スマホが路線図のデザインを変える

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公共交通機関の路線図では、北が上になる「ノースアップ」にするのが当然だと考えていた私は、デジタルサイネージに表示する路線図でもノースアップでレイアウトを考えていたのだが、それではわかりにくいとの指摘を受けた。その指摘が、これからサインをデザインするうえで考慮すべき事項を示唆していると感じたため、こちらをご紹介したい。

ノースアップとヘディングアップ

地図でどちらの方角を上にするか、大まかに2種類ある。出版物の地図は、そのほとんどが北を上にした「ノースアップ」だ。それに対して、向いている方向を上にする「ヘディングアップ」がある。看板のように、それを見ている人の方角を固定できる場合や、カーナビやGoogleマップなどのデジタルの地図で向いている方向に合わせて表示を動的に回転できる場合は、ヘディングアップで表示することがある。

ノースアップの地図は、その他の地図と合わせて見るときや、その地図には記載されていない「西に山、東に海」などの大まかな方角に関する情報と照らし合わせて見るときに理解しやすい。しかし、地図を理解するうえで必要とされる2つの能力「路上視点から鳥瞰図に見方を切り替える」「図形を頭の中で回転させる(メンタルローテーションという)」には個人差が大きく、とくにメンタルローテーションが不得意な人にとっては、ノースアップの地図から、自分が進むべき経路を読み解くのはストレスが大きい。ヘディングアップであれば、そのようなストレスを軽減できるため、案内看板ではヘディングアップにするケースが多い。

看板はスマホアプリと合わせて見るもの

ただ、路線図においては、いまどこにいて、どの路線に乗ればよいのかを理解するのに方角情報は不要であり、地図を回転させて理解する必要はない。そのため、メンタルローテーションが不得意なひとにとっても、ノースアップの路線図に戸惑うことはない。方角に関する情報、たとえば東京の場合でいえば「右に進めば千葉」「下に行けば神奈川」「上に行けば埼玉」との地理的な位置関係と合わせて読めるメリットがあるだけ、ノースアップはデメリットのない「当たり前」の選択肢だと私は考えていた。ところが、それに対して下記の指摘を受けたのだ。

  • 鉄道を乗り継いで移動する場合は、事前に乗換案内アプリで調べた「A駅でa線に、B駅でb線に乗り換える」との情報をもとに、路線図上では乗換駅を探すだけである。
  • そのため、千葉方面、埼玉方面などの地理的な位置関係や方角はまったく認識に入っていない。
  • 乗換案内アプリでは、出発地を一番上にして進行方向を下にして途中駅や目的地を表示する。それと合わせてみる場合には、南から北に移動する場合でも、進行方向は上から下にしたほうがわかりやすい。

路線図が整合を求められる相手は、いまや地図ではなく、「乗換案内アプリ」であり、それと見比べやすいことが重要なのだという。そうすると、ノースアップだと「乗換案内と照らし合わせて見るときに、わかりにくい」とのデメリットが発生する場合がある。スマホの影響が、このようなところにも出るのかと、目から鱗が落ちる話だった。

「Yahoo!乗換案内」の画面。出発地が上で、下に向けて進む。

過去に『話を聞かない男、地図が読めない女』がベストセラーになったように、「地図が読める/読めない」については、これまでは性差で語られることが多く、先天的なものとされてきた。しかし、近年の研究では、ジェンダーギャップの小さい国や、自動車の運転率が高い国では、地図を理解する能力に関しても男女差が小さくなる傾向があることがわかっており、後天的なものだと考えられるようになっている。これは、逆に言えば、デジタル地図を見ることが一般的になってノースアップの地図に触れることが少なったり、自動運転の普及で自ら運転することが減ったりすれば、近未来の人びとのメンタルローテーションは弱くなる可能性を示唆している。今後の案内サインは、それらのことを考慮してデザインしていく必要がありそうだ。