誰も運転しないスマートモビリティの本当の課題は車酔いとディスプレイである

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スマートモビリティ社会がやってくる。電気自動車による自動運転を核にして、車自体が自律的に状況を把握して走行し、周りのクルマとも話(通信)をしながら(お先にどうぞみたいなことだ)、安全に目的地まで走行をする。それらは人や物を運ぶ。運転しなくてもいいので、人間は盛大に暇になる。ここまでが今年のCESでは世界中の自動車メーカーや周辺企業の統一したメッセージだ。きっかけとなったのは昨年のトヨタのe-Palleteであることは間違いない。

さて、この暇な移動時間をどう有効活用するのか。ここがスマートモビリティの最大の課題であり、メリットである。しかし、これに対する各社の回答、提案はどれも極めてぼんやりしている。

筆者は運転免許を持っていない。半世紀以上の助手席専門家である。なので「ドライブ」という趣味、行為には関心がない。自家用車だろうが、バス・タクシーだろうが、あくまでも移動のために(仕方なく)クルマを利用してきた。筆者にとっては、もともと移動時間というのは暇だったのである。ではそこで何をしてきたか。寝る、考え事をする、誰かが同席していれば会話する辺りがメインの過ごし方である。

スマートモビリティーの課題は車酔いとディスプレイだ。それ以外の自動運転関連の技術課題は、時間が解決できるレベルまで来ている。たぶん10年位で考えればほぼ解決できる目処は立っているのではないだろうか。

自家用車やタクシーのような狭い空間では、本を読む、スマホを見るというのは、車酔いをするので適していない。バスならどうにかそれが可能で、電車では酔わない。スマートモビリティのコンセプトカーは、いまのところその大部分が6名くらいが乗車できる室内空間があり、サイズ感としてはハイエースのような箱バンサイズである。これは道路事情からみて現実的なサイズ感なのだろう。これくらいのサイズだと車酔い的には微妙な空間サイズだ。

室内空間が狭い車であっても運転手は確かに車酔いしにくい。車酔いの原因は、三半規管が感じる情報と視覚情報のずれが原因らしい。車の中では視覚情報からだけでは揺れや振動を予測しにくいが、三半規管は現実の揺れを感じている。視覚情報を車窓からの景色ではなく、例えば本の文字情報だとすると、視覚と三半規管の情報に大きな齟齬が生まれる。だから酔いやすい。一方、運転手は自分の意志があり、走行状況や路面状況を認識しているので、三半規管で感じる情報を視覚情報から予め判断したり補正しやすいので情報のずれが生じにくい。そのせいで酔いにくい、らしい。電車で酔いにくいのは前後方向の加速度の変化が少ないからだとか、空間が大きいからだとか、さまざまな説があるようだがどれもはっきりしていないようだ。

だれも運転しないスマートモビリティでの移動者の視覚情報と、三半規管が取得する感覚情報の補正をどうやるのか。スマートモビリティはスタビライザーによる高度な振動制御や加速制御で車酔いは克服できるのだろうか。CESでは20社近いブースでこの質問を投げたのだが、誰も答えられなかった。

そして最大の課題は視覚情報の提供の仕方である。車内で仕事をする、おそらくそれは今で言うところのパソコン仕事。あるいは映画を見る。暇時間の潰し方としては仕事か遊びに使おうというのは至極真っ当な考えだ。しかし、ではどういう表示装置、ディスプレイを使うのか。今のLCDを窓に設置すると景色が見えない。プロジェクターは夜間はともかく、昼間は現実的ではない。夜間も車外に光を撒き散らしながら走行することになる。景色をカメラで撮影してそれを表示すれば擬似的に車窓と同じ状況は再現できるが、それで解決できるのか。

理想の状況は、普段は完全な透明で景色が見えて、必要なときにパソコンの映像のような画像がはっきり見ええること、だろうか。透明なLCD、OLEDは一部実用化されているが、自動車ガラスとしての強度も維持しつつ、温度変化、紫外線や赤外線に耐えられるようなものは現時点では存在しない。一部のガラスメーカーはここに着目して、研究開発を行っている。あるいは人間側を血圧、心拍数、視点移動をセンシングしてAIで解析して、車側がそれを反映した走り方をすればいいのだろうか

運転しなくてもいい暇時間を有効に使うためには、この部分がスマートモビリティ界隈ではほぼ放置されていることが気になって仕方がない。