【温故知新】CMローカル差し替えを実現させた新サービス「ブランコ」【2008年】

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この記事は2008年の4月に、日本経済新聞社のIT-PLUSに筆者が寄稿したものである。10年前と今は何が変わったのか変わっていないのか。以前に書いていた記事の中には、今読み返すといろいろな点で参考になる物が多いので今後いくつかをピックアップしていこうと思う。なお記事本文は当時公開されたもののままで、編集は加えていない。

 

IPTVをめぐる様々な動きが活発化しているようであるが、先日ソニーがスタートさせた「branco」(ブランコ)はテレビ局のビジネスモデルに対して一石を投じた注目すべきサービスである。いったい何が始まろうとしているのかをお話ししてみたい。

ブランコとはどんなサービスなのか
ブランコはソニーマーケティングのPC向けの無料IPTVサービスである。その特徴を列挙すると
①PC向けの無料IPTVサービス
②VODではない編成型のライブストリーミング放送
③番組を見ながら他の視聴者とチャット可能
④視聴傾向を元にしたレコメンド機能
⑤視聴者属性に合わせたCM配信
こうしたブランコの特徴は今のテレビが持つ機能に加えて、今のテレビに欠けているレポイントを追加させているとものだ。視聴できる番組は現在のところエンタメ系を中心に6チャンネルでのスタートとなっている。

課題を掲げるとすれば
①専用アプリケーションのダウンロードが必要
②NTTのBフレッツとIPv6対応のルーターが必要
③無線LANでは使えない
④属性登録が必要
などのように敷居が高く、誰でもお手軽にというものとは言い難い。とくにIPv6関連は導入時のガイダンスや対応機種に対する情報など考慮すべき点は非常に多い。

テレビを共有すると言うこと
ブランコの特徴の中では、テレビの良さである一斉同報性を利用した視聴者間の感動の共有を実現させている点が上げられる。これは以前本コラムでも指摘したように、かつてお茶の間で行われていたテレビを中心とした家族間のコミュニケーションを現代風にネットを利用して行おうとする試みでもある。こういったリアルタイムのコミュニケーションはVODではなし得ないものである。しかし単にチャットルームを設置するだけで見ず知らずのもの同士が自然発生的にコミュニケーションを始められるかといった課題は残り、まだまだ工夫が必要だ。また視聴傾向に合わせたレコメンド機能は多くのHDDレコーダーやTiVoではすでに実現していた機能であり取り立てて目新しさはない。

CM個別配信=ローカルCM差し替え
視聴者属性に合わせたCM配信というテーマはマーケティン的には期待値がきわめて高い。これまでのテレビはF1M1といった比較的粗い属性分けが番組単位で行われてはいるが、同じ番組を見ている人はCMも含めて同じものを見ている。これまではそれ自体がテレビのメディアとしての強みであったわけだ。しかしながら昨今の詳細なマーケティング手法においてはもの足りなさが指摘され続けてきた。

ブランコは番組配信のストリーミング部分と個別CM配信部分をシステム的にも切り離している。テレビ局で言うところの「ローカル差し替え」と同じように、番組本編は共通であるがCMタイムになると各地の放送局ごとに異なるCMが放送されるケースがある。ブランコではCM部分はローカルのPCにあらかじめCM素材が蓄積されており、CMタイムに入るタイミング、テレビ局で言うネットCUE信号を受けて、年齢や性別などに応じたCMをローカルPCから再生しているのである。そして規定のCMタイムが終了すると再び番組本編にきちんと戻ってくれるのである。これにより同じ番組でも、20代女性は化粧品のCM、40代男性はゴルフ用品のCMといったようなことが可能になっている。これはまさにテレビ局のキー局+ローカル局というネットワークそのものであり、それをインターネットとPCソフトウエアだけで実現させている点がブランコの最大の特徴であると言える。加えて詳細な視聴ログも把握することが可能である。

ブランコはテレビの未来に一石を投じた
ソニーはかつてHDDレコーダーや蓄積型放送などの検討の中で、今回と同様の試みを何度か検討してきたがこれまで実現には至らなかった経緯がある。今回はこのCM差し替えという禁断の果実をPC上ではあるが実現させた。
昨今はIPTVに関する動きが水面の上でも下でも極めて活発である。特に地デジのIP再送信や放送そのもののIP化など2011年以降に向けて目が離せない状況だ。とりわけ地上波民放のビジネスモデルそのものであるCMのありかたについても、ブランコが実現させたローカル差し替えによってマーケティング的にきめ細かいサービスを行うことは技術的には問題ないことを立証した。もちろんこのまま地デジ再送信などでCM差し替えを行ってしまえば民放テレビのビジネスそのものが成立しなくなるのであるが、広告主や視聴者の要請がこうしたきめ細かさを望むのであれば、テレビのビジネスモデルを含めた根本的な検討が制度も含めてなされて然るべきであろう。その意味で今回のブランコはテレビの未来に一石を投じたことは間違いない。

(本稿は2008年4月に日経IT PLUSに寄稿した記事です。)