IoTとAIは海外出張費を安くするか

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筆者は海外出張が多い。すると頭を悩ませるのは、航空券代である。いくら会社の経費だからといっても無駄遣いはできないし、厳しい出張規程の会社も少なくないだろう。一方、原油高騰のあおりをうけて燃料費は高まる中、航空会社も利益率向上のために一昔前よりも小ぶりな機材を使い回して搭乗率向上による単価上昇を目論んでいる。需要と供給の利害はなかなか一致せず、しわ寄せは常に出張者本人に向かう。

ところで航空業界は、この「搭乗率」に振り回され続けている業界でもある。だから航空会社は旅行代理店に航空券をバルク販売し、その余剰在庫が突然「大安売り」されることは、昔からあった。現在は、航空券がネットで流通することが一般的になったことで、こうした突然発生的なバーゲンに拍車をかけている。それを追いかけることによって、安価または高いクラスの航空券の購入といった、予期せぬ好条件を享受できることがある。

しかし現在は航空会社もAIを導入し、需要予測に連動したレベニューマネジメント、すなわち収益調整を前提とした弾力的な価格設定を導入し、こうした好条件(航空会社にとっては悪条件)の発生を抑制するような努力を続けている。実は、レベニューマネジメントに関する研究や取り組みは、歴史的に見ても航空業界が先駆けであり、すでに1990年代にはその数理的メカニズムに関する研究論文が発表されている。彼らには実績があるのだ。

こうなると、安価な航空券を確実に入手するには、たまに発生するラッキーに期待しながらも、航空業界側が考える「原理原則」に従うことがセオリー通りの調達、ということになる。それはすなわち、できるだけ時間に余裕をもって早めに出張計画を立て、遠い未来の航空券を予約する、ということだ--こう書いてみると、「それができたら世話ないよ!」という声が聞こえてきそうだ。なにしろ筆者も、国内外を問わず出張が増える大きな理由は、「突発的な対応の処置」である。

 

ここで、筆者が実践する方法を、一つお教えしよう。それは、「確実に出張するであろう将来の予定」を見定めて、直前の出張とうまく絡めること。である。

たとえば今年(2018年)11月後半に欧州への2泊の出張が急遽決まったとする。この航空券を正直に買うと、結構高い。一方、この出張の他に、来年(2019年)9月に欧州へ出張する予定が決まっていたとする。そうすると、この二つの出張を組み合わせることが可能となる。

まず、直近の2018年11月の出張を旅程A、来年2019年9月の出張を旅程Bとした場合、往路A(日本→欧州)と復路B(欧州→日本)を組み合わせると、見かけ上は往復に10ヶ月を要する往復航空券が仕上がる。先ほどのセオリー(遠い未来の航空券の予約)通り、この航空券は旅程Aの単純往復よりも、ずっと安い。

では直近の出張の帰国(復路A)はどうするか。これは、復路A(2018年11月)と往路B(2019年9月の日本→欧州の航空券)を組み合わせた、欧州発券の航空券を購入すればいい。これも前述同様、遠い未来の航空券なので、ずっと安い。しかも日系航空会社の場合、欧州での営業力が弱いこともあって、海外発券は日本発券よりも安価に設定されていることが少なくないため、さらに安く買える「ボーナス」が期待できる。

こうした方法で、筆者は欧州出張2回分の航空券代を、結果として40万円近く費用削減することに、過去何度も成功している。もちろん「同じ地域への出張」「確実な将来の予定」があることなど、いくつかの条件が揃う必要はあるが、現地発券といっても航空会社のWebサイトで普通にできることなので、何ら特別な技術は必要ない。正直、オススメである。

しかし、ここで終わらせてしまうと、GASKETの論旨との距離感が残ったままなので、この壮大な「枕」を踏まえて、ここからが短いけれど、本題。

こうした方法は、前述した前提条件の他に、いくつか厄介な課題がある。まず「将来の予定」を担保に入れてしまうこと。もしその予定が変更となった場合は、予定変更やキャンセルの手数料が発生するし、原油価格や為替相場の変動もある程度は折り込む必要がある。また会社精算の場合、会計期をまたぐ可能性や、プロジェクトごとの原価計算等が複雑になる可能性もあり、経理・総務担当やその先の税理士・会計士に嫌な顔をされる、ということもある(ただし会計処理自体は可能だし、会社の利益に貢献することでもあるので、ぜひ交渉してみてほしい)。

それらを克服したとして、なお残る課題は「面倒くさい」ということにある。すなわち、海外出張の、しかも航空券の手配ごときに、ここまで時間と手間とリスクをかけるのが馬鹿馬鹿しい、ということだ。筆者はいわば「旅行マニア・航空券マニア」でもあるので、こういうことを考えて調べること自体が一種の娯楽なのだが、そうでない方が世の中の大多数であることくらいは、さすがに承知している。

だとしたら、ここでこそIoTの出番ではないだろうか。すなわち、利用者(この場合は出張者)の状況をつぶさに把握し、その時々で最適な「航空会社との交渉条件」を整理してくれる、利用者サイドに立った(または利用者のエージェントとして振る舞う)IoTサービスの存在である。

実際、本来の旅行代理店とは、旅行業界の代理店ではなく、旅行者の代理店であり、この「面倒くさい」を解消してくれる存在であったはずだ。この原点に立ち返ったサービスを実現するためには、旅行者に徹底的に寄り添い、旅行者の利益を優先して考えるサービスが必要である。

そのようなニーズを考えてみると、Googleがスマートスピーカーの普及を急ぐ一方、Googleフライトというサービスで旅行者サイドに立った航空券のアグリゲーションと代理業サービスに参入している狙いが見えてくるし、そしてスマートスピーカーがIoTの「先兵」ことも、より鮮明にイメージできるだろう。

それでも、Googleが本当に「旅行者の側に立ち続ける代理業」になれるのか--この問いを突き詰めていくことこそ、IoTとAIを組み合わせたビジネスの本懐として、考えていくべきポイントではないだろうか。