省人化にはまったく寄与していなかった。考えてみれば当たり前の話なのだが、商品説明をしたいだけならば、アプリ以前に「オレンジの香りがさわやかなボディーソープ」とPOPをつけるなど、いくらでもやれることはある。そこを飛ばしている時点で、情報の伝達や、そこからのスタッフの負荷軽減などは、ハナから目的ではなかったのだ。

では、このアプリは何が目的なのだろうか。新宿店で筆者がアプリを案内するサイネージの動画を見ていると、スタッフは「こんなアプリがあるんですよ」とスマートフォンを差し出してアプリを体験させてくれるし、自分のスマートフォンでアプリを操作していると「これ、おもしろいですよね」とスタッフが声がけをしてくるため、もしかすると、このアプリの役割は、何の説明もなくネイキッド商品を並べる展示スタイルと同じなのかもしれない。つまり、「なにこれ」「でも、おもしろい」で、客とスタッフとのコミュニケーションを促す、そのようなツールではないだろうか。なにも利便性だけがアプリの役割ではない。役に立たないからこそ、アプリがスタッフの声がけによるきっかけを作り、体験へと導くことができるのであれば、これもまたアフターデジタルのあり方のひとつなのかもしれない。

そのほか、最新の新宿店でおもしろかったところをいくつか挙げていきたい。

まず、レジ。なんと普通だった。カメラ映像でネイキッド商品を自動判定できるAIをわざわざ開発したのだ。投資効果や効率性を求めるのであれば、ここでも使って商品知識が不足しているスタッフでも会計が行えるようにするのが当然のはずだが、していない。LUSHは、スタッフに豊富な商品知識と高い接客スキルを求めており、それを変えるつもりがないことを明確に示している。

高性能な画像分類AIを持っているのに、レジでは活用されていない。

画像分類AIを持っているのに、レジでは活用していない。

店内には、スクリーンの前にいる人の動きをキャプチャーし、それに応じて映像を変化させるデジタルアートが設置されている。同社のスマートフォンアプリにも、指の動きに合わせて同様のインタラクティブなアートが広がる機能があるのだが、それとほぼ同じ内容だ。スクリーンの前で眺めていたら、スタッフが「おもしろいんですよ」と声をかけてきて、遊び方を教えてくれる。これもまた、利便性でもなければ、店鋪を美しく飾るものでもなく、スタッフと客のコミュニケーションを促すツールなのだろう。

プロジェクターを使っている。スクリーンのうえには、モーションキャプチャーのためのカメラが設置されている。

回転寿司のようなレーンが設置され、石鹸がぐるぐると回っている。原宿店にも設置されてバスボムが回っているが、こちらではネイキッド商品の石鹸が回っており、生モノ感があって、より寿司屋的な風情。見ていると、これまたスタッフが「18時からシェフがここで実演するんですよー」と声をかけてくる。

スシバー
回転寿司のように回る。カウンターでは、スタッフをシェフに見立てたイベントも行われるようだ。

寒天のようなソープをペチペチと叩くと、スピーカーから音が出るインタラクションもある。回転寿司レーンと合わせ、ネイキッド商品の意味や効能を伝えることよりも、とにかくまずは楽しんでもらいたいのだろう。

プリンのような石鹸。ペチペチと叩くと、テーブルに設置したセンサーが
プリンのような石鹸。ペチペチと叩くと、テーブルに設置したセンサーが振動を検知し、下のスピーカーから音が流れる。大人から子供まで、寒天のような感触を楽しんでいた。

店内には、小型のサイネージがいくつも設置されている。どれも、具体的な商品情報を提供するのではなく、空間演出に近い動画が流れている。

アプリのダウンロードを促しているが、お得感や便利感を伝えるコンテンツではない。

このサイネージは、バッテリーを内蔵しており、完全なケーブルレスになっている。ケーブルレスと木材によるケーシングによって機械臭が完全になくなり、店内に溶け込んでいる。

完全なケーブルレス。電源ケーブルも出ていない。

階段やエレベーターの横では、ピクトグラムを使った各フロアの取扱商品の案内がある。言語を使わないのは、多国籍な街である新宿らしい案内だが、筆者はこれを見ても、どこに何があるのか、さっぱりわからなかった。この役に立たないピクトグラムも、意図的な仕掛けかもしれない。

これでどこに何があるか、わかりますかね?

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