家庭内に入り込んだメーカーが一人勝ちする

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成功したビジネスモデルのひとつに、ジレット社によるシェーバーの持ち手と替刃を分離し、持ち手を安価に販売した「替え刃モデル」がある。ジレットのシェーバーを購入したユーザーは、その持ち手を使い続けるために、特殊なジョイントを持ったジレットの替え刃を購入し続ける。消耗品の買い替え時に他社が入り込む余地を排除することで、ボラティリティの高いフロービジネスから長期安定したストックビジネスになる。このモデルは各社の垂涎となり、同業種のみならず、印刷機とインク、コーヒーメーカーとコーヒー豆、ウォーターサーバーとミネラルウォーターなど、さまざまなところに転用されてきた。しかし、替え刃モデルは、「持ち手」にあたるユーザーとの接点を維持する耐久財と、「ジョイント」にあたるその他メーカーの消耗品を排除するための仕組みを必要とするため、これを実現するのが難しいケースもある。たとえば、P&Gや花王が、同社の洗剤や柔軟剤しか使えない洗濯機を普及させるのは現実的ではない。

ところが、2017年にアマゾンが発売したAmazon Dash Buttonは、すべてを替え刃モデルに変えてしまう。Amazon Dash Buttonは、商品ロゴとボタンひとつが付いた小さな端末で、ボタンを押すだけでシールに記載された商品を注文できる。電池で駆動して通信も無線で行うため、置く場所は選ばない。洗濯機の近くに置き、洗剤がなくなりそうなときにそのボタンを押せば、新しい洗剤が送られてくる。ニーズの発生と発注までの時間を極限まで短くする形で、ユーザーと強い関係性を持つことができる。

さらにアマゾンは、ボタンを押す必要もなくなる「Dash Replenishment」をメーカーに提供している。これを利用してメーカーは消耗品の残量を検知するセンサーを組み込んだプリンターやコーヒーメーカーを作れば、残量に応じてアマゾンにインクやコーヒー豆を自動で発注する仕組みができる。ユーザーは、発注をすることさえもなくなる。そうなれば、あとから他のメーカーが入り込む余地はほとんどなくなる。このような仕組みを消耗品メーカー自身が持ち、家庭内に設置することができれば、独占的な関係を結ぶことができる。自分たちにコメを発注する米びつを家庭内に入れた米屋が、自分たちに補充液を発注するソープディスペンサーを家庭内に入れた石けんメーカーが、自分たちにビールを発注するビールサーバーを家庭内に入れたビールメーカーが、その家庭を独占することになる。

発注不要の先駆けが、江戸時代から続く「富山の薬売り」だ。置き薬を設置して集金するだけではなく、顧客帳簿を作って取引を記録していくことで、顧客の健康状態を把握し、需給予測にも利用した。そして、その顧客帳簿は、引き継ぐことでこれまでと同程度の売上を期待できるため、高値で売買されたという。家庭内に設置された「自社に発注する機械」も同じような価値を持つことになるだろう。