ドイツ国鉄の出来の悪さと、IoTやAIがすぐにできることは?

AI/Digital Signage/IoT /

先日、欧州出張でドイツとオランダを訪れた時のこと。フランクフルト空港から列車で1時間程度の目的地に向かうため、夕方の高速列車を手配したのだが、かなり劣悪な体験だった。
まず、列車の遅延。それも数分ではなく、20分強は遅れていた。日本の感覚では、こうなると何かトラブルでもあったのかという感じだが、そうした説明は口頭でもサイネージでも一切なければ、周囲の乗客には慌てている素振りもない。

次に、編成。当初予定されている車両の長さではなく、何両かが増結されていた。それだけなら日本の鈍行列車等でもたまに見られるが、問題はこれが特急列車であり、座席指定があるということである。もちろん乗客の多くは混乱している。しかし列車は遅れているので、駅員からは「早く乗れ」とせかされる。一応、自分が指定されている車両と思わしきところに乗ってみるが、半ば当然のように、車両が異なっている。しかもその表示がないので、自分がどの車両に乗っているのか分からない。しかも、2編成を接続した構成なので、連結部分をまたぐことができず、発車した後は車両の移動が難しい。

結果として、1時間ほどの列車の旅が、完全な立ち乗りになってしまった。ロングフライトの後だっただけに、目的地に着いた頃はさすがに疲労困憊。その日は早々にビールをあおって床に就いてしまったのは、言うまでもない。

しかしこれをドイツ在住の知人に話したところ、「そんなの当たり前、ドイツ国鉄を信用する方がどうかしてる」と笑われてしまった。特に、午後遅くなっていくにつれて、遅延は深刻になり、それどころか勝手に運休や目的地の変更さえしばしば生じるという。

ドイツといえば、半ば神経質だと揶揄されるほど、正確さや精密さを文化として誇っていたという印象があった。だから正直、ドイツ国鉄の「出来の悪さ」と、ドイツ在住者があっけらかんとそれを受け入れていることに、正直驚いてしまった。それゆえに、帰国後もどうしてもそれが気になって、いろいろ調べてみた。すると、単に私が不運だったのではなく、前述の実態が数字で明らかになっていた。

まず、ドイツ国鉄(Deutsche Bahn)自身のレポート。私が今回体験したのは、この中で”DB Long-Distance”、つまり長距離列車だが、この正常運行率が直近の2017年で78.5%、つまり4本に1本は遅延しているということである。そしてこの状況はここ数年ほとんど変わらない。

こうした状況はドイツ国内でも社会問題として指摘されているようで、公共放送のドイチェ・ベレも改善に向けた取り組みが動き始めたことを、今春記事にしている。つまり、少なくとも春先の時点では、状況が何ら改善していないことが分かる。

さらにボストンコンサルティンググループが2017年に発表した欧州各国の鉄道サービスの比較調査においても、ドイツはティア1(最上位)グループの一員でありながら、遅延を含むサービス品質の評価については芳しくない。

どうしてこうなったのか。筆者は鉄道の専門家ではなく、詳細な理由は分からないので、あくまで素人の当てずっぽうだが、一つの理由として欧州の鉄道自由化(上下分離と国際乗り入れの活発化)の影響があるように思える。すなわち、欧州域内の鉄道トラフィックは、絶対量の増加とサービスの多様化が同時に生じたものの、運行上の巨大なボトルネックである軌道と駅がそのままであり、そもそも無理が生じている、ということだ。

欧州の地図を眺めてみれば一目瞭然だが、ドイツは西欧の正しく中央部に位置しており、多くの周辺国から大量にトラフィックが流入・流出していく。ドイツ政府が諸外国に対して比較的開放指向の政策を採っていることから、おそらく鉄道トラフィックの総量も上昇しているだろうし、それによって複雑さも指数関数的に増しているはずだ。反対に、より地理的に「閉鎖的」な英国は、ドイツやフランスよりも遅延が少ない。

そのことは、前出のドイツ在住の知人による「午前中は割と運行が安定している気がするんだけどね」という証言(?)からも経験的にうかがえる。トラフィックの流出入が鉄道システムに与える影響が相対的に小さい午前中は、それほど遅延が起きない。しかし「歪み」は徐々に蓄積されていって、遅めの午後から夜にかけては必ずといっていいほど運行が乱れる、ということである。実際、ドイツからオランダへ向かう早朝の特急に乗った際は、ほとんど遅延がなかった。

こうした問題に直面した時、素人として思いつくのは、信号システムの最適化による状況の改善である。しかし実はこれが容易ならざるアプローチであることは、それこそ我が国の新幹線システム輸出の苦い経験からも明らかであろう。特に新システムへの投資とサービス提供者の移行促進は、理屈上は一つの解決策だとしても、誰が費用負担するのかという問題がある。つまり、問題解決は、まったく容易ではない。

ここでGASKETとしては「IoTで一挙に問題解決!」と啖呵を切ってみたいところだが、それこそインダストリー4.0の母国であるドイツをしてこの状況となれば、そう簡単に空手形を切ることもできない。欧州の鉄道ほど複雑化しているシステムでは、IoTだけで問題解決を図ることは、現実的ではない。

ただし、そうした前提を踏まえながら、顧客満足を改善することは可能のはずだ。たとえば本稿の冒頭で「説明がない」と言ったが、これは筆者のような海外旅行者にとっては不安を、ドイツ在住者にとっては苛立ちを、それぞれ与えることになる。多くの人がスマホを使いこなせる時代ならば、少しの手がかりでも情報が与えられることで、選択の自由度は上がるし、少なくともネガティブな気分は落ち着くだろう。

この「少しの手がかり」を提供するかが、おそらくIoTとAIが目指す、「すぐにできること/着手すべきこと」のはずだ。そのためには、情報をどこでどのように取得するのか、その正確性をどう検証するのか、それを瞬時に処理してより利用者の求める情報に近づけるにはどうすればいいのか、そしてそれをどのように提供(デリバリー)すればいいのか、といった「合わせ技」が必要になる。

我が国においても大都市圏の密集度は上がっており、普段の公共交通機関が混雑したり軽く遅延することは、少しずつ増えているように感じられる。そしてこのトレンドは当面変わらないし、ボトルネック解消もままならない。ドイツを他山の石としながら、できることを少しずつ、前に進めていく必要がある。