オープンソースハードウェアとIoT・AIの世界観

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IoTとAI。現代では聞かない日はないといえるほど、これらの言葉は話題となっている。そして、この二つに密接に関わるもうひとつのキーワードとして、オープンソースという考え方がある。オープンソースで提供されているものは、誰でも自由に使えて、決められたライセンスの管理下で、自由に改変し、再配布することが可能である。ソフトウェアの世界では、この考えにより開発されたものが深く浸透しており、ハードウェアの世界でも徐々に広がりつつある。

今回は、ビズライト・テクノロジーの田中博見さんと 企(KUWADATE)のクロサカタツヤさんのIoT、AI、オープンソースハードウェアについての対談を紹介する。

IoTの開発のスピード感はオープンソースハードウェアでなければついていけない

− IoTデバイスの開発は、従来のハードウェアの開発と比べて非常にサイクルが早く、田中氏は以前から「限られたリソースしかないなか、わざわざ情報の少ないところにいって、わからないことを乗り越えて開発をしていては、この急激な社会の変化に追いついていけない。わからないところはわかる人に聞けばいいし、任せるところは任せる。ビジネスモデルを早く検証するのが必要。そのような問題を排除するためにもオープンソースが必要だ」と述べています。やはり、IoTの世界ではオープンソースハードウェアが主流になっていくのでしょうか。

クロサカ そうですね。田中さんの言った通り、スピードが速いというのはまずあります。そのアプローチ自体は間違いないと思います。そのスピードの速さも含めて、IoTは分野が非常に広いです。ある意味、何でもIoTになってしまいますから。そういう時に、最終的に便益を受け取る多くのエンドユーザーは、あれがしたい、これができるはずだと大変わがままになります。

お仕着せの決まったパッケージのようなハードウェアやソリューションでは、このようなエンドユーザーの変幻自在のニーズに対応することはできません。これがIoTの面白いところであり、難しいところでもあります。便益を受け取るというとき、受け取る側には必ず人間がいます。人間のためのIoTというのが本来あるべき姿であり、それがないIoTは何も意味がありません。

今、我々はあらゆるソフトウェアサービスであるとか、あらゆるネットワークサービスのおかげで、極めてわがままになっていると思います。プラットフォームすら即座になくなってしまうかもしれないような激しい変化の中にいる時に、3年~5年と長い時間をかけて開発しても、その時にはすでに遅れているので売れるわけがありません。そのリスクを避けるためには、オープンソースしかないでしょう。マーケットから考えたら当たり前じゃないかという気持ちです。

田中 まさにそれです。かつては、オープンソースソフトウェアのリナックスを持って行ったら断られました。でも気づいてみたら、今は世界中のサーバーがビッグネームでさえリナックスベースです。ハードウェアの世界も、気がつけばオープンソースが一般的になっていると思います。

オープンソースの方が優れているサステナビリティ

− IoTの開発スピードについていくために不可欠なオープンソースハードウェアですが、もうひとつ懸念されることがあります。それは、そのハードウェアを作っている会社や財団が作るのを止めてしまったときの保証です。同様のハードウェアを手に入れることはできるのでしょうか。

田中 博見さん

田中 最近はよく、ハードウェアのサステナビリティ的なことを聞かれます。それを作っている会社や財団が、製造を止めてしまったらどうなるのかと。私の場合だと、それなりの企業体力があってその会社や財団がもう製造を止めるというならば『私がやります』といいます。

なぜなら、年間1000万台、2000万台と売れることがわかっているからです。オープンソースなので、もちろんボランティア精神とかそういうものも必要ですが、アーキテクチャがわかっていて誰かが面倒をみてくれるので。そういう意味では、むしろオープンソース的なアプローチの方が、スピード感も速くなり、サステナビリティの保証さえ強くなってきているような気がします。

クロサカ ソフトウェアの世界のオープンソースは、まさしくその発想ですね。むしろサステナブルにするためにオープンソースにすることが多いです。ただ、オープンソースであることはサステナビリティのために大事ですが、極端な非対称になってはいけないというのはあります。オープンソースであると同時に、それを面白がって作る人のコミュニティというのを維持していくことが、次のサステナビリティの問題として極めて大事だと思います。

