選挙のIT化はコストダウンと高齢者のために必須だ

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去る4月7日(日曜日)

投票所にて—–
1 受付1 本人確認ブース番号を教えていただく
2 受付2 本人確認をしていただく
3 用紙受領 投票用紙を1枚いただく
4 記入 候補者名を記入する
5 投函 投票箱に投票用紙を投函
6 3~5を3度繰り返す

開票所にて—–
1 投票箱を解錠
2 投票用紙をテーブルに広げる
3 手作業で投票用紙を目視で分別(もしくは読取り機で分別)
4 再度目視で分類を確認(一部審査の判断)
5 計数機で候補者毎の枚数を確認
6 再度計数機で枚数確認
7 点検し確定
8 確定数量をパソコンに入力

こんな手続きを全国的に手作業で行っていることを知って、それを看過できるとしたら、フツーのビジネスマン(否、誰もが!)としては、相当な鈍感力の持ち主と言えるだろう。

有権者数200万人ほど(大阪市長選程度)を例にとると、選挙運営費用は、6億円(有権者ひとりあたり300円)を超えるといわれている。選挙はモノやサービスではないので、「費用対効果」という評価軸は不適当だが、「今どき、もっと安く済ませる方法、あるでしょうに」と感じるのは当然だ。

詳細を調べたわけではないが、おそらく、運営費用のうち大きな割合をしめるのが「人件費」だろう。筆者の住む札幌市の投票所では、立会人も含めて10名以上が配置されていた。このような投票所が市内に300か所以上存在し、投票時間は13時間にも及ぶのでざっと延べ40,000人・時が投下されている計算になる。しかも、どう控え目にみても半数は「チコちゃんに叱られる」ようなことしかしていないのだ(違っていたらスミマセン)。また、開票所の中継をみても、これほど「人海戦術」って言葉が当てはまる風景も稀と感じるほどの人員が投入され、深夜作業を続けている。莫大な「基本的に何も生産しない」作業が日本全国で一斉に、莫大なコストをかけて行われているのだ。

さぁ、労働生産性アップといえばIT、IoTの出番である。投開票事務のIT化(もちろん、投開票以外にも山のようにIT,IoTによる効率化の対象は存在する)については、今更詳説するまでもなく、既に様々な技術開発がなされ、筆者はもう十分に技術的なハードルはクリアできていると考えている(クリアできるとは、リスクを100%回避できるということではなく、紙ベースのシステムに比べて、そのリスクが容認できるほどメリットが大きいということだ)。公職選挙に耐えうるほどではないにせよ、Lineや無料のスマホアプリで投開票機能は既に実現・利用されている。そもそも「開票」というプロセスがIT化によって消滅し、その概念が無いに等しい。

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つまりはもう、導入できるかどうかは「法令の制定」(※)と「気持ち」次第だ。レガシーを捨てるには、様々な抵抗勢力も出現し、時間はかかるだろうが、いずれは取って代わるものと確信する。
※筆者は無知だったが、既に電子機器を用いた投票(ネット経由の投票ではないので、開票作業の労力削減にしか寄与しない)は我が国でも地方選挙で認められており、実施された例も多々ある。

ここで、IT国家として名高いエストニアの選挙データを紹介しておこう。2019年3月に行われた同国総選挙において、全有権者約88万人のうち、インターネット投票を行った人は約24万人(27.9%)、投票した人約56万人のうち約44%にあたる人がインターネットを利用して投票を済ませた結果となっている。わずか1.9%だった初めてインターネット投票(2005年)から約14年をへて、ほぼ、主役交代が見えてきたところだ。名だたるIT国家でさえ10年以上の歳月がかかって道半ば。我が国では果たして何年かかるだろうか?

■エストニアにおける2019年3月総選挙投票率

有権者数 887,420人
投票者数 565,045人
インターネット投票利用者数 247,232人
投票者数/有権者数 63.7%
インターネット投票利用者数/有権者数 27.9%
インターネット投票利用者数/投票者数 43.8%

ところで、IT化によってローコストでスピーディな選挙が実現できるとして、様々な課題が解決されるが、巷でいわれているような「若者の投票率が低い」という課題には、あまり効果はもたらさないと筆者は推定している。たとえスマホでワンクリック投票ができるとしても、投票への動機付けにはならない。若者が投票所に行かない理由は、「行くのが面倒だから」ではなく、そもそも自分たちの代表、自分たちの意見を反映してくれそうな候補者が一人も存在しないからだ(若者の投票率を上げるには別の私案があるが、GASKETが扱うテーマとはかけ離れるのでやめておく)。「インターネットで市長選挙の投票ができるようになりました!」とアピールしても反応は「で?いままでできなかったんすか?」である。
投開票のIT化は、電子マネーの恩恵と同じく、若者よりむしろシニア、高齢者に多くあると思う。先日の投票でも、多数の杖をついた高齢者が見受けられ、介助する人も含め、投票行動が一大事の様子。特に、今、50歳代の世代が高齢になると(筆者もそのカテゴリー)、ネットやデジタルの危険性を認知しつつも利便性に大いに浸っているし、文字を書くのが面倒、人口密度減少で投票所までが遠くなり、クルマは所有から利用時だけ。つまり大げさな言い方をすると、投票への動機はあっても、ITで実現できることを知っているだけに、なおさらアクションが苦痛になるのだ。今のままの投票制度では、投票率ダウンは避けられないと思う。

エストニアにおいても、回を重ねるごとに、インターネット投票を利用する年齢層の割合が高くなっていることが実績として伺える。IT化の目的はここにある。若者の投票率アップをIT化の目的・目標にはならないと考えている。ちなみにデバイスは、スマホでもタブレットでもなく、テレビが最適ではないかと思うのだがどうだろうか。

■エストニアにおけるインターネット投票をした人の年齢層別構成比の推移(※)

開催年 選挙対象 18~24歳 25歳から54歳 55歳以上
2019 国会議員 7% 64% 29%
2017 地方議会議員 7% 65% 27%
2015 国会議員 8% 68% 24%
2014 欧州議会議員 7% 66% 27%
2013 地方議会議員 9% 69% 22%
2011 国会議員 11% 70% 20%
2009 地方議会議員 11% 71% 18%
2009 欧州議会議員 10% 71% 19%
2007 国会議員 11% 73% 16%
2005 地方議会議員 10% 75% 15%

※年齢層別のインターネット投票利用者割合ではないことに注意