【温故知新】あなたもテレビCMをオンラインで買えます ついにCM取引市場もオープン化の時代に【2006年】

Media /

この記事は2006年の12月に、日本経済新聞社のIT-PLUSに筆者が寄稿したものである。12年前と今は何が変わったのか変わっていないのか。以前に書いていた記事の中には、今読み返すといろいろな点で参考になる物が多いので今後いくつかをピックアップしていこうと思う。なお記事本文は当時公開されたもののままで、編集は加えていない。

テレビCMの世界で面白い動きがあるのをご存じだろうか。オンラインでCMが買えるようになったのだ。CM業界関係者以外の方々はCMを見て商品を買ったり思わずCMをスキップしてしまうことはあっても、実際にCMを出したことがある人は極めて少数であろうからご紹介ながらデジタル家電への波及にも言及してみたいと思う。

ついに登場した画期的なサービス

アメリカでは「Spotrunner」、日本では同じようなサービスとして「CMGOGO」というサービスがある。これはオンラインでのテレビCMの販売ネットワークだ。ターゲットとしている広告主は日本もアメリカもどちらかと言えばローカル企業、例えば 地元の飲食店や不動産業者などであり、CMを出す先はローカルのTV局やケーブル局だ。

CMが放送される全プロセスをオンライン化

Spotrunnerの場合のサービスの概略はこうである。まずはじめに広告主はCMを出したい地域や番組ジャンルなどを選び、WEBから業界やコンセプトによって仕分けされたテンプレートとなる動画の素材を選ぶ。これに社名ロゴのファイルをアップロードしたり、電話番号やURLなどのテキスト情報を入力するとオンラインで編集が行われ、内容を確認してOKすればあっという間に完成だ。多くのブログや動画投稿サイトのようにテンプレート入力とファイルアップロードでできあがりなのと同じである。

CMを流そうと思っても流すCMがなければ話は始まらないのだが、これを制作する手間やコストがかなり大きい。もちろん特定の商品CMなどではこういったテンプレート素材では表現しきれないところもあるが、工夫次第で、また企業イメージCMであれば十分利用可能だ。

CMができあがると引き続いて予算を入力する。すると局名や番組名、日時などの放送スケジュールの「お勧めプラン」が自動的に提示される。業界的には「局案」とか「線引き案」と呼ばれるものだ。これのやりとりは何度でもオンラインで修正可能となっている。Spotrunner社はテレビ局から(大部分はあらかじめ)広告枠を買い取り、広告主に販売するというモデルである。

現在日本でCMを流そうとすると、CMはビデオテープの状態で広告会社を通じてテレビ局に物理的に納品される。ここで物流が発生する。ナショナルクライアントが日本全国に向けてCMを流そうとすると原則的にテレビ局の数だけテープのコピーとデリバリーが必要になる。これは結構なコストなのだが、Spotrunnerの場合はCMがファイル管理されているので考え方としては上記のコストがゼロである。

放送後は「間引き」されることなく放送されたことと、広告主が経理処理するための証明書として放送確認書が発行される。面白いことに決済がクレジットカードで出来てしまうところも驚きだ。

このようにSpotrunnerはCMの制作、枠取り、配送、放送確認、決済といったプロセスがオンラインでかつワンストップで可能になっている。日本ではこれら一連の業務は、広告会社(広告代理店)との間で行うものであり、各プロセスはほとんど電子化されてはいない。もちろんSpotrunner社はアメリカでもベンチャー企業であり、まだまだ一般的なものになっているわけではない。

クロスメディアマーケティングのツールとして

こうしたサービスはそれ自体非常に画期的だが、もっと本質的な変革の登場する機会を見失ってはいけない。これまでのテレビCMの業務フローを単にオンラインに載せ替えただけで終わらせることなく、はるかにオンライン化が進んでいる他媒体とのクロスメディア連携のためのマッシュアップツールとしても使われるべきだ。

旅行サイトで飛行機チケットを(多くは格安券で)購入したら接続の良い電車の指定席や、目的にあったホテルを同時に予約できるというサービスは、Web2.0以前からすでに当たり前である。しかしながらテレビCMは自社便の747ジェットのビジネスクラスだけを定価で売っているようなものであり、今回の仕組みが手書きで発券していた航空券が電子化されただけに終わってはまだまだ面白くない。

AIDMAからAISASへというようなマーケティング理論では、常に最初の一文字目はアテンションのAであり、今後もこれにはテレビがふさわしいと言う点について議論はあまりないところだろう。最初の一文字目を押さえられる人が、4マス媒体、インターネット、ケータイ、デジタルサイネージも含めたクロスメディア的にその先のメディアも押さえていく、あるいはプランニングするのが一番近道であるはずだ。

テレビCMはこれまでのテレビの広告主の商品やサービスがマスマーケティングを求めていたので成立したビジネス構造なのだが、いまや広告主の商品やサービスそのものが大きく変化している。テレビ離れは視聴者側だけでなく、むしろ広告主側からもやって来る。広告主は同じ視聴者、生活者をターゲットにしているのだから当然の成り行きだ。今回のCMの送り手側の仕組みと、受け手側、すなわち家庭内の大容量のハードディスクレコーダのような機器の制御技術を組み合わせてみてはどうだろう。放送局がCMを送り出しているCMサーバが各家庭に分散されていると考えていただけるとわかりやすいだろうか。家庭側の機器にあらかじめ放送または通信側からCMを蓄えておき、属性に合わせたCMの配信情報、プレイリストだけを個別に送ることができれば、広告主はこれまで以上にセグメントされたターゲットにCMを送り届けることができる。コンテンツはマスだが、CMはセグメントされているメディア。そういった場が強く求められていることにいち早く気がついて実行するのは誰になるのだろうか。

(本稿は2006年12月に日経IT PLUSに寄稿した記事です。)