見えなかったものを見えるように……人の行動を幸せへ向かわせるIoTの世界

− このように、オープンソースのハードウェアやソフトウェアを利用することで急速に広がりをみせるIoTの世界ですが、今後IoTは、人や社会にどのような影響を与えていくと考えているのでしょうか。

クロサカ やはり、生活者であり物を作る側であり、いずれの立場でも楽しく仕事をしたい、楽しく生活したいという前提があると思いますので、できるだけ多様なサービスをカバーできるようなテクノロジーがあった方がいいだろうなと思います。

そういうことが、IoTに期待されていること……PCやスマホではなくて、その先に行きたいと思っているので、今IoTに注目が集まっているわけです。そこに辿り着くためには、いろいろなビジネスの方法論が必要です。オープンソースだけではなく、みんなで作っていこう、みんなで楽しんでいこうという状況を作ることが重要になるのではないかと思っています。

田中 IoTは、人間側に影響を与えることが多くあります。例えば、トンネル工事では、どんどん掘り進んでいく際に、安全のために周囲の面がどれだけ動いたかどうかを調べないといけません。今までは、測量士がその都度基準点を設けて、高価な測量機で測定をしていました。

ところが、あるお客様は、私たちが開発したIoTゲートウエイを使い、センサーをつないでそのセンサーの場所をずらすことなく相対距離で測ればいいのではと実験してみたところ、測量で行っていたことと同様の目的を達成できたのです。こうなると、測量士にはもっと高い精度が必要な現場で動いてもらおうとか、アプローチが大きく変わってきます。これは手抜きではなく、IoTが、今一度人間にどのような作業をすればいいのかを考え直させている例だといえます。形骸化したシステムにテクノロジーで気づきを与える……IoTによって、もっと違うことを考えられるようになります。人間の育て方自体を変えている感じはします。

クロサカ 僕は、そこがIoTの本質的な価値だと思っています。例えば、10円でやってきたことが8円になりますというコストダウンは、それ自体に価値はあるのですが付加価値ではありません。

これを突き詰めていくと、デフレになってしまい、コスト競争はそんなにハッピーな結果にはなりません。我々としては、『そもそも、これは何だったっけ?』というメタ目線での気づきがないといけないと思います。そこに気づくと、自分で行動を変えていけるはずなのです。そのサイクルに入っていくことが楽しいですね。それこそがIoTやAIの本質なんじゃないかなと思っています。

正しくIoTが機能していることにより活きるAI

− 「IoTは人に気づきを与える。見えなかったものを見えるようにするテクノロジーである」とお二人は述べました。それを受け、IoTとAIの関係性、AIと人間との関係性などについてさらにお話いただけませんか。

クロサカタツヤさん

クロサカ 見えなかったものを見えるようにすることは、あらゆる技術要素と人間の関係というのを普通に考えていけば、辿り着くであろう結論だと思います。そこにちゃんと光を当てて仕事をしていくことが大事ですし、それがあるからこそ次のAIが初めて活きてくるはずなのです。
逆にそれがなかったらデタラメのAI……必要とされる情報が、何も投入されない、何も識別していないAIになってしまいます。やはり、AIもしばらくの間は人間のためになるAIしか意味がないはずですし、もしかすると、今後ずっとそうであるかもしれません。

だとすると、人間をどう楽しませてくれるのか、どう便利にしてくれるのか、どう楽にしてくれるのか、ということになります。IoTを利用することで、『今フードコートのあのレストラン空いているよ』『お客さんが何人いるよ』というようなことがわかるようになりました。IoTで収集できるデータは、いわば「結果」の部分です。その結果をもとに「予測」をすることで、AIに初めて付加価値が出てくるのです。

エンドユーザーである人間に対して直接的に働きかける際に、人間がそれによりどう行動を変えるかということを踏まえ、行動を変えるときにどれだけその行動変化に寄り添えるAIなのか、いいリコメンドを出せるのかが大切です。

