InterBEE2018 Vol.002 赤外線カラームービーという温故知新で新しい絵筆

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映像制作、その中でも撮影の話である。IR(赤外線)撮影という、それだけ聞くと暗視カメラの話でしょとか、盗撮ヤバイとか思いがちだが、まったくそうではないのである。InterBEE2018で赤外線カラームービーを見たときに、今まで見たことがない世界観にちょっと驚いた。

まずはこの不思議な色彩による世界観を感じていただきたい。

デジタルカメラにはIR(赤外線)カットフィルターが付いている。これはデジタルカメラのイメージセンサーは、可視光の範囲以外も光を電気信号に変えてしまうため、IRカットしないと人間が見ている色と違った色になってしまうからだ。たとえば人間が緑だと思っている葉っぱ、人間にそう見えているだけで、実際には違う色に見えている動物もいるということだ。

パナソニックのEVA1という4Kカメラは、このIRフィルターをスイッチひとつでオン・オフできる。この機能を利用して、赤外線を使った撮影ができるのである。赤外線撮影した映像は、そのまま人間の目で見ると不自然なピンク色っぽいものになる。そのためカラーグレーディングで色の調整を行う。カラーグレーディングを行うためのツール(ソフトウエア)は近年非常に手軽なものになってきた。例えばブラックマジックデザイン社(が買い取った)DaVinci Resolveは299ドルで、最低限な機能を試せる無償版も提供されている。

パナソニックブースでのデモの様子。左がスタンダード映像、右がIR撮影。監督の貫井勇志氏(左)は気合の入った赤色ヘアで登場、撮影の田村雄介氏(右)

赤外線撮影でできることは、通常の色味とは異なる表現ができるということだが、それだけならカラーグレーディングで追い込んで行けばできなくはないだろう。だが、もともとの撮影時の光が変わらない限り、撮影というのは結局は光の反射を記録しているので、後処理でできることには当然限界がある。チカラ技でマスクを切って切り分けて作業すればできないことはないが、非現実的な話になる。

では撮影時の光を赤外線にしてやると何が変わるのか。当然ながら反射されてくる光が変わるのは筆者も頭ではわかっていた。重要になるのは反射される光なのだが、同じ赤く見えているものでも、金属、紙、布など素材の種類によって自然光と赤外線では反射率が異なるのである。たとえば布のようなものは赤外線を吸収してしまうのである。

また撮影しながらわかったことだそうだが、レンズフレアが自然光とは異なるのだ。レンズのコーティングなどのフレア対策は、自然光でそれが発生させないように、あるいは発生するように作られている。ところが光が赤外線に変わると、自然光では起きなかった状況下でフレアが発生する。これは演出時に味方にすることができる。自然なフレアは、CGで作るものとは異なる味があるのは言うまでもない。

このレンズフレアは自然光など、赤外線以外の光では出せない

もちろんだがIR撮影された映像は「自然な色」ではないので、すべての撮影が赤外線になるわけでは全くない。パナソニックブースで3日間行われた、前述のIR撮影作品「palette」監督の貫井勇志氏、撮影の田村雄介氏、この作品をプロデュースしたHOTSHOTの石川幸宏氏とのトークで出てきた言葉は「新しい絵筆が増えた」ということ。素敵な表現だ。

赤外線撮影はいろいろな表現ができると同時に、光を操る、光を作るといった先人の知恵に学ぶことの重要性や、赤いものは自然光で見ているから赤いだけで、赤外線を当てると違う色に見えるという、既成概念を変えるだけで結果が全く変わることを教えてくれる気がする。

ブロックチェーンからこうした撮影手法や表現手法の話まで、InterBEEはとても幅広いのである。