「いい音の体験」はビジネスになると紅白8Kライブビューイング体験して思った

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大晦日にNHK紅白歌合戦を8Kライブビューイングで体験してきた。8Kのコンテンツは様々な場所で見てきたし、実際に制作プロデュースもしたので、それなりに特性は理解しているつもりだ。

今回の8Kライブビューイングの会場は、東京ミッドタウン日比谷の1Fのアトリウムである。アトリウムは3Fまでの吹き向けになっている。写真でわかるようにかなり音が反響するライブな音場である。媒体資料によると、広さは204平米となっているので200名くらいだと思われる。ここに300インチの映像と22.2chの音声が再生された。

今回のライブビューイング会場となった東京ミッドタウン日比谷のアトリウム
ライブビューイングの様子を後方から

映像の画面サイズは300インチで、パナソニックの2万ルーメンの4Kプロジェクターを4台で上下左右に画面分割してスクリーンに投影していた。実際には重なり部分のブレンディングをしているので10%ほど小さい映像である。当初はソニーのCLEDISを現場に持ち込むと聞いていたが、建込みと撤収の関係でプロジェクターになったとのこと。プロジェクターの映像は反射光で見ているので、LCDやLEDのような自己発光ディスプレイとは異なり、映画館のそれに近い。またオープンなパブリックスペースであるので、会場を暗くすることができないので「締まった黒」にはならない。

表示されている映像ソースは、2K放送とは別のソースである。違いは、場面転換やセットチェンジなど、裏方部分がそのまま見えるもの。狙い的にはNHKホールにいる状態の再現ということである。そのため、現場では8Kのオンエアをエア受けできないので、ライブビューイング会場まで光伝送を行っている。この伝送は非圧縮で行われた。

Perfumeのパフォーマンスは横浜アリーナからの中継

8Kライブビューイングはどうあるべきか

8Kのライブビューイングに何を求めるか。あるいは何が適しているのか。ここがいま試行錯誤を繰り返されている部分である。少なくとも、どんなに大きくても80インチ以内の家のテレビで見る分には、これまでのテレビ番組と同様の作り方をしていても、技術面と制作内容面のどちらに関しても劇的に変わることはない。可能性があるのはデジタルサイネージやライブビューイング、パブリックビューイングのような、家以外の場所で、家では実現不可能な画面サイズで、多くの人と同じ映像体験をする、という部分の技術面、コンテンツ面、ビジネス面の検証である。

技術面に関しては、放送技術や伝送技術面ではほぼ確立できつつつある。制作技術面は、コンテンツ内容と深く関わる。コンテンツ面ではやはりどういう画作りがいいのかという点が未だ課題だろう。画作り以前の問題として、演出があった方がいいのかそうではないのか。これらに関しては音楽やスポーツとドラマでは当然ながら考え方が異なるわけだ。

こうした点への取り組みとして、今回の紅白の4Kと8Kに関しては、総合テレビなどの2K放送と、4K/8K放送とで全く異なる内容になるという「現場の再現」という考え方が示されていた。

PHILE WEBにNHK編成局 編成主幹(4K/8K編集長)の大里智之氏のコメントが掲載されている。

NHKが4K/8K放送で目指すのは、「NHKホールで紅白を見ている、そのままの体験を見ていただく」(大里氏)こと。地上波では、舞台転換のあいだはMCや出演者がトークするところがアップになるが、4K/8Kでは舞台転換の様子まで見られる。

「それが可能になるのは、4Kと8Kが高解像度で、いわゆる『引きの映像』でもMCの顔がはっきり映るから。このように、作り方まで変えることで差異化を図っていきたい」(大里氏)。

この趣旨には個人的に完全同意する。それを体験するために今回はライブビューイング会場まで足を運んだわけである。

ビジネス的には音が重要である

映像に関しては、前述の趣旨の試みは感じられたが、やはり普通のカメラワーク、普通のスイッチングが大半を占めていた。「NHKホールで紅白を見ている、そのままの体験」であるのなら、ああいう絵にはならない。それはわかっているのだろうから、どうしても製作者として割り切れないのだと思う。

また今回のライブビューイング環境の画面サイズ、広さからすると、前の方の50人から100人程度は没入感のある環境になるが、それよりも後方や左右にいる人からは、見た目の画面サイズがどんどん小さくなり、家でテレビを見ている感覚にどんどん近づいていく。これは仮に画面サイズを倍にしたとしても、今度は至近距離が使えなくなっていくので、有効視認エリアが倍にはならないとことが想像される。国内の映画館のスクリーンで最大なものは成田HUMAXで1100インチ、座席数は471席であることからも納得感がある数字だろう。そしてこれらは、ライブビューイングを興行的に採算ベースに乗せるために極めて重要な空間的、物理的なパラメータである。このサイズで再生する環境への投資金額、観客から徴収できる料金とその回数。ライブ限定であれば1会場あたりの収入で賄えるのか。そうでないならライブ以外のコンテンツとは何か。設備投資金額は年々低下していくことは間違いな無いので、果たしてどこで成立できるかということになる。

もう一つ、圧倒的に重要なのはやはり「音」である。前述の通り、今回のライブビューイング会場はかなりライブな音場であったこと、商業施設が営業時間外のためにそれなりの大音量で再生できたこともあり、筆者が今まで体験したどの22.2chよりもライブ感に溢れる音が再現されていた。サカナクションの6.1chサラウンドライブを二子玉川のイッツコムのホールで体験した時以上の臨場感をで再現されていた。この環境の再現は、映像以上に家ではできないことである。類似のことはカラオケボックスならある程度の大音量が体験できる。体験という観点で考えると、視覚は大画面高解像度やVRなどの方向性があり、これらは場所的にもコスト的にも技術的にも解決できそうだ。しかし問題は音で、ヘッドホンも悪くはないが、仮に自室に5.1ch環境を用意しても、大音量再生できる家はなかなか存在し得ない。22.2chを例えばドルビーアトモスあたりに「落とす」仕組みなどもそう遠くない将来登場するだろう。

体験としては「音」をなんとかする方が重要であり、ビジネス性が高いと感じた。この部分は現時点ではカラオケボックスが担っている部分だが、歌わないカラオケボックス、CDやレコードを聞くための場所のニーズは高いのではないだろうか。

【あとがき】

ライブビューイングについて書いていたら、途中でこういう記事の情報がSNSで回ってきた。秀逸な意見である。

「その点で、今回の「瞬間を共有する」というテーマです。言わずもがな、単なるパブリックビューイングなど、単にコンサートを大きな画面に映すことは、本当の意味で「瞬間の共有」ではありません。Perfumeは映像作品ではないので。そうなってくれば、やはり「共有する」行為として正しいのは、現地では体験できない別の楽しみを生み出すことなのかな…と。」

GIZMODE
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