AIは新たなリスクテイクを要求する~御社にその覚悟はあるか

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AI(機械学習)テクノロジーは猛烈なスピードで世の中を変えようとしているが、いざ導入(開発)しようとすると、最初に大きな問題にぶつかってしまう。それは、AIを使って進めたいプロジェクトが果たして本当に実現できるかどうかを、判断するフェーズにおける費用負担の問題である。特にコンピュータビジョン(画像処理)でのAIシステムの場合はこの初期費用が極めて問題になる。

ディープラーニング開発の課題

しかるべく会社や個人に、あるシステムのアイデアを伝えた時、まったくもって無理か、逆に求められる精度であれば類似した実績もあるし、多分実現できるであろう、というケースではそれほど問題にはならない。しかし、“原理的にはいけるはずだが、やってみなければ実際のところはわからない”、という場合が問題なのである。

コンピュータビジョンで、ある物体を検出したい、判断したいという場合、多くはCNN(Convolutional Neural Network)という機械学習のアルゴリズムを使い、ディープラーニングでこれを実現しようとする。そうすると、できるかどうかの“アタリ”をつけるだけでも、最低何百枚かの画像を用意し、機械学習を試みることになる。これらの作業だけで、1,2週間はあっという間に消費してしまう。

仮にプログラマ1人に任せたとしても、30~50万円程度のコストがかかる(人工的な請求を行う会社だと仮定して)。そしてほとんどの場合 “これでいけるんじゃない?”、という答え(精度)が出ることはない。エンジニアやプロジェクトマネージャがGOを出せるレベルになるには、ここからさまざまなチューニングを行い、最低でもこの倍の期間がかかる。(100万円単位のコスト)それでも、“いける”、という答えが出たならば、本開発に入れば良いが、問題は、“あとひと月くらいやればもう少し良くなりそうだが、1カ月後に必ず期待される成果が出るとは限らない”、という状況に陥った場合である。たぶん、AIプロジェクトの9割はこの状態になる、と思った方が正しい。

こうなると、“アタリ”をつけるまでのコスト(この例だと、30万円~200万円くらいまでの幅になるが)を誰が負担するのか?最悪、使いモノにならない開発に、200万円も誰が払うのか?
自社商品、サービスの研究、開発レベルでのちゃんと予算化されたプロジェクトであれば、自社のエンジニアを使うか外部を使うかは別にして、これらのフェーズを通過しない限りその先も無いわけで当然、リスクとして最初から考えているはずだ。しかし、そんなプロジェクトはレアであり、そうではない場合どうなるのだろうか?

誰がリスクをとるのか

ざっくり言って発注する側と、受託してサービスを開発するシステム会社の二つの立場があるわけだが、ここでは話を簡単にするために、主に受託開発会社の立場で考察してみよう。

1. 発注先が全額払うケース
開発側のリスクはゼロになるのだから、基本的には請け負うだろう。ただし、当然のことながら発注側のリスクは最大になるし、よほどお金を捨てても良いという会社でもない限り、珍しいケースだと思われる。

2. 発注側が、“要求する精度のものを作れたならば金を払う”、というケース
おそらく、8割以上の開発会社はこれを請けられない。失敗したら人件費がすべて赤字になるからだ。多少財務的に余裕があり、なおかつ失敗しても挑戦する価値がある、と判断した会社はこれを請けるかも知れない。(それが2割程度と筆者が想像している)

3. “アタリ”をつけるコストを分担し、成功したら払うケース
例えば、初期判断をするために100万円の開発費がかかるとして、50万円は発注元が払い、残りは受託会社のリスク。“いける”、となったら本開発に入るので、改めて全体の開発費として支払う。“アタリ”がつけられなければ双方が50万円のリスクとなる。一見フェアに感じられるが、発注元は“見た目一方的に”キャッシュアウトをするため、それほど実例は聞かない。

4. 成功したら発注側の売上などからロイヤリティ、成功報酬として払うケース
受注側の会社が発注側の会社のサービスや商品が著しく売れるようになる、と判断すればあり得る話ではある。しかし、受注側の体力の問題は別次元の話だ。つまり、先述の2項と同じ結果になることが多い。

