経産省とNEDOの次世代店舗実証実験で食品ロスは減らせるか

IoT /

経済産業省と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、2月12日から28日まで、電子タグを使ってダイナミックプライシングやターゲティング広告などを行う「次世代店舗実証実験」を実施している。

この実験は、2017年の「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」、2018年の「ドラッグストアスマート化宣言」に基づいた取り組みで、電子タグの活用領域をサプライチェーンだけでなく、生活者にまで拡張したときの利便性や付加価値の創造について検証するものだ。
実証実験の協力店舗は、東京都内のドラッグストアおよびコンビニ4店舗である(ウエルシア 千代田御茶ノ水店、ココカラファイン 清澄白河店、ツルハドラッグ 目黒中根店、ローソン ゲートシティ大崎アトリウム店)。

ダイナミックプライシングとは、電子タグが個品ごとにユニークなIDをつけられることを利用し、商品の消費・賞味期限まで含めた在庫状況をリアルタイムで把握し、個品単位で価格を変動させることだ。今回の実験では、これを活用するとともに期限切れが近い商品の割引情報をLINEで配信することで、安い商品を購入したい生活者とマッチングして食品ロスを減らすことを実証するとしている。

経済産業省 「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」を策定しました~サプライチェーンに内在する社会課題の解決に向けて~ の参考資料から抜粋

参加手順は、LINE公式アカウント「経済産業省・NEDO 次世代店舗実証実験」を友だち追加し、規約への同意、通知してほしい店舗の登録などを行う。これにより。値引き情報の通知を受けたり、問い合わせが可能になる。この通知を受け、店舗を訪れて値引き品を購入することになる。ただ、値引き品には値引きシールが添付されており、実証実験へ参加していなくても、値引き価格で購入できる。

実験参加から値引き品の購入までのステップ

まずはLINEで「経済産業省・NEDO 次世代店舗実証実験」アカウントと友だちになる。するとメッセージが送られてきて「実証実験に参加する」ボタンが表示される。

利用規約では、実験店舗に設置されたカメラ、WiFi、RFID、POSを使った来店社の行動分析を行うとあり、カメラによる利用者の属性推定、RFIDを使って棚前の行動などを分析するとされている。

 

事前に利用店舗や性別や年齢を登録する。

 

 

期限前の値引き品が出ると、通知が送られてくる。ウエルシア千代田御茶ノ水店では、17時に値引きが行われ、それが通知されるようだ。

LINEの通知にあるリンク先に、値引き品と、値引率、在庫数が表示される。ただ、在庫数は数値が入っていないうえ、一部の値引率には誤りがある(リストの一番上にある「タルタルのり弁当」は、現場では半額だった)。

値引き品は、値引きシールが貼り付けられたうえでコーナーにまとめられている。このような「ダイナミックプライシング」は、古くからあるが……。

下の写真で、右上にはられた青色のシールが、今回の実証実験で使っている電子タグ。バーコードだと商品単位での管理しかできないのに対して、電子タグだと個品単位での管理が可能なため、シールの貼替えをすることなく期限切れ間近の個品だけを値引きすることができる。しかし、システムの裏側だけで値引きをするだけでは意味がない。来店者が値引きをしていることを理解できなければならず、そのためにはこれまで同様に「半額シール」が必要だ。電子タグにしても半額シールの添付作業が残るのであれば、店舗スタッフの負担はかわらず、ダイナミックプライシングを機動的に行えるようになったとは言えないだろう。また、「タルタルのり弁当」は通知だと2割引になっているが、現地では半額シールが貼られていた。途中で割引率を変えたのか店員に確認したが、17時の値引き開始当初から半額とのことだった。そもそもの値段の管理にも問題があるようだ……。

訪問したウエルシア千代田御茶ノ水店では、電子タグをダイナミックプライシング以外にリアルタイムの在庫管理の実験も行われているため、全商品に電子タグがついていた。棚卸しの際に実数と比較して正確性を確認する。

店舗にある商品は、すべて合わせると2万点に上る。今回の実験では、これすべてに電子タグを付ける必要があったため、本社から多数の人員が派遣されて人海戦術で作業にあたり、店舗側に多くの手間がかかっている。このやり方がそのまま普及するとは到底思えない。メーカーによるソースタギング(メーカーが梱包時に電子タグを商品パッケージに添付すること)が絶対条件となるだろう。

 

電子タグのメリットを矮小化しかねない実験

本実験に参加して感じたのは、このような中途半端な電子タグの使い方で「食品ロスの削減」を掲げるのは、電子タグの評価を下げかねないのではないか、ということだ。

身も蓋もないことを言えば、ダイナミックプライシングに電子タグを使う必要はない。個品単位で価格を変動するのに電子タグは有用だが、どの個品が値引き対象なのかを来店客にわかるようにするには、これまでと同じように「値引きシール」が必要だ。実際に今回の店舗でも、値引き品にはシールが添付されたうえ、専用コーナーに並べられていた。これでは、これまでの見切り品の扱いと変わらない。百歩譲って、値引き商品の在庫をリアルタイムで把握し、サイネージやLINEなどの各種媒体を通して生活者に情報提供すれば、電子タグの意味があるといえるかもしれない。しかし、今回の実験では、通知情報に在庫数は含まれない。これでは電子タグを使う意味はまったくない。

また、この値引き情報を広く通知することが食品ロスを削減するとの前提にも疑問が残る。期限切れ商品の値引きが行われる時間は、毎日ほぼ同じだ。スーパーやデパ地下では、閉店前の値引きが習慣化して集客イベントの様相を呈している。すでに価格コンシャスな生活者が閉店前のセールを目当てにした購買行動を行っているなか、来店前に値引き品リストを公開すれば、逆に「欲しいものがないから、行く必要はない」と思わせてしまうリスクのほうが大きいのではないか。また、あらゆる店舗でダイナミックプライシングを行ってリアルタイムでその情報を公開しても、みんなの胃袋が大きくなるわけではない。各店舗が期限切れギリギリのタイミングで、限られたパイを奪い合うだけだ。値引き情報の通知で生活者の流動性が高まり、店舗による需要予測の正確性が下がれば、機会損失を防ぐために店舗は在庫を多めに持つようになるだろう。これでは食品ロスが増えることになりかねない。

経済産業省が謳う「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」「ドラッグストアスマート化宣言」の実現には、メーカーによるソースタギングが前提となる。メーカーの取り組みを促すためにも、社会的な意義を示そうと食品ロスの削減をテーマにしたのかもしれない。しかし、残念ながら今回の実証実験でそれを実現できたとは言い難い。生活者の利益や社会的意義を中途半端に謳うよりも、サプライチェーンの効率化や個品単位でのトレーサビリティーを実現することで、巡り巡って作られる生活者のメリットを丁寧に提示するほうが、電子タグが持つ本来の価値を示せただろうし、電子タグ普及に必要となるコストをメーカー、流通、生活者がどのように分担するかについて建設的な議論につながったのではないだろうか。