2019年3月にオープンしたGU渋谷店は、心斎橋店、池袋東口店、銀座店に続く4店舗目の旗艦店だ。2018年11月にオープンした次世代型店舗「GU STYELE STUDIO」(東京・原宿)で試された様々な施策が反映された初の店舗となる。GU STYELE STUDIOは、ショールーミングに特化して在庫は一切ない。マネキンでの展示のほか、試着用の服しか置かれておらず、そこで気に入った服はオンラインストアで買わせようと、かなり尖った顧客体験を提供していた。そこでの取り組みが、旗艦店にどのように組み込まれたのだろうか。
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GU渋谷店は、センター街にある渋谷クラブクアトロと同じビルで、地下1階から3階までの4フロアで展開されている。店舗内には、オンラインストアの当該商品のページにリンクするQRコードを伴ったマネキン展示、アバターを使ってバーチャフィッティングできるサイネージ、商品詳細や在庫状況を検索できるサイネージなど、GU STYELE STUDIOの機材やテクノロジーがそのまま導入されている。



フィッティングルームには、持ち込んだ商品をRFID(ICタグ)で自動認識してリスト表示するタブレットが設置されている。これもGU STYELE STUDIOと同じだ。タブレットでは、持ち込んだ商品の色違いやサイズのバリエーションなどの詳細情報を確認できるほか、オンラインストアに投稿されたレビューコメントを見ることもできる。また、気に入った商品の情報をQRコード経由でアプリに転送し、あとからオンラインストアで購買できる仕組みも提供されている。

GU渋谷店にとってオンラインの役割は「落穂拾い」
在庫を持たないGU STYELE STUDIOでは「ここで実物を体験し、気に入った商品が見つかったら、オンラインストアで購入する」と、オフラインとオンラインの役割が明確に分かれ、相互に補完していた。それでは、旗艦店で多種商品の在庫を持つGU渋谷店は、オンラインストアにどのような役割を期待しているのだろうか。その答えは、店舗内に設置されたアプリ誘導のQRコードの案内文にあった。



どれもぴったりのサイズがなければオンラインストアを使うように誘導している。つまり、GU渋谷店にとってのオンラインストアの役割とは、店頭での欠品・在庫切れの補完だ。GU STYLE STUDIOでは、オフラインとオンラインが一体となって1つの顧客体験を作り上げていたのに対し、GU渋谷店はオフラインだけで顧客体験を完結させることを目指し、そのうえで欠品・在庫切れによってロストする場面だけをオンラインストアにフォローさせている。
もしGU渋谷店がGU STYLE STUDIOと同じマーケティングコンセプトであれば、オフラインストアが持つ価値の提供を優先し、売れ筋の在庫を削ってでもXXLやXSの実物を展示して試着できるようにしたはずだ。旗艦店だからこそ、取扱商品の点数は、なおさら重要だろう。しかし実際には、GU渋谷店は売れ筋である標準サイズの在庫を優先し、特別サイズは置かなかった。単店舗での売上を最大化する従来のマーケティングに基づいた優先順位でスペースを配分している。同じ機材やテクノロジーを導入しているため、GU渋谷店はGU STYLE STUDIOの延長線上にあるように見えるが、マーケティングのコンセプトはまったく異なる。GU STYLE STUDIO以前に回帰してしまった。
筆者は GU STYLE STUDIOを初めて訪れたとき、ジーユーはアリババが提唱する「ニューリテール戦略」のように、オフラインとオンラインが一体となった新しいマーケティングを志向しているのかと思った。そして、ジーユーが渋谷にも店舗をオープンさせると知ったとき、GU渋谷店であれば電車を乗り継いでくる人が多く、その他のショップでも買い物を楽しんだり、映画鑑賞や観劇したりする来店客も多いだろうから、たとえば持ち帰りの荷物を減らすためにオンラインストアに誘導するなど、商圏の広い旗艦店だからこその顧客体験を提案してくると期待した。しかし、ここにあるのは新しいチャレンジではなく、旧来のマーケティングだった。
GU STYLE STUDIOは未完成 水平展開するレベルではない
なぜこのようなことになってしまったのだろうか。GU STYLE STUDIOではオンラインストアへの送客数や購買数などの成果が上がらなかったために、GU渋谷店では従来のマーケティングで棚割りを行わざるを得なかったのだろうか。もしそうだとすれば、新しいマーケティング戦略を問い直す前に、それを実現するにあたってのコンセプトの不徹底およびシステムの不備を見直し、対処してほしかった。とくに次の2点は、即座に修正するべきことだ。
1)アバターを使ってバーチャルフィッティングができるタッチパネルサイネージを設置しているが、自分に顔もスタイルも似ていないアバターに試着させても何の参考にもならない。そもそも、オフラインストアのメリットは、実商品を手に取り、試着ができることだ。なぜそのメリットを否定するかのような機材をオフラインストアに設置するのか理解に苦しむ。このような機材は撤去し、現物がそこにあることの価値を最大化するべきだ。

2)フィッティングルームでは、試着した商品がタブレットにリスト表示される。気に入った商品があれば、QRコードで自分のスマートフォンのアプリに商品リストを転送し、あとからオンラインストアで購買することもできる。ただ、現行のシステムだと、アプリに転送できるのは商品の商品名だけで、試着した「カラー」「サイズ」は転送できない。これでは、試着した経験をオンラインに引き継げない。試着したもののカラーやサイズもアプリに転送し、そこから簡単にオンラインストアで注文できる動線を実現しなければ、オンラインストアと連携できたとは言えない。


GU STYLE STUDIOは、「コンセプトの不徹底」および「オフラインでの体験がオンラインでの購買にリンクしない」との根本的な問題を抱えており、新しいマーケティング戦略を実証する場として不完全だった。その他の店舗にそのまま水平展開できるものではない。
ジーユーが理想とするリテールの未来はどこにあるのか
GU STYLE STUDIOを初めて見たとき、これらの問題について筆者は「変革に向けた試行錯誤の途上なのだろう」と前向きに解釈していた。しかし、これらを放置したまま、渋谷店に同じシステムを導入し、にもかかわらずマーケティングコンセプトを旧来のものに戻しているところから、ジーユーは理想とする顧客体験をまだ描けておらず、上にあげたような問題が存在していることさえも認識できていないのではないかとの疑念が頭をもたげてくる。
粗探しのような話になってしまうが、さらに渋谷店の問題点をあげると、1階にオンラインストアで購入した商品の受け取りができるカウンター「IN STORE PICK UP」があるのだが、店舗スタッフによるとオンラインストアの商品は別倉庫で管理されているため、店舗に在庫があっても、倉庫から配送がないと受け取れないという。つまり、ヨドバシカメラの「ネットで注文 店舗で受け取りサービス」程度のオフラインとオンラインの相互補完もできていない。もしかすると、在庫や商品管理を行う現行の基幹システムやオンラインストアの設計が古く、新しいマーケティング戦略を遂行するうえでのネックになっているのかもしれない。
ジーユーは、理想とする顧客体験が「革新的なGU STYLE STUDIO」と「保守的なGU渋谷店」のどちらにあるのかを改めて考え、それを実現するために場合によっては、基幹システムの改修も含めた大きな決断が必要な段階にあるのではないか。フロントエンドの継ぎ接ぎで未来感を演出できたとしても、リテールの未来にはつながらない。
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