5. 受注側の全リスクで開発するケース
失敗しても成功しても、発注側には実質的に請求しない。その代わりに同様のシステムやノウハウを他社へ販売する(この時はパッケージに近い形にする)。というモデルだ。受託側はアイデアや実験場、運用ノウハウを得られるのだから、受注側に体力があり、かつ、開発するモデルにマーケットが存在する、と判断すれば可能性としては十分あり得る選択肢である。

他にも考えられるがおおまかこんなところだろう。かなりのジレンマに陥っていることはおわかりいただけるだろう。技術的にはAIは破壊的イノベーションであるにもかかわらず、これが現状なのである。

過去のITソリューションではこのような例がほとんど見られない。あえて近いケースで例えるならば、eコマースの黎明期に似たような現象が多少見られた。本当にネットで商品が売れるかどうかわからないから、サイトの構築費を売上ロイヤリティで払うなどのビジネスモデルも存在した。楽天のようなショッピングモールに出店する、というのも実はこれに近い。初期費用を抑えてリスクを最小化しようとした結果である。

しかし、アマゾンをみればわかるように、ネットショッピングは一部を除き、“出店”モデルではなく、“出品”モデルに決着したと言ってよい。商品を売りたい事業主からすると、アマゾンはショッピングモールよりもさらに目的化され、これ以上分解できないほど微細なパッケージソリューションとなっているからである。パッケージが微細になると、売り手と買い手(この場合アマゾンと出品者)の情報の非対称性が著しく減少し、買い手が専門家でなくともリスク判断を行うことができるようになる。いわゆるレモン市場状態(注)から脱出できるのだ。

注)レモン市場とは、経済学において、財やサービスの品質が買い手にとって未知であるために、不良品ばかりが出回ってしまう市場のことである。

情報の非対称性の問題

話をAIに戻そう。
先述のように、AI開発の現場がなぜそのような事態に陥るかというと、買い手と売り手の間に恐ろしいほどの情報の非対称性を持つからだ。もっと言うならば、開発側でさえ、アルゴリズムやライブラリを開発している側と、それを利用して二次開発する側には信じられないほどの情報格差(技術力と言っても良いかも知れない。例えばGoogleと他の会社間)があるのだ。では、このAIレモン市場はどうなっていくのだろうか?

簡単なモジュールをつなぎ合わせるだけで誰でもAIが実現できる、というサービスモデルが存在する。これもひとつのアプローチではある。しかし、データから仮説を立て、正しいデータを収集し、学習させ、その結果を検証する、という一連のジョブをこなせる人は現状極めて少ない。結局はそれほどの市場は作らないだろう。一連のクラウドサービスはこういったことをエンジニア向けに行っているが、これも開発効率やサーバーの初期費用の分散モデルであって、根本的な解決には遠い。

そうなると、やはり、唯物的にできることを定義したパッケージソリューションが当面の現実的な解になる。前にも少し触れたが、ベーカリー向けのレジ精算システムなどは良い例だ。多少判別が難しいパンがあったとしても、ベンダーには経験もあるし、運用のコツもわかっている。導入を検討している店の実際の商品で実験する必要はあるが、おそらく、その費用くらいは営業経費としてこのベンダーが負担することになるだろう。やはり、実績ベースでの開発はリスクが少ないし、情報の非対称性も軽減される。

発注者側のリスクヘッジとしては、いかに自社の状況をデータで表せるようにしているか、ということだと思う。ベーカリーの例でいうならば、レジにどれくらい並び、どれくらいの人件費がかかっているか、一秒時間を縮めることができたら、どれだけの費用削減になるのか、というデータや推測だ。100%の精度をAIに求めることはできないから、90%だったらどうなるか、というシミュレーションが必ず必要になる。開発元をコンペにかけて、90%と92%の精度の会社を比べてもあまり意味がないのである。

完璧なパッケージとしてのAIが出現するまでの期間、利用する側の企業にも、それなりのリテラシーが要求される。AIの技術は、AIを利用する前から企業淘汰の波をもたらしているのかも知れない。