バス事業者を食い物にするIT屋とMaaSの話

AI/IoT /

公共交通マーケティング研究会の例会に参加してきた。この会は公共交通と銘打っているが、公共交通の中でも主にバス事業者が主体になっている。公共交通の中でも、バスは事業者数も多く、また小規模であることが多い。

この会の趣旨は以下の通りである。

長年衰退を続けてきた日本の地域公共交通が、いま見直されつつあります。しかし、多くの方に利用されるようになるためには、現状のままではダメで、路線やダイヤも、PRのしかたも、大きく見直していかなければなりません。また、ITや自動運転といった新しい技術もうまく活用していく必要があります。
 問題は、「公共交通改革」のために必要なノウハウが関係者間で広く共有され、レベルが底上げされる機会が極めて少ないことです。各自が勝手バラバラに取り組んでいるだけでは、公共交通サービスが社会の期待に応えることはできません。
 そこで我々有志は立ち上がりました! 日本の地域公共交通に最も足りないのは「マーケティング」だと考えました。すなわち、ニーズを把握し、それを満たすサービスを提供することを可能とするビジネスモデルをつくりあげ、絶えず改善していく活動です。それを関係者みんながフラットな立場で集まって勉強し、現場で実践し、結果を出すための「場」として、「公共交通マーケティング研究会」を発起しました。

第一回の例会は「顧客志向を意識した駅・バス停における案内掲示の方法を考えよう」がテーマである。筆者は国内外の駅、バス停、空港を利用することも多いが、日本のそれはわかりにくいことが多いと常々感じていたので、バス事業者の方々がどういう問題意識を持っているのか、関連事業者はどういう構成で、それらが同じく何を考えているかを知りたかったのである。この会は明確な会員組織ではなく、運営事務局が有志によって構成され、年6回の例会を異なるテーマで開催するものだ。スタートアップの会は昨年12月に岡山で、今回の第一回の例会は名古屋で開催され、80名を超える参加があり大盛況であった。次回の開催は東京である。

会合の構成はプレゼンテーション数本に続いて、6名程度のグループに分かれて、案内掲示に関しての問題点をディスカッションし、その内容を共有した。そこで感じたことは、言葉を選ばずに言うと、このバス業界はこの会の設立趣旨の通り、業界全体としての知見が少なく、共有されておらず、そこにつけ込むIT屋がバス屋を食い物にしてる構図が見えたのである。

例えば今回のバスの案内表示に関しても、なんとなく時刻表をデジタルにするという方向が正とされているのだが、マーケティングを論じるのであれば、そもそも誰に対してどういう情報を何のために提供するのかという本質を忘れた議論になっている。バスの乗客の立場に立つのであれば、時刻表が不要とは言わない。しかし少なくともバス停では、乗客はダイヤが知りたいのではなく、自分の乗るべきバスはいつやってくるのかを知りたいのではないか。土地勘のない場所で、かつ複数の路線がある場合には、目的地に行くためにはどの路線のバスに乗ればいいのか、その乗り場はどこか、次のバスはいつ来るのか、所要時間はどれくらいかが知りたいのである。時刻表だけを提示されても手も足も出ない。これらがわかれば、状況に応じてバス以外の選択肢、タクシー、歩くなどを選ぶことができる。

筆者は日本国内の様々な場所でバスに乗ることも比較的多いが、毎回こうした課題にぶち当たる。それは大都市であっても同じことで、京都、金沢、広島駅で遭遇した。多くの人はこれが面倒なので駅前からタクシーに乗ってしまう。どうしてタクシーを選択するのかと言うと、どこに行く場合ではタクシー乗り場は共通で、行き先を言うだけで目的地まで最速で運んでくれるからだ。一般的にはタクシーのほうがバスよりも料金は高いが、まあいいかということになる。タクシーも公共交通なので客がタクシーに流れること自体は問題ではない。しかしバス事業者はそうは言ってられない。

会合後の懇親会で、日本全国の複数のバス事業者と話したのだが、前述の「乗客はダイヤが知りたいのではなく、自分の乗るべきバスはいつやってくるのかを知りたいのではないか。」という筆者の問いかけに驚き、同時に、でもそれをどうやって実現するか、あるいは膨大なコストがかかる、もう助成金が取れない、などという認識であった。果たしてそうだろうか。バスにGPSを搭載したネットワークに接続できる端末、要するに別にスマホでいいのだが、を搭載して、道路状況を例えばGoogleのオープンデータと掛け合わせ、今ならAIで解析すれば乗り場、降り場の到着予想時刻を出すことは容易である。

すでにバスロケーションシステムというものがある。そのことはバス事業者は当然知っている。Wikipediaによるとバスの位置情報には
(1)バスとバス停に備え付けられたアンテナを介して、通過情報を取得して情報センターへ送信する方法
(2)GPSを利用して現在の位置を取得し、携帯電話のパケット通信や業務無線等により情報センターへ送信する方法などがあり、いずれも情報センターへ集められた位置情報を利用者へ提供している。 現在は後者のGPSとパケット通信を使用したシステムが主流で、日本国内では、NECネクサソリューションズ株式会社がシェアトップ(車両台数ベースで50%以上)となっている。

(2)が問題(ここに記載されている会社さんが悪いというまったく意味ではない。同社のビジネスとしてはそうなるのは当然である。それぞれのレイヤーで競争しているだけのことだ。)で、バス事業者が一様に口にするのは、「高くてうちでは導入は無理。これによって売上は上がらない」だ。

高いかどうかは、前述の通りやり方次第だ。これを実現する技術やそのためのコストは本当に安くできるようになっている。これで売上げは上がらない、というのは本当にそうなのか。単にバスはわかりにくいから潜在顧客を取りこぼしているだけなのではないか。こうした仮説に対して、バス事業者は仮説の存在さえ想像できておらず、こうした仕組みを提供できるはずのIT事業者はニーズを見落としているのではないか。UberやUber Eatsを知っていれば、体験したことがあれば、バスへの応用はすぐに想像できることなのだが、そうなっていないのが現状である。知らない街の駅に降り立った時に、タクシー運転手に行き先を一言告げるのと同じように、目的地を言えば行き方を教えてくれる端末かサイトがあればいいのではないか。老人はスマホが使えないというのは合意だが、想像以上にシニア層のIT化は進んでいるのと、こうしたインフラは一朝一夕で普及できるものではないので、あれこれやっている間に世代もシフトしていくので問題はないはずだ。

IoT・AIとバス事業者をつなぐこと。これこそが本メディアGASKETが目指していることそのものだ。誰がいいとか悪いとかではなく、多くのニーズをあぶり出してより良い方策を見つけ出すことだ。

これらのことは、世界中どこであっても、たとえばエクスプロバンスの駅に降り立っても、スマホでグーグルマップを立ち上げればほぼ完璧に解決されてしまうのである。だがスマホは決して完璧ではなく、できることやるべきことは山ほどある。そしてこれらはMaaSの実現のためには必須のことであり、日本では鉄道との連携が重要になる。バスだけで、電車だけで完結しても意味がない。ここが本当のポイントだと思う。

【関連記事】
・バックライトがない反射型液晶ディスプレイ
・【告知】ビズライト・テクノロジー、埼玉高速鉄道の車両と駅でのデジタルサイネージで、IoTやAIを駆使したダイナミックOOH事業を展開へ