【温故知新】テレビの未来における3つの仮説【2007年】

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本コラムも前回から「テレビの未来」という直球タイトルに変更させていただいた。これまではデジタル家電に焦点をあてるようにしていたが、新タイトルの元ではテレビやその周辺の機能やサービスにフォーカスした話題を書きたいと思う。出来るかぎり現状維持したいと考えるテレビ局と、革新的ではあるがコンテンツ業界においては地に足がついていないIT系とのせめぎ合いをなどについてもお伝えしたいと考えている。

この記事は2007年の3月に、日本経済新聞社のIT-PLUSで筆者が執筆したものである。12年前と今は何が変わったのか変わっていないのか。以前に書いていた記事の中には、今読み返すといろいろな点で参考になる物が多いので今後いくつかをピックアップしていこうと思う。なお記事本文は当時公開されたもののままで、編集は加えていない。

今回は「テレビの未来」を考えていくにあたって、私が現在思っているテレビに関するいくつかの仮説を提示したいと思います。こうした仮説を元に、今後のコラムやブログの議論の叩かれ台となればと思います。

モアチャンネルのニーズは強くない
かつてニューメディアと呼ばれている時代には、多チャンネル化が大きくクローズアップされた。それまでの地上波で最大8チャンネル程度の環境から30チャンネル以上の専門チャンネルが登場し、ケーブルテレビや衛星放送で放送を開始し、私もそんなチャンネルの一部に属していた。様々なプレイヤーが登場し統合や合併を経て、結果としてスカパー!の加入者はこれまでのところ422万件である。WOWOWが243万件(いずれも07年2月末現在)となっている。
すでに10年以上の時間が経過してこの数字である。コンテンツも追加や入れ替えはあったにせよ本質的にはほとんど変わっていない。すなわち日本の有料放送市場というのはこの程度の規模であると言うことだ。理由は地上波がおもしろくて無料であるからに広く受け入れられていることと、もう一つは選ぶのが面倒だからだ。地上波、BS、CS共通の受信機となってきているが3ケタのチャンネル番号という時点で一般的に成りにくい。
映像においてロングテールが存在する可能性は大きくないと思う。書籍と比較すると映像を制作するコストやノウハウは集約型に圧倒的に有利であるからだ。
参考までにブロードバンドの契約数が約2500万、携帯電話は9500万となっていて。多チャンネル市場は非常に小さいと言わざるを得ない

見たいものを見たいということ
映像関連の調査などで必ず出てくる視聴意向の話がある。コンテンツとしてどんなものが見たいですか?と聞かれると「映画」「音楽」あたりが上位に来るのは一見誰でも共感できる。しかし本当にそうだろうか。「見たいもの」とは何かということだ。
私は「見たいもの」などというものはもともと存在していないと考えている。本当に自発的に欲求があるのではなく、言われればそうかなと言った受け身な視聴意向なのである

たとえばレンタルビデオの話をしよう。レンタルビデオを借りると言う行為はどこまで自発的なのだろうか。今あなたは仕事中だとして、今晩ビデオを借りようと決めている人などほとんどいないのではないか。帰宅時に最寄り駅に降り立ったら目の前にレンタルビデオ店の明かりが目にとまる。この時点まだ借りることは考えておらず、雑誌の立ち読みとか乾電池を買う別の目的で店内に入る。そのとき店内の奥の方で映画のプロモーションを行っているのをみて初めて「そうだ、これ見たかったんだ」と気づくのである。いや、思いこんでしまうのである。
この観点でビデオオンデマンドを考えると利用普及が進まないのがよく分かる。あるレンタルビデオチェーンのトップの方が「レンタルビデオは返さなければならないから見るんだ」と言っていたのが何よりも説得力がある
ただしここで落胆する必要はない。見たいものがないならそう思いこませることはそれほど難しくはない。いつも言うように、地上波テレビはこの部分については非常に優れており、エスキモーに冷蔵庫を売る術に非常に長けている。

リモコンが重要
リモコンは選局のツールであると同時に、マン・マシンインターフェイスとして実際に操作を行うものだ。この分野はまだまだ進化が期待されるところだ。小型のディスプレイを搭載したモバイルゲーム機くらいの大きさでそれ自体に通信機能を持っていて放送メタデータはここからやりとりして表示をする。こうすればEPGで画面を汚すこともない。
この画面を汚すと言う考え方はニュアンスが伝わりにくく誤解されやすいが、テレビ局側には根強くある。

リモコンの裏話としては、「ラストチャンネルメモリー」というテレビ局がもの凄くこだわっている機能がある。かつてテレビの選局がガチャガチャ回すロータリースイッチを利用していた時代には、テレビの電源を消した後に再びスイッチを入れると、物理的に最後に選局されたていたテレビ局がそのまま受信された。ところがリモコンが登場した頃に、選局が物理的なスイッチから電子的なスイッチに変わったために、電源の再投入時に必ずしも最後に受信していた局がそのまま映るわけではなくなり、多くは1チャンネルが映るようになっていた。これに対してテレビ局が噛みついた。メーカーからすればどうでもいい話だったのですが、テレビ局としてはそれでは1チャンネルが有利であると言うことになる。(1チャンネルの割り当ては地域によって異なるので必ずしもNHKのことを指しているのではない)最終的には電源を切ったときのチャンネルを再び表示することで一応決着をしたことになっている。
一応というのは、ここがテレビのポータルという観点で再び議論が起きる可能性がある。ラストチャンネルメモリーは放送局の権利であってメーカーが勝手に決めることは出来ない、これがテレビ局側の主張である。メーカーからすれば電源投入時にアクトビラを表示させたいと考える。

1 モアチャンネルのニーズはない
2 もともと「見たいもの」などはない
3 リモコンを制する者が勝つ
こうした観点をベースにして次回から様々な問題を取り上げていきたいと思う。ブログでネタも募集しています。

(本稿は2007年3月に日経IT PLUSに寄稿した記事です。)