【温故知新】あなたはテレビ局を崩壊させたいですか?【2007年】

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この記事は2007年の6月に、日本経済新聞社のIT-PLUSに筆者が寄稿したものである。12年前と今は何が変わったのか変わっていないのか。以前に書いていた記事の中には、今読み返すといろいろな点で参考になる物が多いので今後いくつかをピックアップしていこうと思う。なお記事本文は当時公開されたもののままで、編集は加えていないが文末に追記をしている。

 

読者の皆さんは最近GyaOを見ておられるだろうか、仕事やプライベートで話題に上るだろうか。YouTubeはどうだろう。それでは「まねTVで話題になったロケーションフリーを実際に購入して楽しんでおられるだろうか。そもそも出先で自宅のテレビを見たいというニーズがあなたにはどれだけあるのだろうか。

GyaOYouTubeはテレビ局を脅かしているか

この1年くらいテレビ局を脅かす存在として様々な映像系のサービスが登場し、本コラムでもそれらをいくつか取り上げてきた。GyaO1000万視聴者獲得が騒がれて以来、このところ話題に上る回数がめっきり少なくなったとお感じはないだろうか。私はと言えば、このごろGyaOをほとんど見ていない。YouTubeは誰かのブログに貼り付けられたものを時々見る程度。ロケフリではなくSlingboxを持っているが出先で見ることは多くなくもっぱら家庭内利用だ。ミクシイもモバゲーもアカウントはあるが完全休眠状態。Wiiは比較的活躍しているがWiiニュースチャンネルがニュース番組に取って代わっているわけではない。もっともテレビそのものをリアルタイムで見ていないのも事実ではある。

要するにメディア接触や環境が180度変わったわけではない。過去10年くらい時間で見るとインターネットやパソコン、携帯電話の登場はかなり大きな変革を起こしたが、革命的かと言われると少なくとも今のところそうではない。やはり「今後も含めて最大で3割程度だろう。結局のところハニカミ王子やらハンカチ王子がテレビメディアによって生産、流通していくのである。だからテレビ局はまだまだ余裕の構えなのだ。ローカル局の経営について問題にされることも多いがそれはデジタル化投資以前からの問題だ。

テレビの未来に関する私の視点をもう一度

私の考えの根底には

1 モアチャンネルのニーズはない

2 もともと「見たいもの」などはない

3 リモコンを制する者が勝つ

があることは以前述べた通りだ。

1はもうお腹いっぱいだと言うこと。2は忙しくて他にやることもあれば、楽しいことはテレビだけではないということ。3はそんな中でも入り口が大切だという意味である。たとえば以前取り上げたアクトビラも入り口にこだわっているサービスだ。

入り口としてのJOOST

前回書いたJOOSTは入り口としてRSSリーダーを効果的に使っている。JOOSTの特徴は「モアチャンネル」でも「見たいもの」でもなく、RSSリーダーによる「新しいながら視聴」を提供しながらも、できるだけ従来のビジネスモデルを継承できるという点がテレビ局に受け入れやすく逆に新しいと思っている。地上波テレビ(端末)にあのインターフェイスを搭載するだけでメールもチャットもミクシイもモバゲーも番組表もおすすめ番組も、そしてもちろん広告も全部画面上にオーバーレイすればいい。テレビ局は「画面を汚すな」という言葉だけを控えてくれさえすればいい。現在JOOSTに乗っかっているコンテンツは正直魅力的ではない。アメリカよりもむしろ日本の地上波市場でこそ受け入れやすいはずだ。日本のテレビメーカーが開発または提携してテレビ受像器の機能として搭載するのはどうだろう。Pippin@以降(持ってましたね)、屍累々のテレビとネットの融合がこれだけのことで実現するはずだ。こうすることでCGMとしてのブログが生きてくる。余裕が出てきたら番組メタデータと関連したRSSフィードをピックアップできるようにすればいいのだ。

買われたくないテレビ局を無理して買収するような資金があれば、「入り口」を押さえることは容易だと思うのだがいかがだろうか。

誰がテレビ局を崩壊させたいのか

テレビ局は最後の護衛船団方式である。しかし護衛をしてきたのは法律や制度だけではない。広告主と広告会社と、実は他でもない視聴者であり商品を購入したあなたが守ってきたのである。これは決して悪いことでない。

彼らの高給を妬んだところであなたや私の給料が上がるわけではない。どうやらテレビ局を崩壊させたい人たちとビジネスモデルを崩壊させたい人たちの2種類が混在しているようだ。前者は妬みベースで建設的な話ではないので無視。後者はビジネスベースだが広告主を納得させる、いや結局はあなた自身を納得させるビジネスモデルが描けていないのである。現在商品に転嫁されている広告費が安くなることで商品価格が低下するのであればそれを選択しない理由はない。

テレビ局を崩壊させることが出来るのは結局の所あなた自身と言うことになる。

(本稿は2007年6月に日経IT PLUSに執筆した記事である)

 

ここから追記補足:

当時は「テレビ局崩壊」というタイトルで経済雑誌が定期的に特集を組んだものだ。それなりに売れたと思われるし、当のテレビ局関係者は「そんなわけがない」から「ん?」というモードに入って局員も少なからずいた。逆にこれによって「逃げ切り意識」が増したのもこの頃からである。

あれから12年が経過しているが、まあほとんど何も変わっていない状態で、それを継続できていることの凄さ、底力を感じる。嫌味ではない。

一方でこのごろ完全に非公式に、ほぼ仕事抜きでキー局の入社2,3年の人たちと会食する機会が多いのだが、彼らは二極化しているように感じるし、彼ら自身もそれを認めている。それは「テレビ局をなんとかしたい派」と「もともと興味無い派」だ。後者はIT系もよくわからないから田舎に帰るタイミングを図っていたり、趣味のダイビングができるように宮古島で働こうと思っている、みたいな感じである。

こういう考えは局内では、特に上長には当然知られてはいない。ちょっと自分探しっぽい傾向で個人的には好きではないが、今はそういう考えが本当に多い。このまま行くと、テレビ局は足元から本当に崩壊するかもしれないと思っている。