もしかしたら、『食事がしたい』という要望に対して、『●●というレストランが空いていますよ』というリコメンドだけではなく『朝ごはんを食べてからそんなに経っていないので、食べなくてもいいのでは』というリコメンドもあるかもしれません。

このようなことをできるのがAIなので、ここまでできるかは正しい情報をAIが取得しているかに直結すると思います。それを実現するためにも、IoTがいろいろな場所で正しく機能していることが必要不可欠だと思います。

AI導入によって『成約率が何%上がった』というような数字を見ると、人間はいったい何をやっていたのだろう、と思うことがあります。人間とコンピュータが碁で対戦したとき、解説の方が、コンピュータの指し手について『意味がわからない』と言ったことがあります。意味がわからなかったのは、解説の方の美意識に合っていなかったというだけの話ではないでしょうか。いかに人間の美意識がいろいろな可能性を邪魔しているのか、それがAIの導入の弊害になっていることがあります。

インテリジェンスなセンサーの代わりとなるAI

田中 将棋の時も、そのような話はありました。通常の棋士が打たないような初手を打った……それは、AIが学習した棋譜の中にもない手でしたが、何十手か進んでいくと、最終的には定跡になるための最初の一手をやっていただけで、順番が違うだけだったのです。

ただ、最近のAIへの姿勢が良い悪いというのではなく、今のハードウェアとの組み合わせの中で考える中で、どのあたりが私たちとAIとの接点かという切り分けがようやくできつつあります。私としては、AIはインテリジェンスなセンサーの代わりという風に定義をしています。

例えば、CTスキャンをとったとき、非常に微細なガンを、AIは見つけられたのですが人間の医師は見つけられなかったという話があります。これは純粋に“センサーの戦い”なのではと思うのです。病気の人と病気じゃない人の写真をたくさんAIに取得させると、この小さいのはもしかしてガンかも、となります。人間の目のセンサーもかなり高度ではあるのですが、年齢とともに衰えてきます。AIにインテリジェンスな要素を与えることは、IoTとものすごく相性が良いです。人間の行動を変えさせるトリガーとなりえると思います。

見えなかった数字を見えるようにすることで人の行動を変える

− 最後に、今までの話を踏まえてビズライト・テクノロジーのこれからをお話ください。

クロサカ 現場にある課題に対して、技術をうまく組み合わせて、ローコストでやる……これが、ビズライトの特徴というか、生きる道でもあります。もっと個別で、もっと現場にあって、まだ気づかれていないことの気づきをどんどん見つけていく……、我々の生活や経済、仕事は劇的に変わるはずです。
まだまだ、僕ら自身が美意識にとらわれすぎていると思いますし、全然変わろうとしていないとも思います。変わる要素は山のようにありますから、あちらこちらにある余地を少しずつ掘り返すことによって、十分な仕事になっていくのではないかなと思いますし、そこにすごい意味があると感じています。

田中 我々が目指すものは、まさにそこだと思います。当社は技術の会社なので、どういう手法でやるというメソッドは、定義をしなくてはいけません。その定義の仕方は、やはりリナックスで育ってきています。ソフトウェアもよくわかっていて、それがハードウェアでも同じことが起こっているということがあります。時代の流れもありますが、大手がゴリゴリ押し込んでやれるような時代でもなくなってきていて、それぞれのコアコンピタンスの中で戦わなくてはいけなくなってきているのが現状です。それを支えるのが、オープンソースです。

ハードウェアにしてもソフトウェアにしても『私たちが開発しているのは独自のハードです』といったら、私たちには声はかからなくなります。どういう信頼設計をしているのかとなってしまいますから。逆に、『私たちがオープンソースハードウェアを信頼できる設計にして市場に出しています』となると、それがいいとなります。これに対して、どんなにすごい試験をしていますといっても、独自だとなかなか認めてもらえません。

オープンソースハードウェアは逆説的なことが起きていて、別の観点で見始める人が出始めているということは、使命感もありますし、ビジネス的にもこれが心地良いと思っている人がたくさんいるのだろうと思います。私は、オープンソースを使わなければやれないということ、オープンソースだからこそやれることがあるなと感じています。

− ありがとうございました。

 

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