大画面高解像度では映像制作セオリーを疑う必要がある

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4Kや8K、VRの映像制作においては、従来の映像制作とは異なるアプローチやその検証が必要であると考えている。特にライブビューイングを含めた、300インチを超えるような大画面による表示の場合とVRにおいてそれを顕著に感じる。

一般的な家のテレビはの画面サイズは30インチから50インチくらいが中心だろう。もちろんこれより小さい20インチ台や、60インチを超えることもなくはないが、100インチ超え、300インチということは考えにくい。

16:9の画角の場合に
140インチで縦が174センチ、
200インチで縦が248センチ
300インチで縦が373センチ
500インチで縦が622センチである。
つまり150インチ以上から、人物を縦方向に等身大に表示することができるわけだ。200インチくらいで一般的な建物の天井高に近づき、300インチを超えると、ある場所にいるときに肉眼で見ているのと同じように表示することが可能になってくる。

リアルな世界では、カメラワークもズームも人間の目では出来ない。脳の中で必要な場所に意識を集中させることによって、ズーム的な見え方をしている。
たとえばこのズーム(拡大)というのは、低画質、低解像度、モノクロ、小さい画面といった技術的、物理的制約の中で、我々の先輩が表現手法、心象表現として編み出してきたテクニックである。これらは芸術の域まで達したのである。これらを否定するものではまったくないが、これからの時代には肉眼で見たままの状況を、別の場所で、あるいは別の時間に、現場で見たままの状況で再現(表示)することが可能になってきている。こうなってくると、カメラワークやカット割りという手法が不要または必ずしも適切とは言えなくなることがある。

仮説に基づいた検証

2017年6月に幕張メッセで行われたLEJ(Live Entertainment Japan)において、一つの試みが行われた。STARMARIEというグループのライブを、4Kでライブビューイングを行った。再生側は4K300インチのプロジェクターを用意した。このときに「カメラワーク」と「映像とリアルの混在」についてテストが行われた。

真ん中の2人はライブビューイングの映像。残り3人はリアル。このときは演出としてリアリタイムARの検証も同時に行ったので、画面の青い部分はCGである

一般的にライブ中継は複数のカメラを入れて、それぞれのカメラがカメラワークを行い、スイッチャーで切り替えて表示する。収録であればパラ収録して編集でこの切り替えを行う。この特のテストでは、こうした通常のカメラワーク&スイッチングをライブビューイングで見た場合と、センターカメラを1台だけでムームを固定して、カメラ位置から見える画角と同じものをライビュビューイングで表示させた。同じ楽曲をこの2つの方法で比較した場合に、誰もが後者のほうが圧倒的にリアルであると感じたのである。300インチ大画面に4K画質でアーチストの顔がアップで表示されると、不自然に感じたからである。またカメラ切り替えも集中力を欠く方向に作用することがわかった。

またSTARMARIEは女性5人のグループなので、このうち2人に現場側でパフォーマンスしてもらいライブニューイング側に映像を送り、残り3人はプロジェクターの映像の前でパフォーマンスを行ってみた。すると後者でも十分臨場感を感じることが出来たのである。これを8Kで行えばそれはさらにリアルになることは容易に想像できる結果であった。このことはメンバー5人が5箇所に分散してパフォーマンスすることによるビジネス的な可能性を確認することが出来たのである。

なおタイトルバックの写真は、2017年のCESにおいてソニーブースに設置されたCLEDISに表示された映像と、リアルなダンサーのコラボレーションの様子である。

映像に関する様々なパラメータの検証の必要性

超高解像度映像、デジタルシネマの時代に入り、撮影、グレーディング、表示の各時点において、解像度、フレームレート、カメラワーク、表示サイズ、プロジェクターかディスプレイかなど、これまでの映像の世界とは比較にならないほど多くの様々なパラメータが存在、選択できるようになった。こうした議論の整理のための比較テストが行われた例をこれまで聞いたことがない。

こうした検討においては、はじめに比較検討するパラメータの検討抽とそのための撮影シーンの設定を行い、比較検討しやすい映像を制作してみるのがよい。想定される比較するべきパラメータには以下のようなものが考えられる。

・映像パラメータの比較
撮影機材、レンズ、解像度、シャッタースピード、フレームレート、
圧縮ビットレートなど
特にシチュエーションごと、コンテンツ内容ごとの解像度、シャッタースピード、 フレームレートの検証は重要であると考えている。実際の制作現場ではここの議論は明らかに不足したままである。

・HDRの比較
深度、色域、輝度、解像度との関係

・撮影シーンの比較
カメラワーク:上下左右移動、PAN、ズームなど
被写体:動きの有無、ハイコントラスト、人物、風景など

・カラーグレーディングの比較
グレーディングツールによる違い(必ずしも比較というわけではない)

・再生表示環境の比較
ディスプレイとプロジェクター
画面サイズ

映像に加えて、音の扱いがさらに重要かつ難解である。映像がリアルになればなるほど、2chや5.1chでは不足する部分が出てくるのと同時に、カメラワークに応じた音の切り替えを行うと、各シーン内での臨場感は確実に向上するが、それが故に切り替わるたびに瞬間移動が行われたような感覚となり、結局は違和感となってしまうのである。

こうした一連のことは、コンテンツ内容、視聴環境によって答えはたぶん一つではない。一つだけはっきりしていることは、いままでのような、いまとなっては臨場感が足りない映像で、家のテレビが中心の映像制作では問題にならなかったことが、今後そうではないことが増えていくだろうということだ。