サイネージを異型にするメリットと運用

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近年の液晶モニターは、アスペクト比16:9が定形となっている。しかし、商業施設などで映像を活用するにあたっては、必ずしもそれが最適な形状とは限らない。写真や絵画、アナログ時計などに模したかたちで映像を使いたいときにも、16:9の比率が普段見ているテレビやPCモニターを想起させてしまい(実際に同じ装置なのだが)、演出を阻害してしまう。そのようなときは、さまざまな形状やレイアウトに設置できるLEDディスプレイを使うほか、液晶モニターでもアスペクト比の異なるものを活用したり、画面の一部をマスクして表示領域の形状を変えたりして映像を活用する。

いくつか例をあげる。

東京・銀座の複合商業施設「GINZA SIX」では、フロアマップや各フロア案内を2つの液晶モニターを並べて表示しているが、内装に合わせ、あえて一部をマスクして表示領域を平行四辺形にしている。これによって、モニターらしさを軽減するとともに、施設の来訪者は一度でもこれを見れば「この平行四辺形のモニターはフロア案内である」と理解できるようになっている。建物内に広告や販促、案内などのさまざまな映像があふれるなか、モニターの形状で役割を明示するのは、一目で理解できてとてもわかりやすい。サインとしての機能を高めるには、映像を工夫するよりも、設置位置とともに、モニターの形状や筐体に一工夫をして明示するほうが効果が出やすい。

同じく銀座にある百貨店「マロニエゲート銀座2」のハナドケイは、正面の時計に液晶パネルを使っている。時間帯によって色合いが変化するほか、15分ごとに花図鑑が表示されたり、正時になるとロゴが表示されたりして、映像ならではの演出を行っている。表示されている時計アプリは、現場の照明に合わせて秒針などの影を調整するなど、細かい工夫を重ねてリアルさを高めている。しかし、もっとも重要なのは、筐体でモニターの一部を隠して円形にしていることだ。これにより、一見して時計だと理解できるようになっている。

そのハナドケイの背面には、アスペクト比9:58の超縦長のモニターが円周上に30センチほどの間隔を置いて9面並び、全体で1つのキャンバスとしてCGや写真などの映像を表示している。ここでは、モニターのあいだに隙間をつくって後ろにある木目の柱を見えるようにすることで、映像を活用した演出を行いながらもデジタル色が強くなりすぎるのを防いでいる。

ただ、このようなサイネージを運用するのは簡単ではない。円周上に設置されているために9面分全体を見渡すことができず、いちどに見えるのは3面だけあることや、それぞれのモニターの隙間を考慮して映像を準備しなければならない。また、映像のサイズは、9面および隙間部分を含めると横10K、縦4Kと大きなものになる。マロニエゲート2では、季節で切り替わる店舗の内装に合わせて放映する映像も切り替えているが、そのためには、この特殊な環境を理解し、これに合わせた映像を制作できるチームが必要になるうえ、内装デザインを行う部門との連携が必要になる。恒久設備で映像演出を行うには運用体制が重要になるが、このような異型の場合は、とくに注意が必要になる。

また、LEDビジョンは、環境に合わせて自由な造型で設置できることを利点に利用されてきたこともあり、アスペクト比に縛られない設置例が多い。東京・池袋の商業施設、サンシャインシティの噴水広場にあるLEDビジョンは、設置箇所の横幅と階高に合わせるかたちで設置されており、その大きさは横幅15.4メートル、高さ4.3メートルと、アスペクト比は16:9よりも横長となっている。迫力のあるワイドな画面と噴水と連動した映像演出で見る人を楽しませている。

この噴水広場は、イベント会場として使われることが多く、LEDビジョンはその演出用機材として活用されるほか、広告枠としても提供されている。そのため、先にあげた噴水と連動した専用コンテンツだけではなく、一般的なアスペクト比16:9の映像を放映することも多い。そのときには、中央に16:9の動画を放映し、両サイドのスペースには静止画を表示させている。

このような形であれば、その他のメディアで使用している16:9の映像をそのまま活用できるうえ、両サイドは異形とはいえ静止画を用意するだけでよいため、異型のモニターにも関わらず、運用コストは低く抑えられる。また、商業施設では、この両サイドの静止画が重要な役割を果たす。映画館や劇場では、映像を視聴するのは目的をもった人であり、最初から最後まで見るのが基本のため、メインの映像だけを表示すればよい。しかし、商業施設のイベントは、途中で偶然通りかかる人が多い。そのような人にとっては、舞台上で何が行われているのかを理解するのは難しい。そのとき、ビジョンの両サイドにイベントに関する情報が表示されているれば、とてもわかりやすく、イベントに途中からでも入り込みやすくなる。一般的な映像のアスペクト比が16:9だからこそ、商業施設のイベント会場に設置するビジョンでは、それよりも横長にしたほうが利活用に適していることもある。

また、愛知県日進市にあるショッピングモール「プライムツリー赤池」のプライムホールも、アスペクト比が16:9よりも横長のビジョンが設置されている。30分ごとに放映される時報のほか、イベント情報やテナント情報など更新頻度が高い映像についても、ビジョンのアスペクト比に合わせた形で放映されている。ウェブサイトの情報をもとにしてモーショングラフィックスを自動生成するツールを導入することで、異型のコンテンツを低コストで放映している。タイムリーな情報を放映していくのであれば、このようなツールを導入するのが好ましい。