【温故知新】新しい映像メディア登場の予感させるchumby【2008年7月】

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この記事は2008年の7月に、日本経済新聞社のIT-PLUSに筆者が寄稿したものである。11年前と今は何が変わったのか変わっていないのか。以前に書いていた記事の中には、今読み返すといろいろな点で参考になる物が多いので今後いくつかをピックアップしていこうと思う。なお記事本文は当時公開されたもののままで、編集は加えていない。

 

近未来の情報メディアを予感させる新しいモノが登場した。名前は「chumby」。生まれは例によってアメリカ。私にとっては初めてWEBを見たときに以上のインパクトがあった。テレビでもWEBでもないこのchumbyをご紹介する。

さて、chumbyを説明することはなかなか難しい問題だ。テレビを見たことがない人にテレビを説明するのが大変であるのと同様に、chumbyも初めての人に説明するためにはどうしても既存の技術やサービスで言わざるを得ない。まず外観は写真のようなタッチパネル式の液晶ディスプレイを搭載した端末である。大きさは最大部で縦10センチ、横15センチ、奥行き9センチ程度とはがきサイズの箱があればすっぽり入ってしまう。またデジタル系のガジェットにありがちなハイテク感とは正反対に人工皮革?のカバーに覆われた優しい感じである。
インターネットには無線LANを経由して接続する。有線LANには対応していない。電源はACアダプタ接続で緊急避難用に)9Vの006P乾電池を接続することもできる。本体はLinuxで動作しているようである。

Chumbyの機能は必ずしも新しいものではない。まずはインターネットラジオ、時計、デジタルフォトフレームがある。ラジオと時計はアメリカのモーテルに必ず置いてあるようなラジオ付時計と同じような役割を果たしていると思っていい。またデジタルフォトフレームは日本でも現在非常に注目されてきており、わずか半年で4.8倍の成長(BCN調査)のようである。本コラムでもいずれメディア化すると紹介したとおりだ。これらの機能は全て既存の、それも日常生活の中にすっかりとけ込んでいるものを小さなネットワーク端末に詰め込んだものだ。こうした機能がネットと融合すると、ラジオがネットに繋がればコンテンツの選択肢はまさに無限になる。時計は一見意味がなさそうに思えるが、気分によってデジタル時計やアナログ時計に、カタチやデザインも自由に変えられるのは出来そうで出来なかった体験だ。デジタルフォトフレームはオンライン上で田舎の両親と孫の写真を共有することが出来るのは言うまでもない。

そしてchumbyの最大の特徴とも言える「ウイジット」と呼ばれるアプリケーションがオンライン上に自由に公開されている。これはFlushで動くアプリで、ニュース、天気予報から占いなどがおそらく数百以上提供されていて、自分で好きなものをダウンロードすることが出来る。携帯電話のコンテンツプラットフォームに近いのであるが、大きな違いはハードウエアもソフトウエアも全てオープンになっているために誰でも自由に参入することが出来る。全部が勝手サイトのようなものだ。そして写真からは伝わりにくいが、これはらはスライドショーのように次々に切り替わっていく。かつての「ポイントキャスト」に似た感覚だ。つまりウイジットをながら見するためのビューワーであり、刻々とプッシュされてくる様は、天体望遠鏡で天の川の中を移動している感覚とでも言えよう。この小さな窓からいろんなものをのぞき見する感覚なのである。「インタラクティブな映像メディアが登場する」などという幻想をキッパリ捨て去っている潔さが素晴らしい。日常生活に本当に密着して使うためだろうか、デザインもそうであるがタッチパネル式の液晶であるにもかかわらず、タッチペンが付属していない。指でやるのだ。最初のセッティングからアクティベート、コンテンツの追加のプロセスも全て秀逸である。

chumbyのビジネスモデルは広告モデルである。本体購入費以外には利用料金のようなものはない。ビジネスモデルとして成功するかどうかが注目していきたいが、「chumbyのようなもの」は十分人々に受け入れられるのではないだろうか。テレビが果たしてきた機能の相当部分をこの小さな端末は生活の中で実現可能なのである。この端末の価格は米国内では$179.95。日本でもまもなく発売される。

(本稿は2007年7月に日経IT PLUSに執筆した記事である)

追記:
これが執筆されたのはiPhoneがアメリカで発売された1年後、日本で発売された頃である。インタラクティブなメディアであるスマートフォンと、そうではない、ながら観のメディアはここまでは前者の圧勝である。だが、本当にながら観メディアは多くの人には受け入れられないのだろうか。家の中におけるメディア接触態度は、こういうものを受け入れないのか。テレビは決して能動的なメディアではない。そしてスマートディスプレイが今どうなっているのか、下記の記事も含めて今後もマーケットウオッチを続けていきたいと思う。

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写真:Andreas Pizsa