LGの”InstaView ThinQ”シリーズ

世界平和に直結する高度に政治的な存在である「冷蔵庫」をIoTやAIはどう取扱うべきか

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少し前にGASKETに掲載された記事がおもしろかった。

GASKET内部でアンサー記事を書くというのは若干反則気味かもしれないが、少し気がついたことを共有したい。

まず、記事文中にあるIoT冷蔵庫について、今年1月のCES2019で近似したものがいくつか展示されていた。その中でも筆者が驚いたのは、アマゾンAlexaを搭載したLGの”InstaView ThinQ”シリーズの冷蔵庫である。

冒頭の写真をご覧いただくとお分かりのように、IoT冷蔵庫といっても、デジタル化されたアマゾンダッシュボタン等が表示されるタッチパネルディスプレイと、庫内カメラの組合せである。庫内のモノがなくなったら、それに気づいた人間が画面上のダッシュボタンを押す。庫内カメラは、買い物途中等に外部からモニタリングすることができる。どちらも便利といえば便利だが、ただ「それだけ」でもある。

なので、会場で実物を見た時、本来ならばもっといろいろなことができるのではないかと、アマゾンのスタッフに話しかけてしまった。しかし詳しく説明を受けているうちに、実によく考えられていることに気づかされた。

まず、発注プロセスに人間を介在させることによって、人間が発注をコントロールできる。もちろん「注文しわすれ」は発生するわけだが、それに気づいた時に注文しておけばいいだけのこと。これにより、冷蔵庫の状態を高度に解析する必要がなくなるのだ。

実際、なまじ解析から発注までのプロセスを自動化したとして、仮にシステムエラー(画像の誤認識等)による誤発注が生じたら、うっかり届いたものによって庫内が溢れることになり、「冷蔵庫内3Dテトリス」が起きる。特に家族等の共同生活で冷蔵庫を共用している場合、このテトリスが家庭不和を招きかねないのは、心当たりがある方も多いのではないか。

たとえば「牛乳がなくなったから補充しようか」という時に、たまたま大きなハムが間もなく納品される予定だったとする。不幸にしてその両方が同時に届いてしまった場合、「なぜこんなものを買ったのか」「なかったから仕方ないじゃないか」という諍いが起きる。次に、なんとか冷蔵品をやりくりしたり庫内を整理して収納すると、今度は何がどこにあるのか分からなくなる。

こうした問題の解決は、高度な空間認知能力はもちろん、冷蔵物を時間軸で把握する動的な在庫管理、そしてなんとか融通をしていくための交渉力や政治力が求められる。つまり冷蔵庫の取扱いとは、かなり高度な業務であり、当面は人間の出番なのである。

ではIoT冷蔵庫の高度化は当面不要なのかと問われれば、さにあらず。冷蔵庫管理が悩ましい一方で、「献立」を考えるのも相当悩ましいのだ。これも「夕飯、何がいい?」と問われて「なんでも」とか「別に」と生返事して、世界が滅びかねない最終戦争を勃発させた経験がある方なら、分かるだろう(念のために申し添えておくが、本件の質問者と回答者は男女の如何を問わない)。

この場合、IoT冷蔵庫の役割は、中に入っている冷蔵品の管理だけにとどまらない。それを思い浮かべながら、さらに他のお買い得品を買い足しながら、同時に献立も考えるのである。もはやそれはジャストインタイムと同様のサプライチェーンマネジメントであって、IoT冷蔵庫を名乗るからにはその高度な支援が期待されるのは、当然だと言えよう。

その場合に必要となるのは、冷蔵庫の中身を管理するだけではない。むしろスーパーマーケットの店頭や、さらに言えばその数日前の生鮮食料品の出荷・流通状況なども、本来であれば取り込みたいところだ。

たとえるなら、IoT冷蔵庫に豚バラ肉が残っていて、2日後の夕方に(天候等の理由で)キャベツが安くなることが予期できれば、もはや誰がどう考えても「回鍋肉を作ろう」ということになる。その回鍋肉を考えつくこと、なおかつそれをおいしく作ることを原材料の追加発注を含めて支援することこそが、IoT冷蔵庫に求められる。そしてその実現は、業界全体を巻き込むAIを使ったサプライチェーンマネジメントの改革にも、案外直結している。

このように考えていくと、私達の身の回りにある様々な生活シーンは、かなり高度な業務能力が求められる。従ってこれをデジタル化するのは容易ではなく、ITの巨人であるアマゾンとて一歩ずつ地道に歩みを進めているというのが現状だ。

逆に言えば、IoTに期待される役割は、まだまだ広大に残されているということでもある。場合によっては、現在の普通の冷蔵庫を少しだけスマート冷蔵庫に近づけるIoT機器であっても、ビジネスチャンスはまだまだ十分以上にあるのかもしれない。

それこそ、冷蔵庫のドアに薄型軽量のタブレットを貼り付けて、庫内の写真やメッセージングを手動(手書き)で記録し、「残ってたケーキ、食べちゃった、ゴメンナサイ!!」と家族に伝えることさえも、現状ではままならない。そんな、いわば冷蔵庫サイネージだけでも、世界平和に大きく貢献するのである。