CESで偶然出会った日本人の話

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2019年のラスベガスのCESで、一人の日本人に偶然出会えたのだが、今日はその話をしようと思う。CESのメイン会場のひとつSands Expoの1階には、スタートアップエリアEureka Parkがあり、世界中から多くの人を集めていた。一昨年に始まったフレンチテック・ブースに対抗する形で、ヨーロッパやアジアの国々が積極的にブースを出し、この会場には期間中何度も出かけた。

1月9日にEureka Parkの展示を筆者がチェックしているとスタートアップのピッチが始まった。そのピッチはアメリカのアクセラレーターのTechStarsが行なっているもので、世界のAIのスタートアップ10社が選ばれ、1分間ピッチで優勝者を決めるルールだった。興味本位でピッチを見ているとアジア系の人物が登場し、流暢な英語でAIの話をはじめたのだ。

ピッチをしていたのは、音声から感情を認識するプログラムを提供するEmpath山崎はずむ氏で冷静に自社の強みを語る姿が印象的で、ピッチを最後まで見ることにした。アジアからは唯一同社が選ばれ、アメリカやヨーロッパの強豪とのピッチで善戦していた。

EmpathのAIは音声をリアルタイムに解析し、そこに含まれている4つの感情を可視化する。
黄色が「喜び・快活」、緑は「平常・落ち着いている状態」、赤は「怒り」などの強い主張、青が「悲しみ・戸惑い」を示し、人の感情を音声で判断することで、その人の状態をチェックできるのだ。例えば、プレゼンテーションをしている人を判断すると「喜び」と「平常」が70%を占めていれば、安定したプレゼンテーションで、「悲しみ」が30%以上になっていると自信のないプレゼンテーションであることが統計的に明らかになっている。

東日本大震災の時にはこの技術が支援スタッフのメンタルケアに使われた。最近ではトヨタが表情感情解析や音声感情解析などの機能を搭載したコンセプトカー「TOYOTA CONCEPT-愛i」を発表したのをきっかけに、ドイツやアメリカの自動車メーカーからの問い合わせが増え、海外に出かけるチャンスも増えた。海外で台湾や韓国のベンチャー起業家と交流するうちに彼らの本気度に触発された。海外のスタートアップに比べ、日本のベンチャーはマーケットが大きいという点で恵まれている。しかし、逆説的に考えると海外進出が遅くなり、世界でポジションを取れなくなるという問題を抱えてしまう。そのことに気づいた山崎氏はピッチだけでなく、Appleや Googleの本社に出かけ、優秀な社員との情報交換によって、本気で世界を目指す道を選んだと言う。

今回のCESの話に戻るが、結果は残念ながら3位だった。私的には10人の中でもっとも良いピッチだと思ったし、山崎氏本人も優勝を確信していたとのこと。しかし、結果はどうあれ、Empathがラスベガスで存在感を示していたことは間違いない。

帰国後山崎氏と話をする機会を得たが、AIのビジネスだけでなく、日本ベンチャーの問題点を解決しようとしている姿勢に共感を覚えた。Empathの渋谷のオフィスは開放的で社員以外の起業家や外部のスタッフが絶えず集まれるようにイベントを行っている。なぜ、人が集まるオフィスにしたのか?という質問に彼はこう答えてくれた。

日本のベンチャーは失敗したら終わりで、次のチャンスがないように思える。横のつながりを作ることで、失敗した時のセーフティネットになれる。データ上ではスタートアップの9割が潰れるが、大事なのは「起業に失敗してもなんとかなる」と思える環境を作ることだ。シリコンバレーにようなスタートアップ系のコミュニティを作ることで、人材の流動性が生まれる。

AIでの感情解析だけでなく、スタートアップのセイフティネットを作るという彼の考えに筆者は共感を覚えた。

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